第三部 20
第三部 20
「立村、今話したこと、全部理解できたか?」
上総はふとんから顔を出したまま、首を振った。本条先輩は頬を四角くして笑った。
「だろうな。まあいいや。お前にはまだ早すぎるよなあ」
かなりむっときて、上総は顔をこわばらせたまま黙っていた。
「そう怒るな怒るな。けどな、ひとつだけ覚えとけ」
柔和な口調で、本条先輩は付け加えた。
「女とやっちまうのは、小学生でもできる。けどな、やらかした後の後片付けは、大人の手を借りないとできねえよ。お前は大人連中と上手にやりあえないから、きっとしくじっちまう。だから急いでやるな。お前がひとりで始末できることだけ、やってろ」
やっぱり上総を子ども扱いしているのだろう。悔しくて黙っていた。
「俺が自分で片付けてうまくいったことってのは、ひとつだけだ」
頭を軽く撫でまわされた。
「千草を、児童相談所に逃がしたことだ。あれだけは俺の手柄だったと思うぞ」
本条先輩の語った物語は、上総の脳みそで消化できる類のものではなかった。
ストーリーそのものが、いわゆる妄想のひとつに過ぎないようで、でも本条先輩は決して嘘をつかないから信用しないといけなくて。
しかも当てはめられた言葉はすべて醜く汚い泥水のようなもの。
耳をふさがず、ただ流しこむことでしか、上総はその言葉を受け入れられなかった。
「俺は、本条先輩の話をすべて信じます」
それしか言葉を返せなかった。それでいいと、本条先輩も頷いてくれたから。
「俺が小学六年の時に初体験したってのは、前も話したからわかってるだろうが」
感情を交えずに、とつとつと語っていく本条先輩。
「卒業までは、とにかくさるみたくやりまくってたのも事実だ。だが、あいつに生理が来てからはもう一度もやっちゃいない。俺もそれなりに、はらませちまうのはまずいってガキなりに理解してたからな。千草もなんにも言わなかった。自然消滅の予定だったんだな」
千草さんという人がどんな子なのか、今ひとつ上総にはイメージが沸かなかった。普通の会話だったら、「どういう人なんですか? きれいな人なんですか? 誰に似てますか?」くらい聞くだろう。そうできない何かが漂っていた。
「だがな、やりまくった以上置き土産ってのもあったわけだ」
まさか、妊娠させたなんていわないだろうか? 背筋がぞっとした。本条先輩のようにしつこく避妊やゴムについて説教する人が、しくじるとは絶対に思えない。それ以前に、そのあたりの注意だってきっちりしていただろう。
「お前、腹ぼっけにさせたと思ってるのか?」
慌てて首を振った。
「そっちについては俺もしつこく本を読んだりビデオを見たりして、注意していた。やらせてもらうのは、赤飯までと決めてた。けどな、俺はとんでもないミスを犯していたって訳だ」
「なんですかそれは」
想像つかず上総は仕方なく尋ねた。
「まず、仕事する場所がな、やたらとかゆくなっちまったというのがひとつ。いわゆる性病だな。お前も保健体育で習っただろ?」
梅毒やら淋病やら、そのあたりだろうか。身体をこわばらせて聞く。
「千草は親にこき使われて無理やりロリコンビデオに出演させられていたから、たぶんあいつの親父経由のもんだとは思う。それが、たまたま、結城さんと駒方先生にばれちまったってわけだ。うちの兄貴、あ、里理の方じゃねくて、上の二人にも報告されちまって、結局俺は十二歳にして病院送りってわけだ。いやあ、あんときは人生真っ暗だったな」
聞いたことがなかった。この前南雲がやはりいわゆる性感染症らしきものにかかったと頭を抱えていたのを思い出した。あれからちゃんとあいつ、病院に行ったのだろうか。親に話したのだろうか? そういえば本条先輩にもどやされたと言ってなかったか?
