暗転
ガン、ガン、ガンと春の空に剣がぶつかり合う音が響く。
カナメは長めの両刃剣を、バンは太目の片刃剣と櫛のような形の短剣だ。
カナメの振り下ろす剣を、バンは短剣で受ける。
両刃剣は櫛の歯にはまり動きが止まった。
次の瞬間、バンは片手剣を両刃剣に叩きつける。
「いってぇぇぇ!」
ガィンとひと際大きな音をさせて、片刃剣はあらぬ方向へ飛んでいった。
「うーん、武器を壊すのはいいんだけど・・・」
バンは右手をプラプラさせる。
タイミングとスピードに当てるポイント、それに力がないと折ることができない。
失敗すると衝撃は剣を通して手首に来る。
耐えられなければ、剣は明後日の方へ飛んでいく。
代わってくれ、と手を出すトウマにバンが剣を渡す。
トウマとカナメは相対すると、型を確認するように交互に剣を振るい合う。
トウマが振るえばカナメが躱し、カナメが振るえばトウマが躱す。
その速度が徐々に加速していく。
演舞のような動きにバンが感嘆の声を上げた瞬間、カナメの一振りを
トウマが受け止める。
櫛の歯が両刃剣を捕らえ、気合の声と共に片刃剣を振り下ろす。
両刃剣はキンと高い悲鳴を上げて、真っ二つに折れた。
上手い。
俺は思わず拍手した。
「やれなくはない。練習次第だな」
トウマは片刃剣と櫛の歯剣をカンカンとぶつける。
「練習台は失敗作が大量にあるからね」
カナメが折れた剣を木箱に投げ捨てる。
バンはトウマの持つ櫛の歯剣をじっと見つめて言う。
「しかし変わったものを作ったもんだな」
櫛の歯剣はマインゴーシュ。
本来は敵の攻撃をいなす短剣だが、櫛の歯状でファブリカに
作ってもらったものだ。
これで相手の刃を絡めて叩き折るのが目的となる。
ファブリカは、現在鍛冶の修行中だ。
彼の師匠との出会いはなかなかのインパクトがあった。
あの日は俺とバンとファブリカで新しい道具の話をしていた。
「お前がファブリカかぁ!」
俺たちは同時に顔をあげる。
そこには小柄のばあさんが立っていた。
彼女は迷わずファブリカへ向かうと、彼の肩をばしばし叩く。
が、手がとどかないため、実際当たっているのは肘なのだが・・・
それにしても初見で3人からファブリカがなんでわかるの?
「なんでわかったんだ?」
バンが声を上げる。
「手を見りゃわかるさ」
ばあさんはファブリカの手をとる。
「ものづくりをする者の手だよ」
「いい体つきじゃないか、鎚を打つにはうってつけさね」
さらにファブリカの肘をバシバシ叩く。
ファブリカは無言で直立不動だ。
「いいじゃないか。寡黙な職人気質ってわけだ」
いや、それはコミュ障でフリーズしているだけです。
「村のために鍛冶をやりたいなんて見上げたもんだよ」
それからばあさんはまくし立てる。
要するにファブリカの家に鍛冶窯を作って早速修行を始めたいらしい。
師匠が弟子の家に住み込むのか?
「案内するよ」
バンが先導する。
「ほれ、お前が来なくてどうするんだ」
首根っこをつかまれたファブリカがばあさんに引きずられていく。
見かけによらず、すんげえ力だ。
かあさまといい、この世界の女性はサイヤ人なのか?
神様から、んなわけあるかいというツッコミが聞こえたがスルーした。
とにかく、そこからは早かった。
共に来た弟子の集団が、あっという間にファブリカの家に
鍛冶窯を含めた作業場を作りあげてしまった。
師匠が住み込んでの修業期間が過ぎていく、なかなか苛烈なようで
何度も我が家に逃げ込んできたが、その度に引きずられて帰っていくのを
よく覚えている。
よく匙を投げないなと感心していたが、師匠のばあさんもファブリカの能力は
評価しているらしい。
あいつはこれまでで最高の素材で、今は徹底的に焼いて叩いている。
なまくらになるか宝刀となるかを私が握っていると思うと震えが止まらない。
かあさまがばあさんから聞き出してくれた内容だ。
実際ファブリカは、素人の俺から見ても尋常じゃない速さで技術を吸収していて、
今では自分一人で剣を打てるレベルになっている。
それでも失敗作が多くできてしまい、さっさと処分しないとあらぬ誤解を生む。
どうせ壊してから材料にするならと、借りて特訓に使用しているというわけだ。
この特訓で一番武器破壊が上手いのはトウマだ。
剣扱いのうまさが、ここでも生きている。
バンは、もう少し力があればと歯噛みしている。
タイミングとポイントを押さえるのはバツグンなのだが、
衝撃に耐えられなくて、剣を手から離してしまう。
まぁ離さなければ手首を痛めるだけだから正しい対応なのだが、
剣で折るのが向いてない気がする。メモっておこう。
かあさまが俺たちを呼ぶ声が聞こえる。
そろそろ夕ご飯の時間らしい。
俺たちは手を振って返事をすると、後片付けを始める。
そういえば・・・
最近神様の声を聴かない。神様どうかしたの?
『・・・』
返事はない。
本当にどうしたんだろう。
愛想つかされちゃったんだろうか。
「かあさま!」
先に戻ったカナメの声が響く。
声の元を見ると、かあさまが倒れていた。
茫然とする俺に、唐突に、久々に神様の声が聞こえた。
『彼女は死ぬ』