中学デビュー
こっちの方が一話っぽい?
時は経ち、今日から中学生だ。
幼少の頃と比較すれば、不格好でゆっくりとはいえ自力で歩けるようになった。
どれくらいの速度かというと、去年の50m走タイムで35秒。
…これでも「走った」のだ。大目に見て欲しい。
母さんが昼食の弁当も兼ねて多めに作ったコンビーフポテトや
ブロッコリー等の野菜類が大皿に残っている。
これをおかずにしろということだろう。
ドタドタドタッ!!
「ドタバタしてごめ~ん! あっ 悪いけど、テーブルにあるもの
適当におかずにしてねっ!」
「はいはい。分かってるから、気を付けて行ってらっしゃい。」
「は~い! お父さん、堅と春奈の送り、よろしく!」
「うん。任せなさい。」
「あたし、ごはん食べたし、自転車で行くから~。」
「あら、学校同じなんだから乗って行けばいいのに。」
そう言って、既に準備が整った姉は一足先に家を出る。
父さんの職場に向かう道すがら、学校に送ってもらう身である俺も
ゆっくりしていられないので朝飯をかき込む。
食べ終われば急いで着替える。
襟の部分がカチコチのYシャツが新品であることを感じさせる。
特に首元のボタンが硬くて困ったものだ。
学ラン。これも学校指定の呉服屋で試着したきり、手を付けていなかったから
質感が慣れない。それにズボンはともかく、上着が妙に重いのだが…。
「着せてやろうか?」
「待たせて悪いけど、流石にそれは恥ずかしいわ。」
◇
「送ってくれてありがと。行ってきます。」
「…うん。行ってらっしゃい。」
「…?」
車から降りると丁度、教員らしき人が通りかかった。
「あっ 先生。 息子が本日からお世話になります。」
「あぁ。雨宮さんのお父さん。そうですか、弟さんが。
あぁ、成程。君が…。
初めまして。国語を担当しています。黒田です。」
濃い眉毛と、眩しい笑顔。
上着とバッグを片方の肩に担いだ、「ザ・サラリーマン」といった格好の人だ。
父さんの顔がスッと出てくる辺り、姉の担任だろうか。
「雨宮堅斗です。よろしくお願いします。」
「よろしく。」
「あの~。うちの子、足が悪いものでして。ちょっと不安なので
教室までついて行ってもらえないでしょうか。」
「……。」
あぁ、微妙に上の空だと思ったら…そういうことね。
(う~ん。ここで俺が遠慮しても、父さんは諦めないだろうし…なあ。
ここは、とりあえず…)
「すいませんが、お願いして良いですか?」
「あぁ。いいよ。」
「よろしくお願いします。」
先生に俺を任せられて安心した父さんは、職場に向かって発車した。
(さて、父さんはまけた。これで先生を解放しても良いけど、どうせなら…。
それに、父さんと約束した手前、先生にも遠慮されそうだ。
とりあえず、昇降口まで行って様子を見よう。)
昇降口の前には4段の階段があったが、端の方に手すりをつけてくれている。
一段の段差はともかく、階段は苦手だ。自分は重心が安定していないから。
だが、手すりという支えがあれば苦ではない。ここは一人でも大丈夫そうだ。
「おお、上手いもんだな…。」
「いえいえ。」
昇降口には全校生徒分の下駄箱が所狭しと並べられ、その間を生徒達が器用に
進み、自分の名前の貼ってある下駄箱を見つけ靴を履き替えていた。
「立ったまま履き替えるとか無理だわ…」
そもそも人とぶつかるのが当たり前な密集地帯。
さて、これは流石に手伝ってもらった方が良いな…。
と、そこに。
「…ん? あ、堅ちゃん おはよ。お互い、制服似合わないね~。」
…助かった!少し先に有美の姿が見える。
岩渕有美。小1からの付き合いの長い友人だ。
「ちょっと待って。自分のついでに堅ちゃんの靴取って来るから、広いとこ居て!
あ、履くときにイス欲しいか。…ねえ、草壁!そこの余ってるイス堅ちゃんに
持ってって!」
「堅ちゃん、どこよ?」
あぁ、草壁も居るのか。安心だ。
草壁努夢。 有美と同じ頃というか、小学校で最初に出来た友人だ。
「おはよ~!今来たところ~」
「あいよ~!」
これはもう慣れたやりとりである。
「うん、うん。色々と心配無さそうだ。」
状況を見て、先生も安心したようだ。
「わざわざお手間とらせました!ありがとうございます!」
「はは。何もしてないから。
でも、ちゃんとした子なのが分かって良かった。またね。」
どうやら伝えたいことも伝わったようだ。上々のスタートだろう。
プロローグ、あのままやると長くなりそうだったので分ける事にしました^^
…前作の「ぼっち亜人」とは違い、ベースがあるので展開には迷わないんですが
「ワクワク感」が足りないかも…。でもやってみます。
良ければ感想頂きたいです。