ダンジョン45
俺たちが走り出した瞬間、部屋の中のあちこちに魔法陣のようなものが現れ、そこからどんどんと魔物があふれ出てきた。
前を見ると奥側の入り口、つまり俺たちから見てこの部屋の出口は閉じている様子は無い。
出てくる魔物もそこまで速いペースで出てくるわけではなく、また現れた魔物も出てきてすぐに動き出すわけではないようだ。
なので思ったより余裕をもって部屋の出口にたどり着けそうだ。
魔法陣からうじゃうじゃと魔物が出てくるのを横目に俺たちは必至で足を動かし、ついに部屋の出口まで辿り着く。
すでに魔物たちはこちらの姿を認識し、近くにいるものはその武器を振り上げながら追いかけてきているが、
こちらが部屋の外に出る方が早い。
俺よりSPDの高いリコが先に部屋から出て振り返り、魔法の準備を始める。
そして俺がリコの横を通り過ぎた瞬間その魔法を発動させ、すぐ後ろまで迫っていた魔物たちを切り裂いた。
範囲魔法『エアカッター』
鑑定の説明にあったように、後ろに続いていた魔物も巻き込み数体の魔物を光の粒に変える。
しかし部屋の中にはひしめき合う魔物の姿。
一瞬出来たスペースに我先にと別の魔物が飛び込んできて、こちらにその手に持った武器を振りかざしてくる。
魔法を打ったばかりのリコと場所を変わりなんとか敵の攻撃を凌ぐ。
事前にマップで確認はしていたが、こちら側の通路はそこまで広くは無く、ギリギリ魔物が2体並んで通れるぐらいのスペースしかない。
少しずつじりじりと下がりながら攻撃を凌ぎ、タイミングを見てバックステップで一気に下がる。
そうすると俺の後ろで準備をしていたリコが範囲魔法で再び魔物を消し飛ばす。
この感じだと、出てきた魔物はずっとこの階層に留まるようだな。
後はちらっとしか見えなかったが、1つの魔法陣から複数体の魔物が出てきていたように見えた。
無限に出てくることは無いと思うが、どれだけの魔物が出てきているのかも問題だな。
そんなことを考えながら再びリコと場所を変わり魔物の攻撃を凌ぐ。
しかし、今は通路が狭いから一度に2体までしか相手にしなくて済んでいるが、逆を返せば魔物の数を減らすのに時間がかかるという事だ。
魔法で一列になった魔物を一度に倒せるとはいえ、いったい何体出てくるかもわからないし、下手したらこのままじりじりと階段まで追い詰めらられてしまう可能性もある。
どうしたものかと考えている間にも魔物はどんどんこちらに迫ってきている。
俺たちと相対している魔物も、後ろからあふれんばかりの魔物たちに押されてるわけだから、今の俺たちの実力ではこの場で押しとどめるなんてことは出来ない。
「コケッ!!」
リコから合図が来たので魔物からの攻撃の勢いを利用して後ろに下がる。
そこに、俺がいなくなり体勢を崩した魔物めがけて風の刃が飛んでいく。
後ろ数体の魔物を巻き込み出来た一瞬の隙。その隙を狙って俺はマップを開き一瞬で確認を済ます。
チラッとしか見えなかったが、部屋の中の赤い光点はすべてこちらの通路側に固まっているようだった。
つまり、魔物はこれ以上増えないと考えてよさそうだ。
と言っても、部屋の四分の一ぐらいと、俺たちが今いる場所から部屋までの通路は真っ赤に染まっていたわけだが。
しかし無限に魔物が出てくるわけではないと分かっただけでもいい。
とりあえずはMPの続く限り今の作戦で倒すことにしよう。
迫りくる魔物に対し、俺が前衛で攻撃を凌ぎその間にリコが魔法の準備。
準備ができたら俺が後ろに下がりリコが範囲魔法を放つ。
そしてまた俺が前に出て、リコの魔法の準備ができるまでの時間を稼ぐ。
この作戦で戦闘を開始して短くない時間が経った。
現在リコの最大MPは56だ。エアカッターを11回打てる。
魔物たちも密集している為一回の魔法で大体7~8体倒せる。
つまり、リコのMPを限界まで使って大体80~90体倒せる計算になるわけだ。
そしてその計算通り、今通路の床には約100分の魔物のドロップアイテムが落ちている。いや、落ちていたといった方が正しいか。
現在マップで確認すると、魔物の数はようやく半分と言ったところ。
倒しても倒してもドロップした骨なんかは後から押し寄せる魔物たちに踏まれて粉々になってしまっている。
