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第三部 5

第三部 5


 冷え切っているだだっぴろい部屋でストーブを焚くと、半径一メートル近くだけトースト状に熱くなり、そこから一歩抜けると一気に冷え切ってしまう。だから離れられなかった。上総は身動きせず、時折肩の位置をずらしながら轟さんの語りを聞いていた。

 ──天羽はここで、やったのかな。

 ダンボールの山を眺めているうちに、修学旅行二日目の会話が蘇ってくる。

 たしか、天羽は去年の夏に初体験をすませたとか言ってなかったか?

 しかも、相手は上総の母と同じ年齢の女性だとも聞いた。

 合宿所でなんか変な感じになってきた、とも。

 ──でも、落ち着かなかっただろうな。

 現段階で天羽の告白を知っているのは上総だけだと思っていた。でも、ここまで情報を仕入れている轟さんが気付いていないとは思えなかった。いや、女子だしさすがに天羽だって気を遣っているような気はするけれども。ただ「ばりばりの現役宗教家」だった頃の天羽を知っているということは、ただ表っ面をなぞるだけの付き合いではないような気がする。十三歳、十四歳、そして十五歳。上総や評議委員連中が知らない中で、ふたりはどういう絆を形作っていったのだろう。興味があった。


「私のうち、はっきり言っていろいろあって貧乏なのよね。青大附属に通えるような財力なんてないのよ。ただ私なりになんとかしなくちゃってことで勉強して、なんとか合格させてもらい、今は奨学金をもらってなんとかここにいるってわけ」

 轟さんは他人事のようにさらりと呟いた。

「身内の恥だからあまり話したくないんだけど、私が小学六年の時、近所の親切ぶったおばさんにひっぱられて、この教団集会に引っ張ってこられたの。一週間くらい家に通われて恩を売られて、行かざるをえなかったみたいだけど、信用するうちの親も親よね。よく考えたらわかるじゃないってこと、全然考えようとしないのよ。私も子どもだし、しかたなくそこに行ってきて、大人と子ども分断された中で座談会に参加し、そこで大喧嘩して飛び出してきたってわけ。いい意味で私、子どもの特権を利用したのよ。大人だったらいろいろ義理とか面倒なことがあるけど、子どもだからってことで許してもらえたってわけ」

「子どもの、特権?」

 上総も繰り返した。

「そうよ。さすがに今じゃ使えない技だけど。十二歳の、育ちの悪い子どもだから何言ったって許されるってね。何しゃべったか覚えてないけど、とにかく私はこんな教団にお世話になるくらいだったら家を出て行く覚悟してたもんね。運よくうちの親も、私のわがままで顔にドロ塗られる形になってしまい、それっきりその教団とは縁がなくなったってわけよ」

 子どもの特権なんて、そんな風に思えるものなのだろうか。

「幼いって、いいことなんてないと思ってたけどな」

「利用できるものは利用するのが私のやり方よ。それからしばらく、うちの親には嫌味いっぱい言われたけど、そんなの知ったことじゃないよね。そのうち私の能力を買ってくれる人が出てきて、大学までの費用を出してくれるって話になって、現在はその人のおかげで青大附属に通っている状況なんだ」

「そうなんだ」

 短く答えたけれど、上総にはだいたい、轟さんのポジションが見えてきた。

 評議四人女子の中でも、轟さんはいつも背を丸めるようにして、様子を伺いつつ美里たちと話をしていたような気がする。もともと関心のなかった上総としては、それ以上のことを考えたりはしなかった。でも、美里や霧島さん、西月さんたちがおしゃれの話なんぞしている間、轟さんはただ様子伺いしながら頷くだけだった。

「話、あわせるの大変でなかったか?」

「大変だったよ、そりゃあね。美里もそうだけどゆいちゃんも小春ちゃんもお嬢さまでしょ? ごみの中あさって粗大ゴミを拾ってそれを古道具屋に売ってお金にするなんて経験、きっとしたことないと思うんだよね。いつも学校の帰り、評議のみんなってお茶飲みに行くでしょ。あんな無駄遣い、どうしてできるんだろうって思ってたね」