「すったもんだがあったがなんとか、病院の薬でなんとか治ってはいおしまい。だったらいいんだが、先生たちから千草についてしつこく聞かれてな。まあ中学生の不純異性交遊がばれたこともあって、たぶん俺は追い出されると思ってた。だが千草の存在をばらすわけにはやっぱいかねえだろ。あいつだって、学校では女子中学生を普通にやってるんだ。妊娠させたわけじゃねえし、あえて声に出すこともねえ。俺はそう判断して、あいつのことを隠しとおしたわけだ。まあ、あとで聞いたとこによると、とっくの昔に見つけてたらしいがな。ガキだった俺は、あいつの存在をばらさないのが一番いいんだと思ってたわけだ」
ロリコンビデオ? あいつの親父経由? 話がつながらない。硬直している上総にさらに続けた。
「お前も知ってるだろうが、結城さんって人はすごい。俺が無意識にしゃべったことをうまくつなげて、千草のことを聞き出したらしい。駒方先生もなんだかんだ言って俺の過去を洗い出したりして、まあいろいろあった。俺が隠しとおしてきたことはとっくの昔にばればれ。情けねえったらねえよな。その上で、お互いはなれた方がいい、つまり別れろ、ってしつこく攻め立てるんだ。結城さんが露骨にそんなこと言ったわけじゃねえ。とにかく、評議の仕事を山積みにしてきた、ってだけだ。時間ねえよな。性欲、すべて評議委員会に費やされたっつうのが現実だな。それでも千草のことは絶対黙っているつもりだったから、俺は俺なりに納得はしてた。それで間違いはない、そう思ってたんだよな」
「間違ってないと思います」
「間違ってたんだよ、それが」
怒らず、おだやかに続ける本条先輩。口調がりんとしてきた。
「俺はてっきり、千草と俺を手切らせて、優等生の枠ん中に押し込もうという大人のやり口だと思い込んでいたんだが、どうやら違った」
「どう違ったんですか」
「千草を救うためだったんだよな。ったく面目ねえ」
初めて本条先輩は舌打ちした。
どうやって救うというのだろう? 本条先輩は、公立中学に進んでいる千草さんに傷をつけないようかばっただけではないのか。
「ちょうど去年の一月くらいだったか。千草が俺を訪ねてきてさ、俺の責任じゃないからねって言い残して帰っていったんだ。何も、ほら、二年もそっちの方はごぶさたしてるわけだしな、もちろん話をする機会はあったけど、俺も別の彼女がいたしな。千草に関してはなんてかその、特別な友だちっぽい関係であってなんも色気のないつながりになってたんだ。俺はとっつかまえて詳しい話を聞いたんだが、そん時、初めて知ったのはな。あいつ、いわゆる子宮がんの初期段階っていう診断を受けたらしいんだ。駒方先生が千草に会いに行ってくれてさ、婦人科の検査を受けさせたらしいんだ。もちろんすでに、俺のことは洗いざらい調べ尽くされてな。こんなの、一教師がやっていいのかいって突っ込みをしたくなるんだが、駒方先生のあののりじゃあ文句も言えねえ。で、その子宮がんの初期段階ってのは、セックス経験がないと基本としてならないらしいんだな。俺もその辺はよくわからんが、つまりそういうことだ。あいつのエロ親父と俺以外、基本として千草とはやってないわけだから、俺と千草の父さんがあいつを病気にしちまったってことになるわけだ。千草もそのあたり、なんでそういう発想になったのかわからんが、とにかくそれは俺の責任じゃないと言いにきたわけだ」
妊娠かと思ったが違っていた。やはり、そのつながりが上総には理解できなかった。
「駒方先生は千草を入院させるかなんかさせようとして、直接親父さんに話をしようとしたらしい。千草としてはそれこそノーサンキューだ。たとえエロ親父であっても、あいつにとっては親なんだからな。ろ くでもないことがおこるに違いないと思って断ろうとしたらしい。だが駒方先生はいったん決めたことを がんとして譲ろうとしない。それでなんとか俺に、駒方先生を黙らせてほしいと頼みにきたんだ」
