好感度を上げるといえばときメモしかないだろう
『起きなさいソータ。ヨウゼンらが起きたぞ』
頭の中に神様の声が響く。
俺は布団から出て、伸びをした。
もっと寒いかと思ったが、そうでもない。
身体が前世の時よりも寒さに強いようだ。
それとも子供は風の子ってやつか?
ともあれ、この生活において神様にお願いしたのは、
家族の動きを教えてもらうことだ。
実子でないことが分かったからというわけでもないが、
家族との関係作りは最重要課題だ。
全員と友好な関係を作る。好感度アップ。
ありていにいえば、点数稼ぎだ。
家族に動きを把握していれば点数稼ぎも効率的だ。
うん、これはチートだな。タイトルを変える必要があるか?
『だからというて、朝起こす羽目になるとはのう・・・』
モーニングコールする神とはとか、神の威厳とは何なのかとか
ぶつぶつ言っている神様は気にしないでおこう。
何日も過ぎているのに、諦めの悪いことだ。
布団を畳んで、厩へ向かう。
厩ではヨウゼンとトウマが馬に餌を与えていた。
「早いな」
飼葉桶を持ったヨウゼンが俺に気づいて声をかける。
俺はペコリと頭を下げて、併設した鶏舎へ向かう。
厩仕事は力がいるためヨウゼンにお任せだ。
俺は鶏舎の鶏を放して、掃除を始める。
卵を確保して、糞は外へ出す。
これは後の肥料となるものだから捨てるわけではない。
ヨウゼンに手伝ってもらい、放した鶏と格闘、鶏舎に戻し任務完了。
卵籠を持って台所へ向かう
台所ではすでにおねえさんことかあさまが朝食の準備を始めていた。
「あら、おはようソータ。卵ね。ありがとう」
俺はペコリと頭を下げて、かあさまの横に立つ。
「手伝ってくれるの?」
笑顔で問いかけるかあさまに、俺に笑顔でこくこく頷く。
かあさまの指示のもとで皿出しなどを手伝う。
今朝使う分の卵を洗うのも俺の仕事だ。
本当は調理も手伝いたいのだが、背は小さいわ、動きはままならないわで
完全に戦力外だ。
かあさま一人でやったほうが効率がいいのも承知の上。
だがこれでいい。かあさま攻略で大事なのは健気さだ。
25歳にはない健気さアピールで好感度アップだぜ。
とかやっている間に、台所に勢いよく誰か飛び込んできた。
次兄のトウマだ。
「かあさま、おはようございます!朝飯は・・・まだですね」
彼は朝から元気だ。
「それでは走ってきます。ソーマ行くぞ!」
俺も?俺は今かあさま好感度上げ中なのだが・・・
俺はかあさまの顔色を伺うと、彼女は微笑んで頷いていた。
行ってこいってことだよな。
そう判断した俺はペコリと頭を下げて、トウマの元へ向かう。
2人して屋敷を出て庭に向かう。
庭といっても野球ができるほど広い。
さらにその向こうは森が広がっていて、体を動かすには持ってこいだ。
庭の一番外側をトラック競技のように2人で走り続ける。
トウマはとにかく早い。あっという間にちぎられた。
こちらはとにかくスピードが出ない。
仕方ないだろう、幼児なのだから。
スピードを上げると自分の体が必要以上に左右に振られる。
バランスをとるのに四苦八苦していると、いきなり自分の体が宙に浮いた。
下を見ると、トウマが周回遅れの俺を後ろから肩車していた。
トウマは肩車をしてもスピードが衰えない。
恐怖に目をつむり、彼の頭にしがみ付いていたが、
恐々目を開けると風に風景が流れる様が見えた。
自転車に乗っているような、いやそれよりも風景が色鮮やかだ。
漕ぐことも、周囲に注意することもなく、だた次々を変わる風景を
見ているからだろうか。
いつの間にか両手を挙げて風を受けていた。
声が出せるなら大声を出し続けていただろう。
実際トウマは、ワハハと豪快に笑いながら走っている。
それを何周かしていると屋敷のほうから声がした。
バンが呼んでいる。どうやら朝ごはんができたらしい。
トウマもそれに気がついて、俺を乗せたまま方向転換して屋敷へ向かった。
屋敷に戻ると、食卓には温かい食事が準備されていた。
米に汁に箸と和食系なのはありがたい。
父ヨウゼンはかあさまとすでに座って食べ始めている。
朝の挨拶もそこそこにトウマとバン、そして俺は席につく。
二人は料理に向かって手を合わせて一礼した。
手を合わせる風習あるんだ、と思いながら、
俺も見様見真似で一礼して汁に手を付ける。
長兄のカナメはいつも最後だ。
神様に聞くと、朝に弱いタイプらしい。
当の本人が入ってきた。
朝の彼は完全に別人だ。
サラサラだった黒髪は妖怪九尾の尾のように
いくつも分かれ、とぐろを巻き、あらゆる方向へ伸びている。
秀麗で切れ長の目は・・・3の字になっていた。
こころなしか口も3の字に見える。
ヤバサワさんか?
「おは・・ご・・ます・・・」
蚊の鳴くような声で挨拶したあと、カナメは席に座り、
料理に一礼して食べ始める。
誰も気にしないところを見るとこれが彼の朝の姿なのだろう。
食事が終わった順に各々で食器を片付け始める。
最後に残ったのは俺とカナメだ。
カナメの顔も3の字から回復しており
髪もやや乱れている程度に収まっている。
イケメン回復力もすごいのね。
「ソータ」
声もイケメン声に戻っている。
「畑作業が終わったら、弓の訓練に付き合ってくれないか?
矢を拾ってほしい」
わずかに微笑んで問いかけるカナメ。
男の俺でもドキっとする笑顔だ。
コクコクと頷いた俺の顔は多分赤かったと思う。
食事が終わったら畑仕事を皆で行う。
俺の仕事は雑草抜きだ。
広めの家庭菜園といった規模なので、昼を待たずに終わる。
そこから昼まではカナメの弓訓練のお手伝い。
矢を拾ってほしいといっていたが、落ちたものを拾うことはない。
全て的の中に当ててしまうのだ。
まあ、それを抜くほうが、体の小さい俺には難儀なのだが・・・
短弓、長弓どちらでも巧みに使いこなす。
弓の素人な俺でもわかる。とんでもなく上手いぞ、この人。
昼になろうかという時にカナメは俺に声を掛けてきた。
「これで最後だよ」
言うやいなや、矢を放つ。
矢はわずかな放物線を描いて、前に当てた矢の矢筈に当てた。
前の矢が矢筈から裂けて砕け散る。
偶然だよね。狙ってできるのか?
カナメは満足げに頷くと、弓を片付け始めた。
狙ってできるのね。
弓が上手いイケメンってリアルエルフじゃねぇか。
ともあれ二人で矢を片付けて、家に戻った。