「でも轟さんも合わせてたんじゃ?」

「あれはね、こっそり天羽くんがおごってくれてたの。たまに難波くんもね」

 指を折って、こくこく轟さんが頷いた。

「私があんまりにも貧乏だから、気を遣ってくれたんだね。まあありがたく受け取らないと、評議委員会に参加できなかった現実もあるし、ちょっと惨めでは、あったけど」

 上総も同じく指を折ってみた。一年から評議委員会ではいつも、外の喫茶店でお茶やジュースを飲みながら語り合うのが通常だった。それが普通だと思っていたからそれほど他の人たちの懐事情を考えなかった。上総ももちろん自分が裕福だという自覚はないけれど、ジュース一本買うのも大変な状況に追い込まれたことはない。

 目に見えるところで、全く経済環境の異なる人もいる。考えたことがない自分。恥だ。

「俺がもっと気付いてればよかったんだ」

「ううん、違うよ、立村くん、悪いけどそこはちょっと」

 びしっと、空気を締めるように、轟さんは言い放った。

「立村くん、さっき私も言ったけど、もっと『子どもの特権』を使って楽した方がいいと思うよ。もしかして立村くん、私が話したことに対してすべて責任を感じているんじゃないかな。そういう立村くんだということは私も理解しているつもりだけど、責任を無理に感じる必要は一切ないよ。私はお金がないけど、天羽くんたちにおごってもらっていたから問題なかった。それだけのことじゃない」

「でもさ、それって居心地悪かったんじゃないかなって思うけど」

「もちろん、お財布の中は厳しいよ。でもそれは私の問題。本当にまずいと思えば、私が理由つけて家に帰ればいいことなんだしね。天羽くんが今までなんでもないように振舞ってこれたのも、そこだと思うんだよ」

 いきなり天羽の話に戻り、上総は混乱した。

「天羽が、なんでもない風に、って?」

「そうだそうだ。天羽くんとのなれ初め話してたんだよね。話がずれてごめんね」

 少し「子どもの特権」にひっかかりを感じたけれども、ここは轟さんの言葉に従ったほうがよさそうだ。上総は背をストーブから少し離した。衿元だけが焦げそうなほど熱い。


「座談会の後、天羽くんらしき子がいたのは覚えてる。顔を覚えるのは早いからね」

 轟さんは口調をそのまま変えずに、ゆっくりと語りつづけた。

「その後、最初の評議委員会で顔合わせて、少ししゃべっているうちに、いろいろと向こうの事情もわかってきたわけ。私は最初からこの教団とはかかわりたくないと思ってたけど、天羽くんに責任があるわけじゃあないからね。天羽くん自身も、小学五年くらいからこの状況に疑問を持ってきたらしくて、いろいろと情報を集めたい気持ちはあったらしい。それで私も協力して、陰でこっそりと」

「こっそりとかよ」

「そうよ。天羽くんはきっと青大附属で生まれ変わりたかったんだと思う。本人は意識しているかどうかわからないけどね。もし、全く疑問感じないでいたとしたら、あの教団のことだからあちらこちらに布教して回ってたはずよ。信者を増やすために友だちをこさえて、その上で引っ張り出す、というのが決まりみたいな世界だから。それをしないできたでしょ。天羽くんは。きっとそうだったんだと思う」

 ──青大附属で生まれ変わりたい。

 なにか、心にみしみしっと、ひび割れが走った。

「だからなのかな。天羽くんが小春ちゃんのことあんなに嫌ったのはね」

 また話が前に戻ったような気がした。

「正しいことを押し付けようとして好かれようとする小春ちゃんと、小学校時代、布教活動を自然にしていた天羽くん自身とが、そっくりに見えて耐えられなかったんだよ」


 芯がつんと冷えた。割れた。

 雷に打たれて真っ二つになった、大木のように。


「天羽くんは生まれ変わろうとして、毎日家の中でけんかばかりしてたらしいんだ。私が持ってくる本とか情報とかそういうのを読んで、絶対これはおかしいと思ってね。でもやっぱり私たちは『子ども』だからどうしても逆らえないってわけ。天羽くんは毎日、二重生活を送りながらそのチャンスをうかがっていたんだけどね。そのうちに去年の夏あたり、なんとか抜け出せそうなことが起こって、家族一同脱退」

