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大団円は暗転のはじまり

一輪車で馬糞を運ぶ農夫風ヨウゼンが口を挟む。


「ヨウゼン様!?」

ヨウゼンの姿にメルカトさんは驚きの声を上げる。

そんなに珍しいかね?


メルカトさんの反応に呵々と笑って、ヨウゼンはコンポストへ向かう。

馬糞も汚れた藁と一緒に入れて堆肥化だ。


「で、どうよ?」

バンがメルカトさんに声を掛ける。

どうですか、だろう!俺は肘でバンに一撃くれてやる。

くそ、バンめ、ヘッドロック決めてきやがった。


メルカトさんは俺たちの争いを見て、くすくすと笑う。

「参った。参りました。」

彼は両手を上げ降参のポーズで、俺に近づいた。


「ソータくん」

俺と目線を合わせるように、メルカトさんは腰を落とす。

「伝書鳩だけでも十分合格だったんですよ。ファブリカのために

どの程度真剣に考えているか、知りたかったのです」


ところが、と彼は続ける。

伝書鳩の維持コストを考えて、その廃棄物から堆肥をつくる仕組みまで持ち出した。

もっとも本当に良質の堆肥かどうがは検証が必要ではあるが、

「それでも、君のアイデアはメルカトさまが望む、争いを経由しない豊かさと利便性に

叶ったものです」


俺は笑顔で応じる。

最高の誉め言葉だ。


「私は俄然、君たち兄弟に興味が湧きましたよ」

メルカトさんは立ち上がり、微笑んだ。


バンは俺をかばうように、メルカトさんの間に無言で立ちふさがる。

「バンくん・・・そういう意味ではないですよ?」

バンよ、そういう意味ではないと思うぞ。


「とにかく、私の知る最上の鍛冶職人を紹介しますよ」

ちょっと変わり者ですが、と彼が付け加えたことは聞き流しておこう。


「君の勝ちです」

メルカトさんの言葉に俺は首を振る。

理想のアイデアだけなら誰でも出せる。


俺はファブリカを指さす、カナメを、トウマを、ヨウゼンを、かあさまを。

そして最後にバンを指さした。


指さされたバンは意を受けたとばかりに話はじめる。

「トーマはさ、自分だけの勝ちじゃないって言いたいんだよ」


その通り。ファブリカが正確な設計をして、カナメとトウマが材料を準備して

ヨウゼンが組み立てを手伝ってくれて、かあさまが鳩を捕らえた。

そしてバンは・・・

「特に俺の指揮とプレゼン力が凄かったな」

自分でいいますか。


メルカトさんは頷いている。

しかし、という意味で俺は人差し指を立てる。

メルカトさんは首をかしげる。

バンは俺が何をいいたいのか気づいたようだ。


「ちょっと問題があるんだよね」

「問題?なんですか?」

「ま、やってみればわかるよ」

バンは苦笑いで応えた。


-------------------------------------------------------


「なんで私がこんなことをーーー」

メルカトは大きな虫取り網、いや鳩取り網を持って鳩を追い回している。

鳩を捕らえる難易度を実践で教えられていた。


鳩はメルカトから走って逃げる。

網が襲い掛かると一瞬だけ飛んで着地し、また走り出す。

完全になめているとか思えない動きでメルカトを翻弄する。


加勢とばかりに兄弟4人が網を持って襲いかかるが、

鳩はあざ笑うかのように躱し続ける。


その光景を少し離れたところから、フミノが眺めていた。

「まぁ楽しそう。ねぇ?」

彼女は胸元に抱かれた鳩に声を掛ける。

鳩は同意するかのように、くるっくーとのんきに鳴くのだった。


--------------------------------------------------------^


鳩小屋を夕焼けが赤く染める。

ヨウゼンとメルカトさんは鳩小屋を見て、何か話をしている。

カナメはコンポストをくるくると廻して、かあさまはそれを応援している。

トウマは実験用の畑を耕して、バンは堆肥を撒いている。


俺はしゃがんで休憩中だ。

『上手くいったの』

神様が声を掛けてきた。


俺はさ神様、鳩が嫌いなんだよね。

俺の世界では、鳩は平和の象徴とか言われている裏で、糞を出す害鳥だとも

言われる。その割に狩ることは禁じられている。

身勝手に餌を与える人もいれば、それを非難する人もいる。


あいつらはただ生きているだけだ。

平和のために何かしたかったわけでも、人間を害したかったわけでもない。

ただ懸命に生きているだけ。

人間が勝手にレッテルを貼っているだけだ。


『レッテルを貼る者が嫌い、ということじゃな』

どうなんだろう。

そうなのかもしれない。


俺自身、レッテルは貼られ続けた。

親のいないから、かわいそうな子。

親がいないから、不躾な奴。

親がいないから、信用できない奴。

親がいないから、問題がありそうな奴。


もっと長く生きていれば、剥がすことができたのだろうか?

剥がせなかった俺にも問題があったのだろうか?

だからあんなことができたのだろうか?

今となってはわからない。


でもわかることもある。

俺は前世の世界を好きではなかったってことだ。


だからかな、神様。


家族や仲間たちが笑い合う光景が、赤く染まった背景に良く似合う。


俺はこの世界を好きになりたいよ。


『嬉しいことをいってくれる』

言葉とは裏腹に、神様の声は寂しげだ。

『だが、この世界にそんな資格はない』


今度は嘲うかのように続ける

『歪んでいるからの』


最後は暗く淡々といった。

『儂がそうしてしまった』

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