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竹刀をつくろう

かあさまがバンの練習相手になり、ひとまず奴の不満は解消された。

一貫してかあさまの得物がおたまなのはいかがなものかと思うが。


だが問題の根本は解消されていない。

剣の練習が木刀中心のことだ。

本気で打てば骨が折れ、肉が裂ける。


ケガを抑えるには自然と対人練習は寸止めが必須となる。

もっと自由に打ち合える得物がほしい。


ここはやはり竹刀をつくるしかない。竹刀と言えば。

神様ー。

『ふむ、森の奥に生えておるのう。教えてやろう』

さすが神様、質問することなく回答が響いてきた。


俺は納屋から鋸を持ち出して、森へ入った。

幼児が一人で森の中なんて、迷うこと必至な案件だが、

神様にナビしてもらっている俺にそのリスクはない。


しかし遠いな・・・

幼児の足だから遅いということもあるが、

それを差っ引いても、相当奥に進んでいる。


そんなにないものか?竹って。

『この世界の竹はそれほど多くはないのう』

神様が俺の疑問に答える。

『昔はもう少し生えていたが、一斉に枯れてしまってのう』


聞いたことあるな。

竹の種類によっては、同時に花をつけ、実をつけて、

枯れるものがある。

その周期は100年だったかな・・・


『その生き残りがわずかに残るばかりじゃて』

なるほどこの世界の竹は種類が少ないんだな。

それが一斉に開花を迎えて、レッドリスト行きということだ。


『この先じゃ』

何とか鬱そうとした森を抜けて到着することできた。

そこは周囲に木がなく、日の光が降り注ぐ。

小さな泉が透明な水をたたえ、その脇にわずかな竹林があった。


俺は竹林から細めのものを見繕って、根元に鋸を当てる。

そこではたと気づく。

神様、もしかしたら・・・

『いや、数が少ないからといって切ってはいかんという

言い伝えとかはないのう』


安心して俺は鋸に力を込める。

時間を掛けて稈を切り落とした。

切り落とした稈を引きずって、森を抜ける。

途中引きずり切れないから半分に切り落とした。


半分の長さになった竹を引きずって森の入口にむかう。

あれ、誰かいるな。

ヨウゼンだ。森の中を何か探すように歩いている。


彼は俺を見つけると、こちらに走ってくる。

俺をさがしていたのね。


「ソータ、ここにいたか」

ヨウゼンが複雑な表情で俺を見て、溜息を一つついた。

「まあ、帰るか・・・て、それは竹か?」

彼は俺が引っ張ってきた竹を見て驚いているようだ。


「この森に竹が生えているとはなぁ」

帰路はヨウゼンに連れられている。

ヨウゼンは俺の代わりに竹を小脇に抱えてくれた。


彼がいうには、竹は珍しいものでこの森にあることも

知らなかったそうだ。


「で、こんな珍しいものをどうする気だ?」

場所を納屋に移して、作業を始める。

ヨウゼンは興味があるらしく、その場にとどまっている。


俺はにこりと笑ってナタを持ち出した。

竹を縦に割ろうと・・・

ああ、左手で竹を支えると右手一本でナタを支えられない。


ナタの重さにふらつく俺をヨウゼンが支える。

「変わろうか。縦に割るんだな」

彼は俺からナタをひったくると手際よく竹を割る。

俺は身振り手振りで割り幅を指示する。


割った竹の節間の裏や節裏をを削り取って

できた細長いちくとう4枚を組んで、皮ひもで縛る。

剣先の部分は小さめの皮で包み、柄の部分は大きめの皮で包む。

竹刀の完成だ。

竹刀というよりは竹製の四角い棒だな。


結局ほとんどヨウゼンに作ってもらってしまった。

途中から意図を理解した彼は、何の指示も必要とせず

作り上げてしまったのだ。


「叩いてみてくれ、思い切りな」

ヨウゼンは竹刀の柄をこちらに向けて、彼自身の頭を指さした。

俺は竹刀を受け取るが、流石に養父の頭を叩くのは・・・

2度ほど促されたので、覚悟を決めて思い切り竹刀を

彼の頭にたたきつけた。


パンという小さい音が納屋に響く。

ヨウゼンは当たった部分を撫でながら、竹刀をよこせと

手でアピールしてきた。


まさか叩き返す気か?

ちょっとびくつきながら竹刀をヨウゼンに渡す。

彼は竹刀を受け取るや、納屋の柱に叩きつける。

パーンと先ほどとは比較にならない大きな音を立てる。


竹刀は衝撃に耐えられずに、形が崩れてしまった。

何するだぁ、あんた!

せっかく組んだ竹がばらけちゃったよ。

いやほとんどあんたが作ったものだけどさ。

そして何故満足気なの?


「これはいい訓練用だ」

なるほどやっと理解できた。

強い衝撃で崩れる竹刀だから、身体へのダメージは少ない。

なんちゃって竹刀だが、目的は達成できるものができたようだ。


「いいものができたな」

ヨウゼンの言葉に、俺は笑顔を返す。

本物の竹刀はもっと凄いんだけど、素直に褒められておこう。


その後、何本か竹刀が作られて、フォスター家では木刀に変わって

竹刀が剣の訓練道具となった。

おかげでバンはトウマに稽古をつけてもらえることとなりご機嫌だ。


後日。

かあさまが俺とバンに声を掛けてきた。

「今日も修行をつけてあげますね」

ご機嫌におたまをくるくる回している。


「今日はいいや。兄ちゃんに見てもらうから。行こうぜソータ」

バンはバッサリと断りを入れる。

ショックをうけるかあさまを横目に俺はバンについていく。


後ろから聞こえたかあさまに声は幻聴だろうか?

「私の愛情はいつだって空振りーー」

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