「家族でか」

「そう。精神的ショックもあって、広告塔と言われていた書道家のおじいさんな入院してしまい、天羽くん自身もいろいろあったらしいよ。詳しいことは聞いてないけど。でも天羽くんは偉いよね。全く学校でそんなところを見せないで、ルパンだホームズだって騒いでたわけなんだもん。天羽くんが教団抜け出して一番嬉しかったのは、評議関連の合宿とか行事にばんばん参加できるところだって言ってたよ。天羽くんにとってようやく自由になれた時に、小春ちゃんの行動がばーんと鼻についてしまったというのかな」

「さっきも言ってたよな。西月さんの行動がって」

 わかるようでわからない。上総はさえぎり尋ねた。

「小春ちゃんは天羽くんに好きになってほしいって一生懸命アピールしてたでしょ。男子にはわからないかもしれないけど、女子としては丸見えよ。これって天羽くんからすると、自分の信じている宗教団体に入ってくださいってお願いしているとこと同じに見えてしまったってわけよ。天羽くん、そこから逃げ出したくて青大附属に駆け込んできたのに、待ち構えていたのは過去の自分と同じことしている女子。そんな子、好きになれる?」

「……なれないな」

「でしょ」

 会話はそれだけで通じた。

「みんな、いろいろとあるんだな」

「そうだね、あるよ。あるけどね」

 轟さんがふと、身を上総にまっすぐ向けた。あわてて上総も正面を向いた。

「そんなこと、今の立村くんは考える必要、一切ない」

 反論するにも、どう答えたらいいかわからない勢いで、ぱしっと跳ねられた。

「立村くんはきっと、私たち三年評議がばらばらになって混乱しているのを、自分の責任だと考えていると思うんだ。それ、わからなくもないよ。前期評議委員長だったわけだし、評議委員会の権力を生徒会に返すための『大政奉還』を計画したのも立村くん。それがきっかけでこんな大騒動になってしまったのは確かにあると思うんだ。でもね、これだけは間違ってはいけないと思うんだ」

 上総の目をじっと見据えた。轟さんが口を開くたびに、かすかに息を吸ったり吐いたりするしゅうしゅうという響きが聞こえる。

「ゆいちゃんと小春ちゃんの問題、これは大人の問題だから、殿池先生や狩野先生、その他の関係者に全部預けてしまえばいい。預けなくちゃだめだよ。立村くんが自分の責任だと思って首をつっこんでも、はっきり言って、何にもならない」

「俺が心配しても、か?」

 少しきっとなるが、こらえた。轟さんはまっすぐ目を見つめたまま頷いた。

「私が心配しても、天羽くんが心配しても同じ。それと、天羽くんの宗教に関する問題だって、自分自身で片付けることでしょう。立村くんが心配しても、どうしようもないの」

「じゃあ、俺はただ黙って、評議委員会が崩壊していくのを黙って見ているだけなのか?」

「だって立村くんは、ゆいちゃんや小春ちゃんや天羽くんのことを本当に心配している? これは責めて言ってるんじゃない。一番心配したいことって、たぶんそれ以外のことじゃないかって私、思うんだけどな」

 ──一番心配したいこと?

