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これはもしもの話

リークは、先ほど話していたはずのバンと対峙していた。

自分は大上段で構え、今まさに振り下ろさんばかりだ。

・・・元の世界に戻ったのか、にしては・・・


違和感を感じながらも戦闘を継続する。

少年の瞳に意識を集中していく。

彼の瞳には、自分を後ろから切りかかろうとするもう一人の姿が見えた。


まずは思い切り振り下ろす。

だが、これは牽制。

本命は地面に当たる直前にV字に跳ね上がる剣で、相手の剣を弾き飛ばすこと。


バンはあっさりと剣を弾き飛ばされる。

リークの違和感はさらに膨らむ。

弾き飛ばせた?


疑問を抱きつつも動きは止めない。

跳ね上がりの動きに乗せて、身体を反転させる。


背後から攻撃を掛けてきた少年が目の前にいた。

想像もしていなかったのか、少年がギョっとした顔で固まっていた。

そのまま剣を少年に叩き付ける。

剣は鋭い音を立てて少年を打ち据える。


少年は態勢を崩して、地面に叩きつけられ・・・。

ることはなかった。

リークの左手が伸び、少年を掴み止める。

そして右手で持った剣を、部屋で一緒だったはずの少年に向けた。


リークは自らにある違和感を理解し始めた。

自分の意思で動いていない・・・

感覚は変わらないが、何かに操られているように動いている実感があった。


「今日はここまで」

近年出した覚えがない穏やかな声で二人に話しかけた。


「っきしょー。また負けたー」

バンが地面でバタバタとのたうち回る。

掴み止めた少年の方は、ぷらーんとぶら下がったまま、むー、と不満げな顔をする。


随分と幼い・・・

実際に戦った時も決して大人とは言えなかったが、今目の前にいる二人は

二回りは小さい。


「惜しかったですよ」

掴み止めた少年を降ろし、空いた手をバンに伸ばした。

「本当かなぁ」

バンはその手を取ると不満を漏らしながら立ち上がる。


「なんで後ろにいたソータの位置が分かった?」

バンは率直に疑問を口にする。

リークはバンの目を指さし、次いで自分の目を指さした。


「目に写っていたのか!」

「私のとっておきです」


早速バンとソータはお互いの目を見つめ合って、相手の瞳に写る自分の背後を確認しようとしていた。

もっとも、そう簡単にいくことはなく、互いにガンの飛ばしあいのようになっている。


リークは自らが持つ変わった刀をじっと見ていた。

「この剣は変わっていますね・・・木ではない・・・」

「?。前から使ってんじゃん。」

視線を外したバンが答える。


「え、ああ、そうでしたね。おかしいな・・・」

言われてみれば、なるほどこれはソータが作った竹の刀だったなと思い返す。

「大丈夫かよ。先生」

二人が不安げにリークを見上げる。


「ええ、ちょっとぼんやりしていたようです。さあ、戻りましょう」

3人は森を出て、村に変える。

リークは少しずつ頭が整理されてきた。

今日は場所を変えて、わざわざ森まで足を延ばして稽古をしに来たのだ。


しばらくバンと他愛無い話をしながら、歩みを進める。

その間ソータは一言も話さない。

しかし話すことをしない少年は、身振り手振りやバンの通訳によって

会話に参加している。


村の入口が見えてきた。

リークは何度も来たはずの場所が近づくにつれて、動悸の高まりを感じていた。

入口の付近には2人の女性が立っている。

その姿を見つけると、バンとソータは片方の女性へ駆け寄って行く。


もう一方の女性がリークに歩み寄ってくる。

彼はその姿を見て、悲しい気持ちがわきあがろ。

「おかえりなさい」

胸に子を抱いた女性は微笑んで、告げた。

「お疲れ様でした」


「ああ、ただいま」

その声は少し震えていた。

「どうしたの?」

「いや・・・いや、何でもないんだ・・・」

震える手で、彼女が抱く子供の頭を撫でる。

子供は静かな寝息を立てていて、触れられても起きようとしない。


彼は自分の妻と子を目の前にして、動揺していた。

「大丈夫?顔が真っ青よ」

妻は彼の頬に手を伸ばして問いかける。


「今日はこのまま晩御飯にしましょうか」

バンとソータの相手をしていた女性が、二人に声をかける。

「いえ、一本お願いいたします」

リークは真剣な表情で、声の主に答える。


「先生、今日はやめといたほうがいいよ」

女性と手をつないでいたバンが不安げに声を掛ける。

ソータは何も言わないが、表情はやはり不安げだ。


「大丈夫です。お願いします」

リークはバンの頭を撫でながら、続ける。

「お子様の鍛錬に協力すれば、挑戦の機会をいただける約束です」


女性はやわらかな微笑みを絶やさず答えた。

「わかりました。やりましょう」


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