始動
県立海波高校。進学クラスを3つとスポーツクラスを5つ、不良クラスを7つも持つ県内有数の巨大な高校。現在は総勢2000人を超える。数十年前の少子化で近隣の高校がまとめて合併されたが、最近では生徒数も増えていて近々クラスが増える。頭脳明晰から低辺まで幅広く所属していて国内最高峯の大学に数年に1人出すぐらいには優秀である。
しかし、近年は不良の増加に伴って校内の治安の悪化、スポーツクラスと不良クラスのいざこざが目に見えてひどくなっている。特にバスケ部は長く不良のたまり場となっており、5つある体育館のうち1つを占拠、その近辺の部室も占領されている。
これらのことを問題視する熱血教師もいるが、不良の数が多すぎて対処できず突っ込んでいった教師は次の日にはトラウマを抱えて逃げ出してしまう。そんな絵に書いたような不良学校にはるばる沖縄からやって来た少年がいた。
「俺は獅子翔陽。沖縄出身で家族の都合でこっちに来ました。中学はバスケやってたんで、バスケやりに来ました」
この学校のバスケ部の状況は県内の人には周知の事実で、クラス中がざわめく。3種類のクラスがあるといっても1年の間は特にひどい、もしくは有名でない限り進学を希望していても、不良でも同じクラスに混ぜられている。これは不良の救済処置であり、少しでも多くの者を更生させるためである。
「えっと、君、県外受験だっけ。知らなかったのかい?ここにバスケ部はないよ」
翔陽は少し首を傾げ、先生に聞き返す。
「ここの生徒に聞いたら、500人の部員がいるって言ってましたよ。なんか剃り込みを入れた厳ついアンちゃんが?」
先生は視界を手で隠し、天井を仰ぐ。
「あ~。確かにあるといえばあるんだけど。うちのバスケ部は不良の集まりなんだよ」
それを聞いても、翔陽は顔色一つ変えず
「大会って出てますか?」
「ん?確か出てたみたいだね。三回戦敗退だったかな。かなり嫌われているよ」
「へ~。じゃ、問題ありませんね」
翔陽のその返答に先生を始めほとんどの生徒が顔に驚きを浮かべる。
「問題ないって―――」
「俺、強いっすから」
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入学式に不参加の生徒がちらほらいて空席が目立ったが、不良による妨害もなく静かに終わった。不良が幅を利かせているため校舎には損傷や落書きが至るところに存在した。
進学を希望している生徒は足早に帰路に着き、スポーツ科は部活に励む。そんな中、翔陽は気楽に校舎を歩いていた。手にはペンと手帳を持ち、一つ一つ教室を開けては観察してメモをとる。今までそんな生徒を見たことがない教師は翔陽の姿に驚き、今年主席で入った生徒だと気付くと興味を強める。基本的には横を通り過ぎるだけで、挨拶をしたら返す程度だったが、フレンドリーな先生とは足を止めて話し込んだり気をつけたほうがいいことを聞いたりした。その熱心な姿は教師に好印象で、主席であることも相まって早くも信用を得た。
広い校舎を回り終えたときには既に夕方が近づいており、日が沈みかけるなかバスケ部が占領している体育館に向かっていく。
「おいそこの小僧。ここからさきは通行止めやで」
翔陽は向こうから寄ってきた三下感丸出しの下っ端を視界に入れてほくそ笑む。
翔陽の身長は168。一般的な高校生の平均より小さく対して相手は180超。別段がたいのいい体をしているわけではないが威圧感はある。
翔陽はそのまま無視を決め込んで進む。
「うをぉい」
三下が拳を振りかぶって殴ってくるが、その拳を掴んで力の向く方向そのままに流して投げ飛ばす。
「雑魚にはようねえよ」
ポケットに手を突っ込み、鼻歌を歌いながら進む。
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side不良A
部室で麻雀をやっていたら外が騒がしくなっていた。
