ダンジョン40
次の日。
普段なら色々と趣向を凝らして起こしに来てくれるリコも、流石に今日はふざける気はないようだ。
コンコンとドアをノックし、控えめに声をかける。
「守さん、起きてる?」
普通に起こされたことがないから、逆になんだか不思議な感じがする。
「ああ、すぐに行くから待っててくれ。」
布団から起き上がり寝室から出る。
リコと一緒に朝食を食べ、ダンジョンに行く準備を整える。
普段は色々と話をしながら食事をするが、今日はお互いに無言だった。
緊張しているという訳では無いが、何となくお互いに言葉が出てこない。
「よし、行くか。」
言葉数は少なくとも、やる気が無くなった訳でも、ましてや二人の仲が悪くなった訳でもない。
ポータルで5階に移動し、昨日も通った道を奥へと進む。
そしてついに、ゴブリンが出現するであろう中盤にたどり着いた。
通路の先に緑色の肌をした魔物を見つけた時、俺は思いのほか自分が落ち着いていることに気が付いた。
よくゲームや小説では、トラウマになった魔物と再戦する時に前回の記憶がよみがえってきて身体が動かなくなるなんてことがあり、実際俺もそうなるんじゃないかと心配していたけれども、どうやらそれは杞憂だったようだ。
むしろ恐怖心というものをあまり感じない。
予想外に冷静な自分に驚きつつも、隣を見ればリコも同じような表情をしている気がする。
なんだかよくわからないがこれはチャンスかもしれない。
こういうのはタイミングが大事で、ずるずると時間を掛けるといつまでもできなくなることも多い。
理由は分からないが、ゴブリンと戦うことに対する恐怖心が思った以上に少ない今こそ、乗り越えるチャンスだと思う。
「リコ、ゴブリンは任せてもらっても良いか?」
俺の言葉にリコは戸惑いながら頷く。
おそらく今、リコも俺と同じ感覚なのではないだろうか。
視線の先にはゴブリンが1体とガイコツが3体。
俺は魔物に向かって駆けながら魔法を発動させる。
小さな石の塊が1体のガイコツに向かって飛んでいき、わずかに遅れて風の玉が俺の横を通過して別のガイコツを捉える。
こちらに気づいた魔物は武器を振り上げながら近づいてくる。
大丈夫だ、身体はちゃんと動く!
射程圏内に入り振り下ろされた棍棒を横に避け、顔面に蹴りを喰らわす。
強い衝撃に一瞬意識を飛ばしたゴブリンの頭上へ、俺は容赦なく剣を振り下ろす。
ザシュッ
肉を切り裂く感触が手にダイレクトに伝わり、ゴブリンは光の粒となって消えていく。
振り返るとリコが残りのガイコツを倒したところだった。
戦闘が終わっても、俺は特に動じることはなかった。
前回のは一体何だったんだと思えるぐらい、俺は落ち着いており、ゴブリンを自身の剣で切り裂いたことをごく当たり前に受け入れていた。
端から見るとまるで別人。そう思えるような状況に俺もリコも疑問を抱き、念の為今のステータスを確認してみることにした。
メニューから自分のステータスを確認すると、昨日確認した時と比べ変わりは無かった。
ただ一つ、気づかぬうちに増えていたスキルを除けば、だが。
スキル『恐怖耐性』
恐怖を感じることに対して耐性が付く
恐怖を感じにくくなる
いつの間にこんなスキルが…
少なくとも俺はリストから交換した覚えもないし、メッセージだって聞いてない。
ついでにリコのステータスも確認すると、同じスキルが存在していた。
リコにその事を話すと驚いた表情をして、そして何かを考え始めた。
昨日の探索中には無かったと思うんだが…
しかし最後にステータスを確認したのはゴブリンに会う前だったはず。
自分でリストから取った訳でもないし、当然リコが勝手に取ることもないだろう。
むしろ共有スキルが『不死』のままだったから取れるはずは無いしな。
となると考えれれるのは、拠点のレベルアップと同じように何らかのタイミングで条件を満たして習得したというのが可能性が高いが…。
ふいに足をツンツンとつつかれる。
視線を向けるとリコが来た道を指差している。
…一旦帰ろうという事か。
リコの意見に従い、俺たちは元来た道を引き返し拠点へと戻ってきた。
拠点に入ると早速リコは人化し、俺の方へ振り向いて言った。
「守さん、共有スキルを変更してもらっていい?」
不死からメニューへと共有スキルの変更をする。
しばらくの間リコはメニューと睨めっこしていたが、ため息をつきつつ顔と両手を上げ、お手上げのポーズをとった。
「だめ、わからないわ。」
こちらは何が分からないか分からないので聞いてみる。
「何を調べてたんだ?」
「えっとね、この『恐怖耐性』ってスキル、普通のスキルと違うみたいなのよね。その証拠にリストには恐怖耐性のスキルが未修得として載ってるもの。」
…何だって?
