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推理作家と女子大生  作者: 七夜 久遠
黎明の遊戯
3/5

黎明の遊戯3

 現役の大学生はやはり頭の回転が速いのだろうか。俺は手紙をメアリに見せるべきか考える。


 彼女が解読してくれるのなら、俺が考える手間は減るが……。


「もしかして、私が犯人だと思っていませんか?」


 少しトーンを落とした声でメアリが聞いてきた。鳶色の目は相変わらず、憂いを帯びている。


 メアリが犯人の可能性……それは考えていなかった。


「その可能性もあったか」


 俺が呟くと彼女はくすくすと笑う。

 女子大生だからといって油断していた。どうやら、メアリは相当な切れ者らしい。


「冗談ですけどね。はい、学生証」


 彼女は大学の学生証を取りだし、俺に見せてくる。


 ――東京○○大学医学部。


 メアリはただの女子大生じゃなく、医学部生だった。

 それを知って、なんだか安心してしまう自分がいる。


 医者になるために必要なのか、彼女は心理学も心得ているようだ。


「君がもし犯人でもいいさ。俺がこれを解読するには時間がかかるだろうし、君の意見を聞かせてもらおう」


 メアリが犯人だとは思っていないが、建前上そう言って手紙を渡す。

 きっと彼女が事件を起こすなら、もっと痕跡を残さずに殺すか事故に見せかけて警察を欺くはずだ。


 まだ出会って30分ほどだが、そう思えるくらいメアリは不思議な子だった。


 手紙はA4のコピー用紙にプリントされており、内容は以下の通りだ。



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 俺からすれば意味のない英数字と記号の羅列なのだが、メアリの目にはちゃんと文章となって見えるらしい。

 手紙を見ながら何度か頷いて、読み終えると俺に手紙を返してきた。


 謎の英数字と記号の羅列を読み解いたメアリは、俺に向かって手を差し出してきた。

 恐らく、USBメモリを出せと言うことだろう。


「USBは持ってきていない。そもそも、ウイルスとか感染したら困るからまだ中身すら見ていないよ」


 誰からの手紙だかわからないのに、そこに入っていたUSBを自分のパソコンに繋げる気にはなれなかったというのもある。


 俺の言葉を聞いてメアリの表情が険しくなった。


「USBメモリの中にはきっと、犯人が成瀬さんを殺しても奪いたかったデータが入っています。その内容を確認できれば、警察に出せる」


 どうやら、俺が思っているよりも面倒な事態になっているらしい。

 手元に届いた暗号のような手紙、それが殺人事件の犯人に繋がる……まるで推理小説のようだ。


 はっきりいって、俺が書くミステリーよりもミステリーっぽい。

 地味に衝撃を受けつつ、メアリの様子をうかがう。


「アイハラ先生、USBメモリをお持ち頂くことできますか」


 少し考えていたメアリだが、やはりUSBが必要と判断したのが聞いてきた。


 ……ん? 俺、名乗ったか?


「アイハラ先生?」


 しかも、ご丁寧に『先生』と付けてきている。

 俺を先生呼びするのは、出版社関係と一部読者くらいだ。


「成瀬さんからのこの手紙に書いてありましたよ? アイハラ先生」


 手紙の差出人は亡くなった成瀬さんだというメアリは、USBメモリを催促してくる。


 仕方なく俺は家にUSBメモリを取りに戻ることにした。

 メアリの提案で、待ち合わせ場所が東京○○大学医学部棟の図書室になった。


 こんな中年男が大学に入っていって良いのだろうかと思ったが、メアリにお願いされて逆らえなかった。

 小説の取材という名目で、大学に入れてもえるようだ。


 その手続きは全部メアリがやってくれたらしい。



 一度家に戻って封筒に同封されていたUSBメモリを持ち出す。

 家から出ると念のため辺りを警戒しながら駅まで向かった。


 駅から電車に乗り、更にバスに乗り換えてメアリの通う大学までつく。

 一応、取材の名目なので領収書を切ってもらった。


 事務局に顔を出し、関係者用のパスを出してもらうと、約束の場所まで向かう。


 医学部棟の図書室は、町の小さな図書館くらいの大きさだった。

 専門書を見ながら勉強する学生や、パソコンで論文を書いている学生がちらほら見受けられる。


 そんな中にメアリの姿もあった。

 俺に気づくと軽く手を挙げて会釈する。

 図書室内で大きな声を出すわけにもいかず、俺は彼女が座っている所までゆっくり歩いていった。

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