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彼の生態

結局潰れたファブリカは、朝に至る今になっても

目が覚めない。


「意外すぎるな」

上からファブリカの寝姿をのぞき込みトウマが感想を漏らす。

「もっといびきをかくとか・・・」

カナメがそれに追随。

「布団跳ねのけて、ゴロンゴロンとか・・・」

バンがそれに乗っかる。

「全くなかったな」

ヨウゼンが締める。


眠るファブリカを男4人がのぞき込む異様な光景がそこにあった。


昨夜は念のため、一番広い部屋で全員一緒に寝ることで様子を見ていたが、

いびきは全くなく、胎児のポーズのままでピクリとも動かない。

責任を感じて不安になっていたヨウゼンが、深夜に死んでいないか

何度も確認していたそうだ。


「あらあら、お客様は随分お寝坊さんね」

そこへかあさまがやってきた。


かあさまは、やおらファブリカの敷布団の長手側を両手で握ると

えい、と可愛い掛け声で引っ張り上げる。

その声と裏腹に高速で布団は引き上げられたことで、

ファブリカの体は空中に引き上げられ、そのままグルグルと

回転しつつ床に着地した。


バックスピンがかかっていたのか、彼の体は着地点からさらに回転し、

かあさまの足元で止まった。


ファブリカは目を見開いているが、状況が呑み込めていないのか

驚愕の表情のまま、固まっている。

前世にてテレビで見た、早朝バズーカや早朝ロデオを思い出した。

寝起きに驚かされるとリアクション取れないんだなぁ、やっぱ。


「おはよう」

ファブリカの顔を覗き込み、かあさまが満面の笑みで声を掛ける。

「朝ごはんができていますよ。起きてお食べなさい」

ファブリカは驚愕の表情を崩すことなく、コクコクと頷くのみだ。


「意外ねぇ」

テーブルで頬杖をついて、かあさまがつぶやく。

俺も確かに、と思いつつファブリカに目をやる。


彼は料理を少しずつ口に入れて、ゆっくりと噛んでいる。

テーブルには残り物とはいえ、かなりの量の料理がある。

そらそうだ。このガタイなら誰だって大食だと思って準備するだろう。

てっきりガツガツと食べ散らかす姿を想像したのだが・・・


最初は遠慮しているのかと思っていたのだが、

満足気な表情を見る限り、そうでもないようだ。


それでも、かあさまは上機嫌で彼の食事を見守っている。

うさぎやハムスターの食事動画を見てるような感じなのだろうか。


しばらくして、ファブリカは手を合わせて、食事を終えた。

本当に少ない。ココイチのカレーなら小盛程度だよ。


「もういいの?遠慮しくていいのよ」

流石に少なすぎると思ったのか、かあさまが声を掛ける。


ファブリカは真っ赤になってうつむいた。

「おなかいっぱいだば・・・です」

もじもじとしながら続ける。

「ばあちゃんもいつも、もういいのか、男ならもっと喰えって」


かあさまは、くすくすと笑って片付け始める。

彼のばあちゃんの気持ちもわかる。

ガタイとのギャップがあって、不安になるんだろうな。


片付けが終わるころ、メルカトさんがやってきた。

結局事前打ち合わせはなしか。


メルカトさん、ファブリカを含め全員終結した。


「丸く収まって何よりです」

ここに至る経緯を聞いて、メルカトさんは微笑んだ。

うわさの正体とその鎮静化、満点と言っていい結果だ。


「そこでこれを見てほしい」

ヨウゼンは例の弓をメルカトさんに渡す。

彼は弓を受け取ると、鑑定を始める。


「初めて見るものですね」

しばらくしてメルカトさんは答えた。

「見かけ倒しではないのでしょう?」

続けてカナメに水を向ける。


カナメは目をを閉じて、一度大きく息を吸うと、

カッと目を見開いて、一気にまくしたて始めた。


要約すると、こんな感じ。

長さが短い割に威力が高いこと。

騎乗して撃つことにも向いていること。

かなり上級者向きで技術と共に威力が上がること。

どこを見ても、しっかりと強化されていること。

それでいて弓のもつ、凛とした美しさをキープしていること。


メルカトさんは茫然としているが、カナメは我が子を誇るかのように

鼻息が荒い。何故だ。


「ま、まぁ、良いものということは理解しました」

気を取り直してメルカトさんが話はじめた。

「で、この弓を流通させる、ということでしょうか?」

でしょうか?のニュアンスに別のものを感じる。

まさか、そんなことないでしょうね、的な。


「ああ、違うな」

ヨウゼンが苦笑いで答え、目線でファブリカを紹介する。

「それを作ったのは、そこにいる、噂の者だ」

そこで、と続ける。

「彼に鍛冶の技術を学ばせたい、口利きしてほしい。

 できれば技術の高い者がいい」


メルカトさんは少しの間、目を閉じて、ふむと独り言ちると

目を開いていった。

「随分と買われているのですね」

「彼には既存の技術を越えさせる力がある」

ヨウゼンは即答し、その後一拍置いて続けた。


「・・・と思う・・・」

「思う、ですか」

今度はメルカトさんが苦笑する。


ヨウゼンもつられるように少し笑った。

「皆に聞きたい」

真顔となり続ける。

「技術を高めるために必要なものは、なんだろうか?」


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