 言われている意味がつかめない。上総はストーブに片手をかざした。熱くて指先からじんじんしびれてくる。

「たぶん、これで最後かもしれないから言うけど、立村くんは手を広げすぎ」

 ほんの少しだけ轟さんは女子っぽい声に和らげた。

「真面目だから、なんでも自分の責任に持っていってしまうし、そういうところが立村くんのよさだと私は思っているよ。美里がいつも叫んでいるように、もっと頼れとかそんなことは言いたくない。ただ、たいして関心のない人たちの事件まで無理に背負い込むのは時間がもったいないよ」

 喉仏のあたりがひくひくする。「どうして?」と言い返したいのに、できないのは冷えで唇が割れているからだろうか。

「俺が、全く天羽たちのこと心配してないってことか」

「いっぱい心配しすぎて、分散してるってことよ。天羽くんのことは天羽くんが、ゆいちゃんと小春ちゃんのことは関係者が、みんな自分のやりたいように片付けてくれているわよ。それよりも、立村くんにしかできないことがあるはずなんだ。私が見るところによるとね」

「なんだよそれ」

 またいじけて膝を抱えたくなる。眼を逸らした。人差し指を思わずなめた。

「事件に全くかかわっていない立村くんだからこそ、天羽くんを助けることができると思う。これ、ほんとだよ」

 上総はそのまま指を加えて轟さんの出っ歯をにらんだ。

「なんだよそれ、って。だってさっき、天羽のことを心配していないんだったら手を出すなって言ったくせに」

「天羽くんの個人的事情にくちばしをはさむべきではないけど、『評議委員長』としての天羽くんを助けることは、立村くんにしかできないんじゃないかな」

 轟さんはそっと上総の隣に寄り添った。

「今の評議委員会がどういう状況か、理解しているのはたぶん立村くんだけだよ。さっきちらっと言ったけど、今、生徒会とのやりとりで天羽くんが疲れきっているってのもあるしね」

「でもあいつ、ずいぶん仲良くやってるじゃないか」

 上総が評議委員長だったころよりも、ずっと、滑らかにやりとりしているはずだ。

 すでに書記以外の仕事をしていない上総も舌を巻いた。

「まあ、そのあたりはぬかりないよ。でもね、あの佐賀さんを守る女子の生徒会役員たち手ごわくてね。何かがあればすぐ、評議委員会をただのクラス内限定の委員会に押さえ込もうとしているんだよね。佐賀さんがどう考えているかは私も読めないけれども、たぶん来年以降はそうなるんじゃないの?」

「なったらなったで、あとは新井林が片をつけることだろ。次期評議委員長はすでに決まっているようなものだし」

「だけど、どうかな。プライド、ずたずたになっていていじけてるみたいよ。新井林くんもね」

 わからなくもないが、見た感じあまりそういう気はしなかった。最近は新井林も完璧に天羽オンリーにしか話をしたがらないからなおさらだろう。もう上総は評議委員会から足を洗ったようなもの。なぜ轟さんは今になって上総を引っ張り出そうとするのだろう。

 その理由の方が、天羽の事情よりも詳しく知りたいことだった。

「来年のことは今の二年に全部お任せすればそれでいいと思う。ただ、問題は、このまま例の小春ちゃんの事件がばれてしまったりすると、天羽くんが酷い振りかたをしたせいだってことで、一気に三年の株が下がってしまうんだ。立村くんの言う通り、卒業したらどうだっていいよ。でも、天羽くんがもしここで評議委員長として恥をかいたとしたら、もう評議委員会を生徒会と同等の扱いしてもらうことはできなくなるし、もうひとつ言うなら」

 言葉をとぎらせた。轟さんも息を大きく吐いている。

「もうひとつって」

「杉本さんのこと」

 あっけないくらいさらっと呟いた。

「これはまだ、杉本さん本人から聞き出さないとわからないけれども、小春ちゃんが近江さんに襲い掛かった理由って、杉本さんと生徒会がらみのことじゃないかなって思うんだよね。私の勘だけど。決して、天羽くんと近江さんを含めた三角関係のもつれなんかじゃあ、絶対ないと思う。小春ちゃんは、天羽くんにこれ以上嫌われないですむんだったらどんなことでもする子だって言ったでしょう。近江さんに酷いことをしたら、永遠に天羽くんに許してもらえないことを気付かないほど、ばかじゃないと思うんだ」