「おい、誰か見てこい」
3年の先輩がそう言うと今日入った1年がドアを開けて出て行った。今日既にいる奴らは前から声をかけていた中学からやんちゃしていたやつか、前からの舎弟だ。半荘終わっても一向に帰ってくる兆しが見えないのでしょうがなく俺が見に行くことになった。残っていた1年の1人と交代して外に出る。
他の部室のドアが開きっぱなしになっていてもう誰もいなくなっていた。外の喧騒も静まっていてどっかの馬鹿が調子乗って俺たちのグループに喧嘩を売りに来て倒されたのかと思って戻ろうとしたが、違和感を感じた。
「誰も、いない?」
普通この時間はほぼ全員残っていてバカ騒ぎをしているはずだ。新入生歓迎としても俺たちが呼ばれないのはあまりにもおかしい。何で誰も呼びに来ないんだ。
襲撃があった。俺の勘がそう言っている。
拳が、手が震える。
「武者震いだ」
そう呟くが、体は正直だ。
この部室には俺より喧嘩がうまい奴が何人もいたはずだ。それなのに。それなのに。
足を引きずりながらゆっくりと近づいてくる音がする。
「ひっ」
腰を抜かし、それでも後ずさろうとする。
「彰二、さん」
現れたのは下っ端の1人。さっき部室を出て行った1年生だった。左足を引きずり、服は泥だらけになっている。目の下を張らし、唇からは血が出ている。さっきまで整っていた髪はボサボサで泥水で汚れている。
「化物です。慎二さんが大須賀さんに伝えるまでもねえって言って残っていた奴ら引き連れて行ったのに。全員やられました。今、体育館裏に―――」
「道案内、ご苦労」
1年の頭を掴み、地面にぶつけた。
太陽が、沈んむ―――――――――
目元まで伸びた前髪、髪の間から微かに覗く蒼い瞳。風が吹き、黒髪がなびく。身長はだいたい170。服装
に一切の汚れはなく。腕にかけている学ランが少し汚れていた。
「あんたがトップか?」
髪を掴まれ、近づく顔から逃げることが出来ない。
「ち、違う」
「そう。で?トップはどこにいんの?」
「今日は既にボスは帰った。二番手が部室に。あの、閉まっているとこ」
「そ」
そいつは俺をその場に放置して、部室に向かう。
恐怖が俺を縛り、何も。声を上げることすらできなかった。
ガコーン!!!
部室の扉を蹴っ飛ばして中に消えてしまう。
仲間の声が微かに聞こえたが直ぐに黙らされ、腰が治って1年の怪我を見ているうちにそいつは出てきた。
「おい。体育館裏で倒れている奴もいるから。そいつらも見てやれ」
そう言い残すとそいつは帰ってしまった。
「うう」
1年の目が覚めると、肩を貸してやって部室まで連れて行くと部室が無残な状態になっていた。
二番手の大須賀さんは椅子に座ったまま項垂れており、雀卓は倒れていて雀牌が床に飛び散っている。他の残っていたメンバーは吹き飛ばされていて伸びている。
「大須賀さん。いったいここで何が?」
ぴくりと大須賀さんが身震いをした。
「彰二、無事だったか、良かった。ありゃあ化物。いや怪物だ。ボスでも勝てねえ。あんなんには勝てねえよ」
意気消沈した大須賀さんはそれ以上何も言わなかった。
とりあえず、部室で伸びているメンバーを救出して床に横たわらせる。
「大須賀さん。俺は体育館裏のメンバーの怪我を見てきます」
部室から救急箱を持ち出して、体育館裏に急ぐ。部室のメンバーは1年がなんとかするだろう。
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外灯が体育館裏を僅かに照らす。
そこにあったのは血の海だ。100を超える死体(生きている)、弱った息遣いと呻き声。地獄かと思った。今まで大きな抗争もあったがここまでの被害はそう無かった。今日は新学期早々でメンバーが少なかったことも助かり被害は小さかったのだろう。あの化物、怪物には俺たちみたいな雑魚がいくらいても無意味な被害が増えるだけだろう。
