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プロローグ

 光だ

 モノクロと化してゆく世界に逆行するように、輝きを増す二つの()()は、僕に『死』というものを教えるに十分な禍々しさを放っていた。

 さっきまで僕の一部として、その機能を惜しみなく働かせていた全身が、モノクロな彼等とその身を同じにする中、僕はその二つの『死』を、美しいと感じていた。

 噴き出していた汗は今や衣となり、暗水を漂う僕にふわふわとした全能感を与える。


 これでよかったのか


 とはいえ、汚泥の様に纏わりつく死とひんやりとした全能感に、抗う術も、意気も。生憎と持ち合わせてはいなかった。


 悪いとは思う。

 死にたくないとも、思う。

 意外にも、生を望んでいた、そんな自分を今は誇らしく思う。

 だからせめて、最後のこの一時は、自分の為に使いたい。

 もういいかな?いいよね?・・・


 —nんはーーきンもちええェーーーーーー


 自分への言い訳を終え、理性のダムが決壊した僕は、溢れる快楽に身を委ねる。

 だってこれめっちゃ気持ちええeねんももんんんんnnんんんんもっとぉ!!!もっとちょうdzkだいよおおおyyldkjぎあおdckoおおおl;じょvfこ


 そうして僕は、より一層の快楽を求め、その甘美なる光と混ざり合うようにその身を捻じ込んでいく。あーさいこー










 ・・・・・・・・・・



「・・・あー、、」


 病的とまでは言わないが、人よりは白い自分の顔を気怠げに睨み付ける。

 鏡に映るその右頬には、そのまま右手が添えられていた。


「、、っ痛ぇー・・・」


 ただでさえ機嫌の悪い寝起きに、大嫌いな昔の夢。

 加えて最近自分を悩ませる右頬の痛みに、元から白いこの気味の悪い顔が、今は蒼白に染まっている。

 つまり病的と言いたくないのはあくまでも自己防衛であり、傍から見れば明らかに病的であったと言うよりは病気である。

 彼は虫歯なのだ。


 時刻は只今朝の七時を過ぎたところ。

 都内でも然程栄えているわけでもない街中、小鳥が囀りそうな気持のいい陽気が、洗面台の上の窓から差し込んでくる。

 しかし気持ちのいい、というのはあくまでも一般に向けられたものであり、もともと太陽の苦手な彼には現状も相俟って、憎しみを込めて睨み付けるに憚られる理由も憂いもなかった。


「・・・馬鹿にしてんのかよ。」


 朝に弱い彼が悪夢と虫歯の痛みに耐えながら、それでも何とか規則正しい生活を送ろうと、顔を洗いに出てきたところにこの仕打ち。夜型なめんな馬鹿野郎。


「くそ、こんななるならやっぱ行っときゃよかった・・」


 小さい頃の『傷は唾付けときゃ治る』という祖母の言をいまだ律義に守る彼は、「口の中って唾だらけだから即治りじゃね?むしろ完治なう?」というその特殊な思考回路にものをいわせ、歯医者に行くのを躊躇った。くそぅおばあちゃんめ謀ったなァ!!


 そもそもどうして虫歯になんかなるのか。

 彼はこの十年、規則正しい生活を心掛けてきた。

 夜型だろうがしっかり毎朝七時に起き、歯を磨いて苦手な太陽を浴びながらのラジオ体操。

 すこーしあれをこれしてイロンナオトモダチからちょっとづつお小遣いを貰って、あとは気ままに妄想に耽る日々。

 勿論外になんて出やしない!我、健康優良児!少しでもまともに人間であれと努力してきた!毎日の魔力操作は怠らないし、最近は通信空手で運動だってばっちりさ!それのどこに非があったというのか言ってごらん!!?


 いかんいかんまた妄想世界にトリップしてしまっていたとふと我に返り鏡を見ると、そこには青白くなった自分の真顔が映っていてコワいし恥ずかしいし空しいし痛い。歯が痛い。


「・・・ダンジョンかなー」


 洗面台を出てリビングへ行き、窓を開けてベランダに。

 頭の中でラジオ体操を鳴らしながら大きく息を吸って背伸びのうんどー


 3,4!


「たーんたーたたんたたたたーんたたんたたた♪」


 目の前の荒らされたおした市街を見つめる。


「たらたーんたーたたんたたんたたたたたた♪ハイ!」


 路は血で塗れ、原形を留めない臓物がそこかしこに投げ出されている。


「次は、横曲げのうんどー」


 ビルや家屋は倒壊し、心なしか空はいつもよりも澄んで見える。


「たーんたーたたんたたたたーんたたんたたた♪」


 ちらほらと歩く人影は見えるが、生者の皮を被った屍と何が違うのか。


「てゅたたたたたたーんたたんてゅたたたたたたーんたたん♪」


 数日経ってまだ徘徊しているのか、遠くで誰かの悲鳴のような何かが聞こえる。


「んー、ダンジョンかー」


 反対に、何かが何かに、笑いかける音が聞こえる。


「ダンジョンなー」


 まともとは何か、普通とは何か。


「行くしかないかー」


 そんな哲学的で当たり前のことを考える余裕のある生き物は、少なくともこの付近にはいないだろう。


「歯医者行くよりポーション狙いに行くほうが現実的とか笑えないんですけどー」


 考えることの、その余裕があることの幸せに気付けた者は、果たして何人いただろうか。


「腕と足のうんどー、1,2・・これ何のためにある動きなんかいまだにわかんねー」


 気付けたとてだから何だと言わんばかりに、今日も太陽は、上へ上へと逃げていく。



 *****


 旭谷 昇 22歳

 種族【吸血鬼】

 職業【-】:Lv.0

 Mp:256

 Sp:0


 アビリティー:

【吸血】Lv.2【眷属召喚】Lv.1

 スキル:

【短剣術】Lv.2

【格闘術】Lv.4

【魔力操作】Lv.5


しくよろ。

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