慌てて自分でも確認すると、確かにリスト内に恐怖耐性のスキルが未修得として存在していた。
これまでに習得した体術やマップなどのスキルは、リスト内ではグレーで表示され「習得済み」の文字が書かれている。
しかし恐怖耐性のスキルはグレーになっておらず、スキルは未修得として扱われている。
…どういうことだ?
先程ステータスを確認した時には確かに恐怖耐性のスキルは存在していた。
スキル欄を閉じ、もう一度ステータス画面を確認するときちんと習得スキルの中に恐怖耐性の文字がある。
いったいこのスキルは…
「もしかしたら、同じ名前だけど全く別物のスキルなのかもね。」
リコの言葉でハッと我に返る。
「守さんのメニューや不老不死だって多分特殊なスキルに分類されるはずだし、それと同じようなスキルって考えられないかな?だって、今私たちが持ってる方にはレベルが無いけど、リストの方にはレベルがあるみたいだし。」
よくよく確認すると、確かにリスト上には【 スキル『不老不死』レベル1 】とあるが、ステータスに載ってるスキルにはレベルが無い。
となるとやはり全くの別物なのか…?だとしたら何てややこしい。
「じゃあこのスキルについては、普通とは違う特殊なスキルって事でいいかな。となると、後はどのタイミングで手に入ったかだけど…。」
スキルに関しては今はこれ以上分かることも無さそうだし、一旦は保留でいいだろう。
おそらく鑑定のレベルが上がれば説明文も増える可能性だってあるしな。
そして、スキルを得たタイミングについてだが…
「多分だが、拠点に帰ってきて寝ている間じゃないか?二人ともメッセージを聞いていないってことは二人とも意識が無いときのはずだし。条件を満たすトリガーは、二人が精神的に疲弊しているとか、何とか前に踏み出そうとする気持ちを検知してとか…そんなところか?」
「うん、確かスキルが共有できるようになったのも、2人のこうなったら良いなって言う気持ちがきっかけだったはずだし、可能性は高そうだよね。」
「…となると、俺たちは常に見張られてるってことになるのか…?」
ふと思いつき、思わず辺りをキョロキョロしてしまう。
「んー、相手がすごい力を持ってるのは確実だからね…。ずっと見られてるのか、それともその能力の一部で管理してて、何かあった時だけ接触してるとかかも。」
俺たちをここに連れてきたXがどんな存在かは分からないが、四六時中ずっと見てるとしたらよっぽどの暇人だよな。
プラス悪趣味なストーカー覗き魔。
はたまた俺たちを暇つぶしの見世物として扱ってる可能性だってある。
今回のスキルだって、途中で攻略を諦められたら困るから、もしくは面白くないからという理由で押し付けてきたのかもしれない。
…考えていたらなんだか腹が立ってきた。
「リコ、絶対にこのダンジョン攻略してやるぞ。」
「え?あ、うん。」
「最初に言われたのはダンジョンを攻略しろってことだ。流石に攻略が済めば奴も姿を現すだろう。その時に多いっきり問い詰める。場合によっては一発ぶん殴る。」
「…そう…だね。うん!頑張ろう!」
俺たちは玩具なんかじゃない。
絶対にいつか必ずあいつの鼻を明かしてやる。
心の中で強く決意を固め、俺たちは再びダンジョンへと潜っていった。