 ──西月さんの動機が、生徒会と杉本にあったとしたら。

 上総の中でぐるぐると、単語カードのようなものが回っていく。

 何かが浮かんでくる。轟さんも頷いている。


「実際もう、天羽くんは小春ちゃんのこと、さっさと死んでしまえばいいとまで思っているはず。宗教活動していたころの自分と同じ顔している小春ちゃんが消えてくれて、正直ほっとしてるんじゃないの。それが正しいかどうかを説教するのは、今の立村くんには関係ないよ。天羽くんには天羽くんなりの理由があるし、それはこの三年間天羽くんの手伝いしてきた私がよくわかっているつもり。そのことは口出さないでほしいんだ」

 ゆっくり、轟さんは言葉を選ぶ。

「天羽くんに嫌われるという最悪のパターンを覚悟の上で、どうして小春ちゃんは傘を振り回して近江さんを追いかけまわしたのか、その原因ね」

「もし、天羽とのごたごただとしたら、評議委員会はどうなる?」

「評議委員長としての面子はずたずたね」

「俺と一緒か」

 否定せずに轟さんは頷いた。

「後輩たちもあきれ果てて近づかなくなって、完全にただの学級まとめ役の集まりになってしまうってことか」

「そういうことね。いいイメージを後輩たちには持ってもらえないだろうね」

 口にしていくうちに気付いたことがある。

 ──俺があんなみっともない落っこち方をしたのが悪かったのか?

「生徒会としては嬉しいだろうと思うよ。ずっと天羽くんの押しでもっていろいろと不利かまされてたんだものね。ざまあみろって思っているはず。でも、もしも、もしもよ」

 ぎろり、でっぱった眼と口元がゆっくり動いていった。

「生徒会が杉本さんに何かを言って傷つけ、それを小春ちゃんが見つけて、それがきっかけだったとしたら?」

「でも近江さんとは関係ないだろう」

 否定していっても、頭の中の単語カードはまだばらばらと広がっていく。

 杉本の、いつもらしくないおとなしい表情が眼に浮かぶ。

「近江さんは佐賀さんタイプの女子、好きだからね。あの人、頭がよくて可愛い女子が大好きなのよ。美里のことをお気に入りにしているのもそのせいじゃないの」 


「じゃあまさか、佐賀さんと近江さんが、杉本のことを」

 言いかけてぞっとした。そこまで今の二年生生徒会役員たちが腐ったことをするとは思えない。すでに結果の出た杉本梨南と佐賀はるみとのバトル。今更なぜ、杉本をまた罵倒する必要があるだろうか。誰もがみな、佐賀はるみ生徒会長を認め、応援している中で、今更なぜ、E組島流しに遭った杉本梨南を叩く必要があるのだろう。


「その可能性、ないとは言えないよ。立村くん」

 轟さんはあっさりと答えた。

「なんで、そんなことする必要あるんだろう」

「だって」

 炎に手をかざし、小窓を指差した。

「あさって、青大附属高校の外部入試。水鳥の副会長さん、ここを受けるんだよね」

「関崎のことか」

 今の話題とは全く関係のない名前だと思っていた。

「もし青大附属に合格して通うようになったら、杉本さんがどういう行動に出るか、立村くんなら想像つくよね」

 無言を通すしかなかった。どうして轟さんはそこまで気が付いているのだろう。

「それに気づいている人たちは立村くんだけじゃないんだよ」

 

 関崎が青大附属高校に入学したら。

 杉本は決して関崎に受け入れられないという事実をいやおうなしに知るはめになるだろう。関崎と何度も語る機会を得て、おぼろげながら感じた結論だった。

 ──あの方にしてあげるように、させていただいているだけです。

 何度も杉本が口にした言葉を思い出した。

 ──無理だ。

 今の杉本が関崎を思い切ることなど、できるわけがない。

 

 目の前のストーブは、まだ石油をぐんぐん食って燃え盛っている。

 ほのかに赤く畳がてかっている。

 上総は視線を落とした。


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