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二人は騙される

その日は珍しくカナメとトウマが、セットで町に出て不在だった。


そんな時、村人が血相を変えてやってきた。

村に野良犬が迷い込んだのだが、様子がおかしいらしい。

異様なほど興奮し攻撃的で、人を見れば襲ってくる。


幸い今のところ怪我人はいないが、皆家から出られない状態らしい。


「僕が行きます」

難しい顔のヨウゼンにソータは声を上げる。

パラはやや青い顔で、弓を肩に掛けた。


カナメとトウマがいない以上、選択肢はない。

しかし犬は病を持っていると思われる。

噛まれれば,

病を得る可能性が高い。

「いいか、絶対に深追いするな。追い払えれば上等だ」


ヨウゼンの指示を受けながら準備をしているソータの元に、

ファブリカが飛び込んできた。

「ソータ様、これをつかうだば」

彼が見せてきたのは、巻きすのような形状をしている。


「なるほど、これを腕に巻く訳だね」

よく見ると、巻きすの芯は木と鉄の棒が交互で組み合わされて

強度と軽量化を両立させた手甲だ。


ソータは左腕に手工を巻くと剣を2本準備した。


「パラ、お前は行くな」

ソータの後を追おうとする少女を、ヨウゼンが止めた。

「ソータの足手まといだ」


ソータは、トウマの評価を思い出した。

パラのそれは芸であると。

業と呼ぶには、経験が足りなすぎるということだろう。


パラは首を振った。

「できます。弓も使えます。傷だって治せます」

ただその顔は青ざめて、自らを奮い立たせようと必死になっているのは

誰の目にも明らかだった。


彼女の拘りがソータには理解できた。

自分の存在価値を証明したい。

記憶を失ったパラにとって、それは重要なことなのだ。

パラへの劣等感をソータも根底にあるものは同じだ。


「大丈夫です。絶対に無理はさせません」

ソータはヨウゼンに進言した。


「わかった」

ヨウゼンは即答した。

ここで時間を浪費することの愚を避けたのだろう。

パラに一言二言声を掛けて、革袋を握らせた。


改めて無理に追わないこと、怪我を避けることを指示して

ヨウゼンは2人を送り出した。


「あ、ありがとう」

パラはソータに言うが、その声は緊張で震えていた。


ソータは無言で駆ける。

村の入口付近に件の野良犬がいた。


痩せた犬だが目はギラリとして、口からよだれが幾筋も流れ

標的を探しているようにうろうろしていた。


ソータ達を見つけると、待ってましたとばかりに襲いかかる。

ソータは間合いに入った犬めがけて剣を振るうが、犬は素早い動きで剣を躱す。

自分の目線よりも低い相手に剣を振るうのは、思いのが難しい。


「パラ、下がれ!」

ソータは間合いから外れた犬を剣で牽制しながら、横にいたパラへ指示をする。

指示を受けた少女は2歩ほど下がって、革袋を犬にむけて投げつけた。


犬の足元に投げつけられた革袋は中身を四散させる。

その一部をかぶった犬は、突然恐慌状態となってもがき苦しんでいた。


「何をした」

目の前の状況が呑み込めないソータはパラに尋ねた。

「おじ様から見つけたら掛けてやれと」

「中身は?」

「水と言ってた」

ヨウゼンはこの犬の症状に心当たりがあったらしく、水を極端に恐れる性質も知っていた。


犬は二人に背を向けて村の入口へ向かう。

森に逃げるのだろう。


ソータは追いかけるべく走り出す。

「行っては駄目。追い返すだけでいいって」

パラはソータを止めるべく、後を追う。


「駄目だ。あれは素手では勝てない。ここで駆逐しないと誰かが犠牲になる」

犬がまた村に舞い戻らない保証はない。

街道を通る人を襲う可能性もある。


「鳩はもう送っている。2人はすぐに来るよ」

パラは先を行くソータに追いすがる。

「それより早く倒せばいいんだろ!」

「何を焦っているの?おじ様は追い返せっていったのよ」

「焦ってない!倒せる時に倒すんだ」


ソータの裏付けは正論だった。

だが彼を突き動かすのは、正論に包まれた自己顕示欲であることに

彼自身も気づいてなかった。


被害者を出さない為に。

村を護るために。

ヨウゼンを護るために。


これだけの正論があれば、結果さえ出せばきっと褒めてくれる。

まっすぐで、物事を自分視点でしか見れない青さを自覚することができなかった。


往々にして、そのような自己主観に基づいた行動は裏目に出る。


彼らは犬を追って、街道から森に入る。

ソータは、森の中で標的の犬が足を止めるのを見た。


犬は振り返るとソータをじっと見つめる。

その目は村で見た狂気は薄れ、今はどこか嗤っているようだと感じた。


「ソータ!」

背中にパラの背が当たる。

「犬が・・・増えた・・・」


右手の茂みから1匹2匹、左手の茂みからまた1匹2匹と野犬が姿を見せた。

「まさか・・・」

「囲まれてる・・・」

パラは震えていた。

持っていた弓に矢をゆがえた態勢ではあるが、とても臨戦といえるものではなかった。


「パラ、撃て!」

「ど、どれを狙えばいいの?」

「正面。あいつがボスだ!」

「ひっ!!」

パラは矢を放つが、力が入っていないそれはボス犬の手前に刺さって終わった。


ボス犬は状況に満足するかのように、大きく口を広げた。


こいつ、嗤ってやがる。

ソータは実感せざるを得なかった。

「俺たちは犬に釣られたのか・・・」

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