流石にこれは1人で手当できないので手当たり次第に救援を呼んで、センコーが来る前に処理を終えた。もし見回りが来ても流石にここまでは来ないとは思ったが前ゴリラが来て禁煙で停学になったバカがいたこともあり、急いだ。
今回の状況は救援に来たメンバーから全体に伝わり、明日ボスによって報復しに行くことが決まった。
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side翔陽
家からランニングで朝早くに登校し、昨日帰り際に先生から第2体育館の鍵を受け取っていたので体育館でシュートの練習をする。第2体育館は授業でバスケをやるため道具が用意されている。
「おお、やってるな。と言うか上手いな」
昨日鍵を借りるときに話したゴリラのような先生が入ってきた。
「早いっすね先生。」
一別した後、リングに視線を戻す。膝をよく曲げ、全身を余すことなく使い力を伝える。
ボールは山なりの軌道を通りリングに掠ることなくシュートが決まる。翔陽が今立っている場所はハーフライン上。
「凄いな。1年生でそこまで綺麗なフォーム。さぞ名のある選手だったんだろ?推薦も多かっただろうに何故うちに?」
ゴリラ先生は転がっていたボールを拾い上げ、俺にパスしてくる。
「先生バスケの経験は?」
パスされたボールを手の内で回し、手に収める。
「ミニバスをやっていたが、ずっとサッカーだな。これでもIH出場選手だぞ」
「IHっすか、すごいっすね。俺も全中で全国行ったっす。推薦も来ましたけど、家族と離れるのもって思いまして――――――」
二度目のシュートも先ほどと同じように綺麗にキマる。
「そうか。もったいないな」
「そうっすか?」
手の内で回していたボールを止める。
「俺はそう思いませんよ。それに、俺はこの学校でも全国に行くつもりですから――――――」
ゴリラ先生は唖然とした表情を浮かべる。
ガンッ!!
体育館のドアが乱暴に開けられる。
「東!校内の物はもっと大切に扱えって言いているだろう!」
東と呼ばれた不良は俺がバッシュを履いているのを見て笑う。
「まさかこの学校にバスケやりに来るバカがいるなんてな。彰二たちから聞いたぜ、昨日のこと」
東は手に持っていた学ランをドア横に投げ、シューズを履く。
「これでもバスケマンでね。体育館だけは汚したくないんだよ。とりあえず、バスケで勝負しねぇか?」
腰につけていたジャラジャラとした鎖なども外す。
「あんたがここのトップであってる?」
「ああ。対抗勢力はいるが、ここのトップはバスケ部のキャプテンの俺だぜ」
東は敵対心を隠そうともしない
「そう――――――」
俺もニヤリと笑う。
「ゴリ・・・五里村先生。退いていてください」
手に持っていたボールを東にぶつける。
「獅子君。危険すぎる。こいつらはラフプレーが多くて問題ばかり起こしているんだ――――――」
「邪魔っすよ」
激しい接触プレー。審判のいないここではラフプレーも合法だ。しかし、俺がそこいらの高校生に負ける訳が無い。
「弱いっすね」
たった数秒のワンプレー。いとも簡単にスティールに成功する。
驚きを見せた後、明らかに集中力を増した様子で目を細める東。その瞳は目の前の生意気な新入生に向けられている。実力を察知したのか雰囲気が変わる。
左右に小刻みにブレるハーキーステップからの、高速ドライブ
「速えっ!」
抜き去り、レイアップを決める。鮮やかに抜かれた彼は、歯軋りをしながら悔しげに呻いた。
「ルール、決めてなかったすね。まあ、余裕っすわ。相手になんないっすから」
東はその場で膝から倒れ、歯を食いしばる。
「じゃあ、次の俺のオフェンスを止めれたら先輩の勝ち。俺が決めたら俺の勝ちってのはどうっすか?明解でしょ」
その言葉に光を見たのか東は立ち上がった。
「分かった。じゃあ勝った方が相手に命令権を持つってどうだ?」
「それ、いいっすね」
