王と覇の資質
破壊に創造、瓦解に構築。
世界に輪郭を持たするはただ無二の存在なり。
すなはちゼーレなり。
《中略》
耳を澄まさば世界の声音響けり。
されどゼーレはひとへに沈黙を守れり。
沈黙なるいたづらなるののしりに驚かであり。
ゼーレと結びし黙示の契約を果たす者やうちいづる。
【ユーグ新生記 第2章 ゼーレ降誕より抜粋】
宇宙に散在する多くの文明が勃興と滅亡を繰り返した、遥か遠い未来。
第一の大戦から数えると実に九回に渡って勃発した銀河大戦は数え切れない犠牲と無数の悲劇を生んだ。
しかし皮肉にも科学技術の進歩は戦争が助力となっていた。
最後の大戦と呼ばれる大マゼラン戦争では数々の英雄と、億越えの犠牲者が生まれた。
永きに渡る平和、そして人間に限らない無数の種族がもたらす繁栄は銀河統一政府である世界連邦が守り、新世界秩序を完成させていたが、銀河は余りにも広大なため究極の管理社会を作ることは現状困難であった。
また、共和制の退廃と分離勢力の段階的な増加が、連邦の衰退を顕著化させ新たな戦争の気配が燻っていた。
技術面では革新的な技術が“発見”された。
玖歴1年。
大マゼラン戦争に終止符打った“アラギバケイジ暴走事件”という一人の軍人が突如暴走した事件。
それが最も普遍的な最初の魔導の発現であった。
月日は流れ、アラギバケイジ暴走事件は一種の伝説となり、長らく続いた戦争は遠い過去の出来事として扱われていた。
しかし戦後から半世紀過ぎた時、世界各地で特異な能力を持つ“新人類”が出現し、人類に新たな局面を迎えることになった。
玖歴86年。
その後、超能力に関する研究が進められ、超大統一理論の権威であり連邦兵器開発部門の責任者であるグァバ・カトルは論文でこう言った。
「超大統一理論は世界の四つの力を統一する万物の理論とされてきたが、それは間違いだったことに気づいた」
「原子や素粒子、光や闇、基本相互作用の四つの力、更には世界の現象までも、たった一つの極点の存在が正体であった」
「その正体を突き止めることこそが、超大統一理論を越える“万象の理論”である」
「この理論が実証されれば、凡ゆる現象が説明できるようになり、生命や物質、宇宙の起源から、時間と空間を司る神の正体まで見えてくるだろう」
玖歴698年。
その力が持つ強大さは人々の記憶に強く残り、「すべての存在の頂点に君臨し人々を支配し主導する『覇』と『王』の資質である」と、形而上哲学者のマナ・パラパッチ・デブは説いた。
玖歴1005年。
グァバの万象の理論を完成させたビガ・グランは最終的に「森羅万象を司る事象子と、存在物を包容している無限の時空で絶えず変化する世界軸である」と自身の著者“万物統一性理論”でまとめた。
万象のエネルギーであるサーガとそれを目に見える形で発現するアクシス、人々はサーガとアクシスによって発動される超自然的な力を《ゼーレの魔導》と名付けた。
ゼーレとは、古代から文献として語り継がれる神話で森羅万象を意味する言葉である。
玖歴1700年。
魔導は信仰の対象となったり、物理学に革命をもたらしたりしたが、ゼーレの能力的な一面をまとめ上げた連邦統一軍戦略魔導師部隊のヴラド・ケルビム・エンシェドはこう言った。
「王の資質はアクシスであり、覇の資質はサーガである。一つも欠けては魔導は意味を成さない」
「その身にサーガとアクシスが宿ろうともそれを熟すには」
「膨大な情報を作動記憶し複雑な知覚演算を感覚的に行える卓越した情報処理能力」
「一気に拡張された五感の知覚情報と時空の流れを感知させる第六感を統一できる研ぎ澄まされた集中力」
「潜在する強大な二つの力に気圧されず自我を保つことができる強靭な精神力」
「そしてそれらを得るに相応する膨大な経験値と修行による完全なる知識が必要である」
「またサーガは生命の根源でもある」
「膨大なサーガを宿す者は種族を問わず長命、更には不老不死を手にする者まで現れるだろう」
「力を悪用してはならない」
「世界には混沌が訪れ、人類は終極の時代を迎える」
このエンシェドの言葉は人々に強烈な印象を残りした。
魔導を行使するものは、「ゼーレの遣い」「ゼーレの守護者」などと言われてきた。
魔導者は生まれながらにして支配者であり破壊者であるが、正しく使えばその力は希望となる。
魔導者には生まれ持った宿命があると言われている。
しかし、その宿命が時に重荷となることがある。
ひとりの人間が背負うには重過ぎる宿命だ。
その宿命とは何か。
それは誰も知らない。
少年もまた知る由もない。
この物語は、最後の大戦から1800余年経過した最後の平和の時代から始まる。
*シリアスな作品ですが、ギャグやエロも織り交ぜていこうと思います。
グロやエロ描写は少し激し過ぎることもあるかと思いますので、苦手な方はご注意ください(´・ω・`)