現状維持を求めたということだろう。
「さて、お前だったらどうする?」
「たぶん、先生を説得したと思います。自分が説得するって言い張って」
「お前ならそうするだろうな」
本条先輩はぼそりとつぶやいた。
「しょうがねえから、その夜、俺は、千草を親戚のおばさんんとこに逃がした。駒方先生に割り込まれる のもいやだし、かといって病気をそのままほっとくわけにもいかねえだろ。だったら、一刻も早く青潟か ら逃げだして、あいつの納得する形で決着をつけるほうがいいという俺の判断だ。無事千草は脱出成功し 、とりあえずまともな病院に行って診察を受け一年浪人する形で高校に進学したってわけだ」
「先輩、それはすごい」
「だろ、俺もそう思う」
自画自賛。
「だが、一年たった今改めて考えてみると、俺はもう少し早く、決断すべきだったと思う」
「決断ですか? でもそれは」
「もしもだ、駒方先生が千草を病院に連れて行かなかったら、千草はへたしたらがんを見つけられること がなかった可能性が高いだろう。十五でふたりの男とやりまくってる中学生なんて、ふつういねえだろ? 病院になんていくような玉じゃねえし。けどもし、俺が早い段階で口を割ってたら、あいつはがんにな る前に脱出することができたかもしれないわけだ。駒方先生は俺がそういう性病にかかっちまったことを 知って、千草も同じ病気じゃねえかと疑ったらしいんだな。それでなんとかして、千草を探し出して病院 に連れて行かせようとしたはずだ。俺もあいつとまだやりまくってるって風に言いつづけてきたからな。 結局俺は、あいつを大人の手にゆだねなかったことによって、病気を発見す時期を遅らせちまったという ことになる。俺自身、千草を守るためと決め付けていたにもかかわらず、あいつの命を危険にさらすはめ になっちまったと、そういうわけだ」
理解できたとは、とてもいえない。
上総はただ黙って聞いていた。
「けど、もう間に合わないところまできちまってて、しかも千草の親がロリコンビデオの親玉と来たら、 先生の言葉をすんなり聞いてくれるとは思えないだろ。それはあいつとつきあってた俺がよく知ってる。 だから俺は、駒方先生には悪いが別ルートからあいつを救い出す手はずを整えたってわけだ。俺の知って いるデータをもとに、な。それは間違ってないと思う」
本条先輩は一気に話し終えた後、上総の肩を叩いた。
「立村、お前は隠しておきたいんだろ。だけどな、思い切って手放しちまうのも手だぞ。俺が千草にやっ たように、ただ両手で守りつづけることによって、悪い病気の発見を遅らせるよか、思い切ってぱあっと 空に解き放っちまうってのもありだぞ。鳩飛ばすみたいにな」
「解き放つって、どんな風にですか」
「そうだな、たとえば」
あお向けになり、本条先輩は天井を見上げた。大の字になった。手が上総のかぶっていたふとんにかか った。
「どんなに駒方先生がああだこうだ言って千草を説得したとしても、千草は動かなかった。もし俺が早い 段階で動けっていってたらまた別かもしれんが、結局動くのはあいつ自身だ。誰も、無理やり動かすこと はできねえ。それに千草も、あんなことこんなことされていても、やっぱり親なんだろう、一緒にいると 言い張りやがった」
「その、あぶないビデオとか撮られていてもですか」
信じられなかった。ふつうだったら、逃げるだろう? 本条先輩は頷いた。
「環境を変えたくねえんだろう。だから、俺は無理やりあいつを汽車に乗せた。そうしないとおそらく、 千草はあのまんまだったろう。俺がどんなに千草にかまおうとしても、いつのまにか病気が悪化していっ て、手遅れになっちまっただろう」
本条先輩の言うことは難しすぎた。
矛盾しているようにも思えた。