今のところ使い道は無いのに、拾えないとなると何となくもったいないと思ってしまう。
と、今の現状を説明してみた訳だが、現実はそんな余裕がないぐらいヤバい。
なにしろ、後少なくても100体は魔物が残っているはずだからだ。
流石にリコの魔法なしでこの数を凌ぐことはできない。
一瞬の邂逅の後、俺は撤退することを決めた。
「リコ!最後に一発撃ったら走るぞ!」
俺の言葉にリコは頷く。
ここまでの戦闘で時間はそれなりに経過しているので、エアカッター1発分ぐらいのMPは回復している。
タイミングを見て俺が一気に後ろに跳び下がり、そこにリコが魔法を放ち魔物の群れに一瞬の穴ができた瞬間に俺たちは後ろを向き全力で走り出した。
グオオォォォオォォ…
後ろから魔物たちの叫び声が聞こえるが振り向く余裕なんてない。
一気に通路を走り抜け、先に見えた階段へと飛び込む。
そして階段を下りた先で素早くあたりを確認する。
事前に二人で考えていた通り、階段を下りた先には5階と同じように小部屋があり、その中には5階にあったものと全く同じ形の転送機が鎮座していた。
素早く作動させ、即拠点へと転移する。
転送機が作動するまでの時間、おそらく一瞬だったのだろうけど俺たちには途轍もなく長い時間に感じられた。
目の前のに見慣れた岩が現れる。
辺りを見回して無事拠点に戻ってこれたことに大きく安堵の息をつく。
思わずその場に座り込んでしまうが、隣を見るとリコも同じような様子だった。
流石に今回は危なかった…。
事前に予想していた仕掛けの中で比較的マシな状況だったのが大きいが、それでも魔物の内半分は残して撤退することになった。
残った魔物がどういった扱いになるのか分からないのが不安だ。
とりあえず2人とも疲労で動ける状態ではないし、リコも人化するMPが足りない為しばらくこのまま休むことにした。
リストから出した水を飲みながら休憩していると、リコの体が光り出し人間の姿へと変わる。
「あー、流石にしんどかったねー…。」
座った状態で人化したのでそのまま後ろへと寝転がった。
「そうだな。無事に帰ってこれたのは運が良かった。」
「だねー…。」
疲れているからだろう、いつもより元気のない声で答えるリコ。
実際ポータルがあったから助かったものの、もしなければ今頃はあの魔物の群れに押しつぶされていたことだろう。
5階にポータルがあったことから、おそらく10階にもある可能性は高いと思っていたが出来ればもっと余裕のある時に確認したかった。
「でもあの残った魔物ってどうなるんだろ?」
「そうだな、俺もそれが気になっている。」
「ポータル使ったら目の前に魔物がいました、とか嫌だよね…。」
そう、再びダンジョンに潜る際に一番最悪な状況というのは、魔物たちが10階にも降りてきており、さらにポータルのある小部屋にも入ってきているというパターンだ。
一応心構えをして武器を持った状態で移動すれば対応はできるだろうが、問題はその戦闘でポータルが壊れたりしないかというところだ。
「出来れば、違う階層には階層は移動できません。であればいいけどねー。」
9階から移動できないのであればまだやりようはあると思うが…。
ま、何にしてもいつも通りこの目で見て確かめてみないと分からないんだ。
一応最悪なケースだけは常に考えておくことにしよう。
とりあえず時計を見ると良い時間になっていたので、昼食を取ることにした。
軽めに2人でパンを食べ、疲れの残る体を休ませつつこれからについて話をする。
とりあえずはポータルで10階に降り状況確認。
すぐに魔物に襲われることがなさそうなら軽く10階の確認をして9階に上がってみる。
9階は残してきた魔物の状況、そして可能ならモンスターハウスが再び作動するかどうかの確認。
確認内容はこんなところかな。
ま、残してきた魔物がそのまま残ってると考えて、ポータルを使う前にバッチリ気合入れていかないといけないのは間違いない。
食事後休憩をしっかりと取った俺たちは、いつでも戦闘に入れるよう準備を済ませポータルを起動した。
…転移先で魔物と至近距離で見つめ合うことが無いことを願いながら…。




