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最悪の戦況と乾坤一石

フミノの言葉に反応するかのように熊は立ち上がる

全長は2mに及び、フミノの高さは熊の肩ほどしかない。


熊の右腕がフミノに向けて内側へ払われる。

左側からの暴虐を軽やかに躱して、左手の剣を左へ薙ぐ。

カウンターのように熊の腕力を利用して甲をわずかに切り裂く。


(浅い・・・が)

フミノは考える。

深く刃を当てるわけにはいかない。


剣は短く業物でもない。

耐久性に不安があり、折らないように戦う必要がある。


熊の筋肉に挟まれては、剣が抜けなくなるか

折れるかするかの望まない二択を強いられる。


熊の両手も脅威だ。

爪が剣に当たれば剣がふっ飛び、身体に当たれば肉がえぐられる。

爪を当てられた時点で詰んでしまう。


考えている間も、左右から熊の爪が襲いかかる。

爪が当たらないように躱し、その甲へ剣を当てる。

相手の勢いを利用して熊の甲をわずかに引き裂く。


相手が戦意を失うまで傷つけ続けるしか手はない。


達人ともいえる動きを1つのミスもなく続けるフミノ。

ただし限界は確実に近づいている。


両手を傷だらけにしながらも熊の勢いは衰える気配はない。

対してフミノの息は確実に上がっていく。

死と隣り合わせの攻防を泥だらけの足場で行うことは、

彼女の精神とスタミナを削り続け、少しずつ動きを鈍らせる。


鈍った動きで熊の攻撃を捌き切れなくなった瞬間が彼女の最後だ。


また一撃、熊の右手を躱して剣を当てようとしたその時、

フミノは自らの足場が無くなるのを感じた。

泥に足を取られてバランスを崩す。


態勢が崩れたおかげで熊の右手を躱せたのは偶然だ。

両膝をつき、剣を地面に突き立てることで何とか転倒を防ぐ。

とても戦闘を継続できる態勢ではない。


熊は快哉を叫ぶように傷だらけで真っ赤に濡れた両手を上げる。

勝負の帰結を確信したかのように。


(諦めるものわけにはいかない。)


自分の後ろに護るものがあるのだ。

フミノは削られ続けた自らの精神を鼓舞し、態勢を整えようとする。

だが先ほどまでの動きと打って変わり、格段に鈍い。


熊はトドメだ、とばかりに両手を振り下ろす。

刹那、熊の頭が大きく揺れる。


思わず目を見張る。

(何がおきたの・・・)

熊の右目あたりに子供の頭ほどある石が激突していた。

だが、振り返って確認する暇はない。


「フミノ!」

後方から声が飛ぶ。

その声の意味は十分に理解している。


熊は大きくのけぞっている。

初めてみせた、多分最後の隙だ。

この機を逃がしたらもう打つ手はない。


「はっ!」

気合一拍、宙に飛ぶフミノ。

熊の膝を足場にしてもう一段高く飛ぶ。

彼我の距離はほぼゼロ。

敵の鼻先を掠めて、フミノの体は熊の頭を超えるところまで到達する。


流れるような動きで両手の剣を下手に持ち帰る。

次の瞬間、悪鬼にような豪胆さで熊の両目へ剣を突き刺した。


(このまま押し込んでやる!)

フミノは決死の表情で力を込める。

眼球の奥は脳に繋がっている。

そこに剣先がとどけば、熊の絶命は必至。


だが、その目論見は叶わない。

左手の剣は押し込むと同時に根本から折れてしまった。

バランスを崩したフミノは力を振り絞り、熊の胸元を蹴りつけ、

反動で後方へ一回転しつつ着地を試みる。

泥の上を熊から離れるように滑りながら着地する。


「フミノ、大丈夫か。」

ヨウゼンがフミノに駆け寄り声を変える。

「逃げるぞ」

フミノの返事を待たずに続ける。

「しかし・・・」

疲労困憊しているフミノは頭を上げられない。

「熊が・・・」

逃がしてくれるでしょうか、続きが言葉にならないフミノに対して

ヨウゼンが彼女の肩を抱きながら答える。


「奴はそれどころではなかろうよ」

両目を潰された熊は両手を振り回して暴れまわっている。

こちらが見えていないことは明白だ。


「早く、帰りま、しょう・・・この子・・・」

ヨウゼンの肩を借りフミノは何とか立ち上がり、

途切れ途切れに言葉を繫ぐ。


「わかっているよ。急ごう。」

ヨウゼンは固い表情で応じる。

胸に結わえている子の体温がほとんど感じらない。


(これは間に合わん・・・か)


ヨウゼンはその見込みを言葉にすることなく、

フミノの体を支えながら、帰路を急いだ。


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