憂い
キーンコーンカーンコーン・・・
鉛のように重たい授業の時間が、ようやく終わりを告げた。
「はぁ・・・」
サナは脱力し、背もたれに寄り掛かる。
今日も、大変だった。
解放されたうれしさ半面、また明日も同じように過ごさなきゃいけないのかと思うとつらい。
・・・明日は、学校休もうかな。
サナは、ぬるりと起き上がると、緩慢な動作で帰り支度を始める。
といっても、授業やる気0の彼女からすれば、別に持って帰る教科書などない。
完全に置き勉状態だ。
カバンに詰めるものは、手帳とポーチとスマホだけ。
勉強できない高校生の鏡だ。
「よいしょっと・・・」
掛け声をかけるにはあまりにも軽すぎるカバンを背負い、サナは教室を後にした。
校舎を出てすぐ、暗いオレンジ色に染まった空がサナを出迎える。
時刻は午後四時半。
この空が昏くなって再び明るくなったら、また地獄が始まるのかと思うと、本当に憂鬱な気分になってくる。
「・・・やっぱ、あした休もうかな・・・」
空の色と同じくらい暗い表情でサナは家に向かって歩き出した、その時だった。
「あー、サナー。まだ、帰ってなかったんだー。」
後ろから、やけにゆっくりとした感じの声がかけられた。
サナは声のした方を振り返る。
声の主は小柄な少女だ。瑠璃色の短い髪に翠玉の瞳が特徴的な美少女である。少し眠そうに細められた大きな瞳からは、何処かおっとりとした雰囲気が感じ取れる。
彼女の名は、ルー=ニーダ。
サナの隣のクラス、二年四組の生徒だ。一年生の時にクラスが同じでよくしゃべっていたので、今でも仲はいい。たまに一緒に帰ったりもする。
「うん、まぁ、一応ね・・・」
サナは曖昧に返事をする。
「そー。」
対するルーも短く返し、サナの隣に並んで歩き出した。
―――陽がどんどんと傾き、並んで歩く二人の影を長くしていく。
「・・・」
「・・・」
二人は無言。
片や、最近音楽と魔法に失望した者、片や普段無口でおっとり系の者。
こうなってしまうのは、想像に難くない。
だが、
―――どれほど時間が経ったろうか。
「・・・ねー、サナ?」
静寂を破るように、ルーが口を開いた。
「? なに?」
サナはわずかに視線をずらして、ルーの口元を見る。
「・・・最近、元気ないねー。」
「・・・あ・・・うん。」
図星だったので、素直に頷いた。
「何か、あったの・・・? 一年の時までは、こんなこと、なかった気がするよー。」
「・・・そう、かもね。」
サナは静かに視線をそらした。
かぁー! かぁー!
電信柱にとまっていたカラスが、不気味に嘶いた。
かもね、じゃない。そうなのだ。
サナが魔法と音楽に失望したのは、二年生になってすぐの出来事。
そう・・・あの出来事が、サナが音楽と魔法を嫌う発端になった。
見てしまったのだ。・・・憧れていた、魔法の正体を。
それを知った時、魔法と音楽が信じられなくなった。
「―――なぁ、音楽って、なかなかいいもんだろ?」
いつかの過去の、誰かの台詞がよみがえる。
―――本当に、そうなのだろうか。
少なくとも、今はそう思わない。思えない。
サナは、歩く。
夕暮れの道を、ルーと二人で。
ルーは、あれっきり何も話してこない。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
再び訪れる、無言の時間。
かつん、かつん。
アスファルトを踏む靴底の音だけが、橙と濃紺の混じり合う空に吸い込まれていく。
地平線に沈みかけた夕日は、二人の姿を弱々しく照らしているのだった。




