初めての面接の時、緊張で屁を連発したのはいい思い出(落ちた)後編
さて、各国がダンジョン攻略に奮起してはや四年、初めに動いたのは中国だった。
と言っても、動かざるを得ない状況に陥っただけのこと。
スタンピードが発生したのだ。
これには全世界が震撼した。
なんせ魔物(この頃には化け物の呼び名は魔物で統一されている。物語に出てくる空想上の生物とそっくりなのだ。)はダンジョンから出てこないことが前提だったからだ。
中国はその国土の広さに比例するように、ダンジョン所有数も世界トップクラスを誇っていた。
最近ダンジョンの発生自体は落ち着きを見せていたにも関わらず、その数を中国政府もはっきりとは把握出来ていない程であった。
そういった状況であったので、最
初期から発生していたダンジョンで山奥にあり、かつ未発見のダンジョンというのは少なくなかった。
似たような手付かずのダンジョンから溢れ出した魔物が合流し、時に争い時に手を組み、実に四年を掛けて膨らみ続け、爆発した。
山奥の村々を食い、徐々に分散し、中国政府の耳に入った頃にはもう喉元に手がかかった状態であった。
焦る政府は隠していた核爆弾を自国へ投下。しかし数が数だけに魔物は目に見えて減らない。
その後、これ以上の核投下は自国を滅ぼすと他国へ救援要請するも、勝手な核使用を非難され、そうこうしている間に国土を魔物に占有される。
中国が墜ちたのだ。
これを受け各国は協議を重ね、アメリカ先導の元、中国大陸を魔大陸と改名。国境を封鎖し、世界連盟の名の下に人員を配置。
しかし国土の広さで言うならロシアの方が広い。国が墜ちるのはある意味自明の理であった。
確認はしていないが南極大陸なんかはもう駄目だろう。北極は知らん。
世界人口を着々と減らす人類は、人口密度の低い所から高い方へ移住し国を統合。自衛戦力を拡大させ、ダンジョン攻略に一層の力を入れる。
これにより196ヵ国あった国は32ヵ国にまで減少。日本インドを除くアジア全域(日本は人口密度の高い小さな島国であったため助かった。)とサウジアラビアに防衛線を引き、残りのユーラシア大陸を『魔国』とした。
ある程度、各国が一旦の落ち着きを見せたのが一年前。
ダンジョン発生からここまでおよそ九年。世界情勢は類を見ない激動の時代となった。
しかしながら各国が貧困にあえいでいるかというとそうでもない。
食料は魔物の肉を食えばいいし、急増された縦長のビル群には、まだ建設中にも関わらず人が押し込められている。
そして相も変わらずダンジョン産の資源は人類にとって、どれもこれも魅力的であった。
一時は人類絶滅の危機かなどと言っていたくせに、なんともまあ図太い生き物である。
そして現在ダンジョン発生から十年が経過したここ日本。
先日僕の家のすぐそばでもスタンピードが起きていた。
どうやらある屋敷の主人が自分家の地下室に発生したダンジョンを隠していたらしい。
ダンジョンから得られる富を独り占めしようとしたのだろう、一人ではダンジョン内の魔物を十分に間引くことは叶わず、魔物が溢れて屋敷の主人は死んでしまったらしい。まったく迷惑極まりないが、当の本人は死んでいるので、町の住人はやり場のない怒りに茫然自失気味であるとのこと。
とはいえスタンピードの規模としては被害は少ない。ゲリラ的発生のため対応が遅れ、たくさんの人が死んでしまったが、前例が前例だけに日本全体で見れば実害は少ない。僕の住む町が地図から消えたくらいだろうか。それを良かったと捉えるか悪かったと捉えるかは、被害者か無関係な人間かで大きく違うだろう。
スタンピード発生が四日前。鎮圧されたのは昨日のことで、魔物と戦ってくれた警備の人が各地を周り、状況説明や被害状況の確認なんかをしてくれている。
スタンピードというのは不思議なもので、ダンジョン内の魔物が一匹残らず出てくるらしい。溢れた分出てくるなら分かるけど、全部って何なんだろうね?なにか他に目的があるんじゃないかというのが研究者内での大多数の見解らしい。肝心の目的とやらは皆目見当もつかんらしいが・・・
ところで僕がスタンピード発生時何をしていたかというところは皆さん気になるだろう(妄想の中のあなたへ)。なんてことない。いつも通り引きこもってましたww
引きこもり生活十年なめんなよ!あんなもん怖くて外出れるかっつうの!いつも通りだわ!!
いやー最初はね?ガクブルしてたわけですよ。お布団にくるまって。んでいつくるかいつくるかと待てど暮らせど来ないわけですよ、魔物が。そのうち疲れて寝ちゃってて、翌朝起きて気付いちゃったわけですよ。あれこれ日常じゃん。って。
そしたらなんか吹っ切っちゃって、普通にいつも通りって感じでぼーっとしてた。
そしたら昨日、戦ってくれてた人が大丈夫ですかって安否確認来てくれて、いろいろ話して状況を知るに至ると。そん時になんか、余裕があったなら一緒に戦ってほしかったって軽く睨まれたけど知らん!こちとら探索者でもない一般市民ですぞ!戦ったことすらない善良な?ヒキニートになんばいいよっとか!?
運の勝利である。
というわけで早々にお帰りいただき(めっちゃ冷めた目で見られた)ぐっすり眠って只今朝の九時半をすぎたところ。
そもそも吸血鬼である僕にとっては、知りもしない町の住民の命よりも、重大かつ可及的速やかにクリアせねばならぬミッションがあるのだ。
歯が痛い。
そう、虫歯である。
この分だと町の歯医者は潰れているだろうし、別の町まで通うのは面倒だ。
そこで僕はある画期的な解決方法を編み出す。そうだ!ポーション取りに行こう!と。
ポーションはダンジョンでとれるアイテムの一つで、いろんな傷を瞬時に治してくれるらしい。
ビバポーション!愛ラブポーション!べ、べつに歯医者が怖いわけじゃないんだからね!
というわけでポーション取りにダンジョン行こうとなっているなう。・・・虫歯って傷だよね?穴空いてるもんね?ね?・・・虫歯は傷である。
朝のラジオ体操を終えた僕は、作り置きしていたカレーでスープカリーなるものを嗜み(しゃばしゃばのカレーいやー)リュックに必要なものを詰めて玄関で靴を履く。
携帯よーし!財布よーし!タバコよーし!包丁よーし!歯痛よーし!歯痛よしってなんだよ!よくねーよ!やけくそである。
だって正直外に出たい気持ちは一ミリもない。魔物怖いお外怖い太陽いやー。しかし急務であることもまた事実。漢には!やらねばならぬ!時がある!
いざ!出陣!!!
こうして昇は、引きこもりから脱却し(先週カレーの材料買いに出た)、十年越しの初陣へと足を踏み出したのだった。