両者、位置につく。
東の狙いはファールだろう。確かにファールでも止めたは止めただからね。
「じゃあ、行くっすよ?」
「ああ。来い」
即座に俺はシュートを撃ち込む。膝の曲がり、体幹のブレ、手首の返し、指先の掛かり具合。見なくても結果はわかる。毎日何千球と撃ってきたのだから。高く投げ上げられたボールが、リングに突き刺さった。
ファールをする可能性さえ与えない。完全なる勝利だ。
「くっそ!!」
東が殴りかかってくる。
「獅子君!」
ゴリラがこちらに駆け込んでくるが、俺はその拳を避ける。
「五里村先生、先生1人では危険です。先に他の先生を呼んできてください」
「しかし・・・」
その場に留まり迷い出すゴリラ。
「疾く!」
ゴリラは俺が揚々と避けている姿を確認すると、体育館を出て他の体育科の先生を呼びに走った。まだまだ現役の足は速かった。
ドスッ
東の腹に強打。腹を蹴り上げ、床に寝かす。
「おい、そこにいるんだろ?」
ドアの向こうに隠れてずっと見ていたモブに声を掛ける。
「はい!」
慌てて出てきたのは昨日見た不良の数人。
「これ、持ってって。後、起きたら俺の下に付くように言っといて」
「はいっ!!」
なぜか気を付け。まあ、いいや。
不良が去ったら、シュート練習を再開する。そのうちゴリラと他の先生が来たが、先生の相手が面倒で逃げたと言ったら帰っていった。
#####
まだ入学早々でまともな授業もなく、午前中で終わった。部活やっている何人かを誘って一緒に飯を食い、仲良くなった。県外勢ということもあり話題には欠けない。ちょっとしたグループを作れば後は少しずつ集まってきて簡単にまとめれた。
クラスでは幸先良く、皆がクラスから離れると、今朝見た不良が俺を呼びに来た。
「東さんがお呼びです」
彼らの付き添いで俺はバスケ部室まで行く。
そこには東を始めとし他に昨日伸ばした奴らが数人いた。
「で?」
重い空気を纏って黙りを決め込む東たちに声を掛ける。
「あんたは何しにここに来たんだ?」
弱々しい声で聞いてくる。
「あ?ああ。ちょっと仲間と全国で会おうって約束していてな。それでちょっくらバスケで全国行こうと思ってんだ」
「確かにあんたぐらいの実力があれば県に行くぐらいは余裕だろう。じゃあ、俺たちはバスケ部から手を引けばいいんだな。バスケ部のキャプテンの座を渡すよ」
他の奴らは下を見ているが、東は俺の方を向く。
「ああ?何言ってんだ?それじゃ意味ねぇだろ」
全員が俺を見る。
「てめえら全員、バスケやんだよ。それで、連れてってやる。全国に――――――」
一様に驚愕してやがる。はっ。
県立海波高校 1年 獅子 翔陽
身長 168
体重 55
ポジション ポイントガード
出身 沖縄県 明日ヶ丘中
全中王者であり絶対王者。在校中3年間一度たりとも黒星はなく、伝説を作った。学校の合併反対、存続のために生まれた時から一緒にいた島の子供14人と共に阿吽の呼吸で勝利を掴み取った。どっこから入手したのかは不明だが圧倒的知識量があり、仲間を1人でコーチングして、14人のそれぞれの利点を伸ばしながらオールラウンドな選手に育て上げた選手兼キャプテン兼コーチ兼監督。2人いた女子はマネージャーをやってもらった。中学のときから3pラインから安定してシュートを決めれていた。模試では常に満点を取り、全国1位の座を譲ったことはない。強豪校の全てからスカウトが来たが全て断り姿を消した。他の仲間はそれぞれ推薦を受け、バラバラの県に別れた。部員全員がスカウトされていた。マネージャーでさえも(女バスとしても)。多くの逸話を生み出したが結局は学校は合併され、全国でもう一度会うことを約束して1人残して島を去った。
こう言うスポーツものって言葉で描写するの難しいですよね。試合中誰がいつどこにいるかをいちいち書いてたらうざいし。力不足ですいません。
ノリとテンションで書いてるので、不定期です。