「解き放った方がいい」というけれども、本条先輩がその千草さんにしたことは力づくでするべきこと を命令したようなもの。放っておけというわけでもないだろう。かといって、何もするな、というわけで もないらしい。
「先輩、俺にはまったく、わからないです」
「そうだな、わからねえだろうな。俺も、わからん」
暗闇の中、かすかな街灯の瞬きを眺めながら、上総は本条先輩のシルエットを追った。
「立村、お前のことだ、杉本が心配でなんねえんだろ。隠すなよ。言わないでもいいから黙ってきいてろ 」
黙ったまま、聞いていた。
「お前がひとりであたふたしたって、杉本は動きたいと思わない限り、お前の言うことなんてきかねえよ 」
「でも」
「いいから聞け。だからまずは放っておけ。その代わり、お前の言いたいことだけはきっちり言っとけ。 俺に聞かないでも、言うべきことはどっさりあるだろ。ま、杉本の気性を考えれば受け入れるかどうかは わからんが」
頷いた。たぶん、聞いてくれることはないだろう。どうすれば聞いてもらえるかを知りたかったのだが 。
「ただ、杉本の気持ちが変わって助けてほしいと思った時、お前に手助けを求められるような路だけこし らえとけ。今のお前にできることったら、それだけだ」
「手助けを求められるような、路、ですか」
ますますわからない。
「そういうことだ。今のお前の状況を見る限り、まずつきあっちまえとは言えねえし向こうが受け入れる とも思わない。お前にも杉本にもプラスになるとは思えねえ。だが、一年、二年、また三年後どうなるか わからんだろ。俺に千草が行動を起こしたのは、一年以上経ってからだ。それまで、まずは待て」
「待って連絡がなければどうなるのですか」
「それは、その時だ。お前と杉本の間にたとえばわかるような暗号を用意しておくとかな、いざとなった らこっちに来いとか、だな。時間はかかるだろうから、お前もそれまでに、十分守ってやれるような力を つけとけ。そうだな。俺ももし一年早く千草のことが判明していたとしたら、青潟から逃がすという判断 ができたかどうかわからん。幸いっつうかなんつうか、杉本の件は緊急ってわけじゃあねえだろう。霧島 キリコや西月ちゃんの話とは違ってな。だったら、まずはお前が男になれ。それが一番手っ取り早いんだ 」
「それは、やっぱり、早く経験しろってことですか」
夜の闇で大胆なことを口に出してしまった。ぺしっとたたかれた。
「これが南雲や天羽なら当然そう言いたいところだが、お前は別だ」
「どうしてですか」
笑いをこらえている気配がする。またガキっぽいと馬鹿にされてしまうのか。
「さっき言ったろ。やるのは小学生でもできるが、その後の後始末は大人を巻き込んで片付けないとなん ねえって。お前にはまだ、できねえよ。たぶん天羽も、南雲も、できねえだろ。だから苦労してるわけだ 」
「後始末ですか」
「妊娠させちまうかもしらねえし、もしかしたら千草みたいになるかもしれねえ。悪い病気もらっちまう 可能性だってあるし、まあいろいろある。今のお前にそれを背負うだけの力がないってことさ」
だんだんねむけも混じってきたせいか、本条先輩の言葉は意味不明になってきていた。
「おぼっちゃんにわかりやすく言うと、杉本が助けを求めたくなるような男になって待ってろってことだ 。まあそれは俺がどうしろこうしろって言うわけにはいかんからな。自分で考えろ」
今夜は寝させない、と言っておきながら、本条先輩はかくっと目を閉じてしまった。
上総はひとり、本条先輩の言葉をかみ締めながら、眠気でもうろうとしたまま考えていた。
──杉本が助けを求めたくなるような男になって待ってろ、って。
本条先輩もやはり、上総が杉本のことを想いつづけているのだと認識している。それを否定することは しないけれども、ただ本条先輩が思っているような気持ちとはかけ離れているような気もしていた。
