先生。
―――次の日。
朝のショートホームルームにて。
「―――今日の日課はいつもの通りです。皆さん、一限の魔法基礎の準備、しっかりやってくださいね。」
アリス=マッケンジー校長の短い挨拶が、いつものように朝の教室に響いていたのだが。
今日は、いつもの挨拶とは少し違った。
「そして唐突なのですが、本日からの授業は私以外の先生がすることになりました。」
その一言で、いつものクラスの雰囲気が微かに崩れる。
「いきなりのことで戸惑うかもしれませんが、皆さん頑張ってくださいね。」
アリス校長は、にこやかに笑う。
「あ、あのー。ちょっといいですか?」
廊下側の席に座っていた、内気そうな小柄の少年ーアウルが、口を開いた。
「はい、どうぞ。」
「あの、その先生って別のクラスを担当している先生でしょうか?」
「いいえ。昨日新たに本校の非常勤講師になった先生です。」
今度は確かに、クラス中にどよめきが走った。
「昨日、ですか・・・」
昨日着任したばかりの非常勤講師。そんな人に授業を任せていいのか。
生徒たちの疑問が反感となって、教室内に渦を巻く。
だが、校長はそんな空気を一掃するように、厳かに言った。
「ですが、さほどの心配はいらないでしょう。私どもも、彼の高い教養を買ったわけですから。」
「それで、その方はどんな方なんですの?」
今度は、窓側の席のポニーテールでいかにもお嬢様っぽい少女ーフレンツィエが、質問をぶつけた。
「そうですね。それは、彼に聞いてください。じき、一限が始まりますから。」
だが、アリス校長はフレンツィエの質問には答えなかった。
「そうですの。それでは仕方ありませんわね。」
ここではぐらかす意味はわからないが、校長の言うことは最もである。
故に、フレンツィエは、引き下がった。
やがて、一限のチャイムが鳴る。
どんな人が来るんだろう? と、不安半分期待半分の一同の前で、教室の扉が、ガラガラッ! と大きな音を立てていらかれた。
その扉の向こうの人物に・・・
「なっ・・・!」
ただ一人、驚愕もあらわに目を見開いている生徒がいた。
サナだ。
「な、なな、なんであなたがここにいるんですか⁉」
サナは思わず、ずかずかと教室に入ってきた人物に問わずにはいられなかった。
そう、その人物とは―――
「よっ、また会ったな。サナ。」
不敵に笑ったその人物は、アラン=レイスだったのだ。
「? 知り合いなんですの?」
フレンツィエの問いも、今のサナには耳に入らなかった。
何故、この青年がここに?
そんな疑問を置き去りにするように、アランは自己紹介を始めた。
「さてと。俺の名前はアラン。アラン=レイスだ。よろしく。」
アランは、初めて教壇に立ったとは思えないほどの軽々しさで、自己紹介をしていく。
「今日からここの非常勤講師になったわけだが、えーとそれまでは近くの塾で非常勤講師をしてました。年齢は二十四歳です。まあ、これからよろしく! 自己紹介は以上だ、何か聞きたいことは? 彼女いますかとか、彼女いますかとか、あと、彼女いますかとか。ない? あそう。じゃぁ、授業始めるよ。」
「「「「・・・・・・。」」」」
超高速の自己紹介と謎のテンションの高さに、既に生徒たちはついていけなくなっていた。
唯一、一人を除いて。
「ちょっと待ってください! アランさ・・・じゃなかった。アラン先生!」
「どうした、サナ? そんなに、俺が彼女がいるかどうか気になるのか?」
「ち が い ま す ! なんであなたがここにいるんですか⁉」
「あー、なんだ、それか。昨日あの後ちょっくらアリスのとこよってな。」
「え! 呼び捨て⁉」
一体、アリス校長とはどういう関係なのだろうか?
「それで、俺を教師として雇ってくれって言ったら、二つ返事で了承してくれたのさ。それで今に至る。」
「あー、そうですか。」
確かに、アリス校長ならやりそうなことだ。
「まぁ、そんなこんなで今俺は、ここにいると。オッケー?」
「は、はい。」
サナは、しずしずと引き下がる。
「さてと、今から授業をしていくわけだが、その前に。お前らに話さなきゃいけない大切なことがある。場合によっては、おまえらのこれからの人生を変えていく、重要なことだ。いいか、ちゃんと聞けよ。」
―――今までの雰囲気とは少し変わったのを、生徒たちは察した。
―――確かに今、アランの纏う空気が教師のそれへと変わったのだ。




