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神様は約束を守る

目を覚ました俺に、この家の家族は次々とやってきた。


父親だろう男性は「身体はどうか?」と聞いてきた。

布団をでて歩いてみせると、笑って頷いていた。


子供は3人いて、バンを除いた2人はどちらも彼より年上のようだ。

バンが兄であることにこだわったのは、彼が末子なことが原因だろうな。


年長っぽい子は特に何も言わないが、笑顔を絶やさない。

正直男か女かわからないから、ちょっと対応に注意する必要がありそうだ。


もう一人の兄は、いかにも男の子って感じだ。

「お前は剣が好きか?槍が好きか? 俺は剣が好きだ!」

・・・脳筋タイプなんだろうか?


兄か姉かわからない人が「弓が選択肢にないなんて」と

鼻で笑ったから喧嘩が始まった。

・・・弓が好きなんですね。


2人の兄の喧嘩を他所に、皿に乗ったおにぎりが目の前に差し出された。

おねえさんだ、多分母だろう。

「ソータ、おなか空いたででょう。昨日の残りですが、お食べなさい」


腹ペコだった俺は、おにぎりに手を伸ばして頬張ろうとして、止めた。

いただきます、が言えないからだ。

おねえさんに目をやると、頷いてくれた。


俺は一礼してから、おにぎりを頬張った。

混ぜられた焼き魚の塩味と魚の歯ごたえに食欲が進む。

あっという間に2個平らげると、横から木のコップが差し出された。


「飲むだろう?」

差し出したのはバンだった。


受け取って一息に飲み込む。

「もう少し寝ていなさい」

おねえさんは俺を寝かしつけてくれた。


不思議なもので、腹がいっぱいになったらまた眠くなった。

本当に俺は幼児になったのだと実感させられる。


俺の様子に安心したのか、皆部屋を出ていったようだ。

人の気配がしなくなった部屋で、ひとり思う。

(神様、あの時の約束は方便ってことだったのかな)


『その間は儂が傍でその負担から君を守ろう』

神様との約束を思い出す。


口が利けるようになるまで傍で守る、と。

確かに傍にいる、とは言っていないし

具体的にどのように守ってくれるかという説明はなかった。


俺的には、頭の中に声が響いて、いろいろ教えてくれることを

期待していたんでけど。


『こんな感じかの』

そうそう頭の中に響く感じね・・・

!神様キターーーーーー


『なんじゃ、キターーって。最初からずっと居ったよ』

ほっほっほと相変わらず好々爺っぽい声で、神様が告げる。

『新しい家族との邂逅を邪魔したくなかったのじゃよ』


家族との邂逅か・・・

俺は布団から右手を出して、小さな手を見つめた。


神様、俺やっと神様の考えていたことがわかりましたよ。

神様が前世の記憶を消そうとしたのは、今世の俺が

新しい家族に馴染めるように考えてのことだったんですね。


家族の繋がりを知らない上に、大人の精神を持ったままでは

上手くコミュニケーションが取れないと考えたんですよね?

本当は引継ぎの負担だからとか、そういう理由じゃなかったんですよね。


『ふむ・・・』

神様の考えこむような声が聞こえた、あれ?

『そーではない!』

答えはノーー!って、天才クイズかよ!


『まず記憶の分解はあくまで君の心身のためじゃ』

その上で訂正があると神様が続ける。

それは、話せるようになるまで負担から守るのではなく

記憶維持に伴う負担から身を護るために『話す機能』を消去するということ。


つまり神様がどれだけ傍で守っていても、俺が前世の人格を維持する限り

俺は話すことができない。


『何か話してみると良い』

とは言うものの大丈夫だろうか・・・


いざ話してみたら、話したな!お前を分解してやる、なんてことに・・・

『不信極まれりじゃな』

いやいや、俺の世界にあったんですよ。

覗くなと言われて覗いたら、覗きましたねさようならっていう話が・・・

『覗くな言われて、覗いちゃダメじゃろう』


間違えた。

話すなって言って、確認のために押しかけ女房になって、

聞きだしたら、喋りましたねさようなら、って言われる話があるんです。


『不信がひどい。儂がそれと同レベル?』

まあ、妖怪の話ですからね、流石に無礼でしたね。


俺は寝たままで、神様、と声をだしてみた。

か・み・さ・まと息はでるのだが、音が全く乗らない。


続けて舌打ちと口笛をふくが、舌打ちしか音が出ない。

『いや口笛は君が下手なだけ』


神様の無用なツッコミを無視して、考える。

神様はやり直す機会をくれている。


今前世の人格を分解してくれと言えば、話す能力が戻るのだろう。

でもそれは俺が俺でなくなることと同意だ。

そして俺が俺である以上、神様に傍にいてほしい。


『君でなくなるというのは・・・まぁ言えなくもないかの』


神様、俺は俺のわがままを貫きます。

たとえ話せないままでも、神様の力を借りなければ生きられなくても

俺は俺のままでこの世界で生きていきたいんです。

俺を助けてください。


神様の声は明るく暖かった。

『案ずるな、約束は守るよ。そして』

改めて言おう、と神様は続けた。

『君を歓迎する、異世界へようこそ』


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