──じゃあ、やはり俺は、杉本に言いたいこと全部言って、さっさと離れるほうがいいんだろうか。
本条先輩の本心はやはり、上総と杉本梨南を引き離したいのだろう。
なんとかして周りをかためて、杉本にこれ以上苦しい思いをさせたくない。そういう気持ちもある一方 で、本条先輩の言う通り流れに任せるしかないというあきらめもある。ならば、やはり本条先輩の言う通 り、杉本が上総を頼ってくれるまでの間、放置しておくのが一番よい方法なのだろうか。
──わからないよ、本条先輩に聞いて、かえってわけわからなくなったよな。
もし本気で付き合いたいとか思っているのだったらやり方は簡単なのだ。「四月からつきあってくれ」 と申し入れればいい。だけど、それでは片がつかない。どうすればいいのだろう。杉本にどうすれば、「 いつでも頼ってくれ」という感情を伝えられるのだろう。
「本条先輩」
寝てるかもしれない。おずおず、呼びかけてみた。返事がない代わり、本条先輩のかぶっている蒲団が 少し動いた。
「先輩は、彼女に、そういうこと伝えたんですか。何があっても待ってるってことを」
ふわあ、とあくびをする気配。
「聞くのは野暮ってもんだろ」
「だってわからないから」
「お前ならわかるだろ。たとえば杉本にしかわからないような暗号みたいなのが」
「暗号って?」
眠そうな声がまた響いた。
「それくらい自分で考えろ。お前らふたりっきりで話したことがねえわけじゃあねえだろ。そのくらい分 かり合えない相手なら、それだけのことだ」
それきり、本条先輩は口を閉ざした。本当に寝てしまったのかどうかはわからない。
七十パーセント以上が未知の世界の言葉だった。上総には意味を捕らえることができなかった。
──つまり、こういうことか。
息を殺し、ぐいと窓の街灯を見つめる。
──俺の言いたいことを全部言ってしまった上で、あとは杉本のやりたいようにやらせるということか 。でも、見捨ててないってことだけを、誰にも気付かれないように、暗号で伝えろということか。
本条先輩は上総に、本当だったらさっさと杉本を切るように命令したかったのだろう。
でも、そうできない以上、切り捨てた振りをして、そっと陰で見守れといいたかったのではないだろう か。
そうすれば、いつか、杉本の方から救いを求めるサインを送る時がくる。
その時までに、うまく受け止めて守るだけの素養を見につける。それが「男になれ」という意味なのか もしれない。
かつて本条先輩が千草さんという人に、してやったように。
杉本の方から変わろうとする時を待ちつづけること、それが本条先輩のアドバイスだとするならば、上 総はそうするしかない。
上総は起き上がった。膝をふとんのうえから抱えた。
──杉本に伝えられる、ふたりだけの、暗号のようなもの。あるだろうか。
目を閉じ、上総は何度も杉本と語った二年の日々を思い起こした。
不思議と、その時語り合った会話のひとつひとつが湯気のように浮かび上がり消えていく。
とっくに忘れていたはずなのに、なぜだろう。ポストカードをぱらぱらばら撒いていくように、たくさ んの記憶が溢れ出してきた。初めて会話を交わした時のこと、偶然とはいえ初めて胸に触ってしまい眠れ なくなった夜のこと、そしてふたりきり汽車の中で、そっと持たれて目を閉じた日のこと。どうしてそう したくなったのかは覚えていないけれど、ただその時のぬくもりはすべて身体が覚えていた。
──卒業式までに、俺なりの方法で、一番杉本にとってベストなやり方を捜してみよう。
思い出していくと時々胸が締め付けられそうになる。なぜだかわからなかった。まどろみながら上総は 、きついまなざしでにらみつけるように見つめる杉本梨南の瞳と、瞼の裏で対峙していた。