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隔された教室 1

ホラー要素ありの短編です。

 桔梗 真紀(ききょう まき)は数日前に譲ってもらった碁盤を前に息の詰まる攻防を繰り広げていた。

 現状は極めて不利。

 指先が震え、掌が汗ばんでいるのがわかる。


「ふふふ。降参、かしら?」

「うっさいわね……、黙っててちょうだい」


 対面に座る女生徒は余裕の笑みを浮かべている。

 両手でティーカップを持ち、暖かな湯気を放つアップルティーをゆらゆらと弄ぶ。


 ただの碁盤。

 ただのゲーム。

 ただの暇つぶし。

 ……それならどんなに良かったか。


 この女生徒。

 真紀の親友であり、幼馴染であり、全校生徒の信頼を集める生徒会長様である、白百合しらゆり 静江しずえの本性はエグいの一言に尽きる。


 真紀は神経細胞が焼き切れてしまうのではないかと思うほど頭を回転させている。

 それを理解した上で、静江は世間話でもするように口を開く。


「この間テレビを見てましたらとても可愛らしい服装のキャラクターがいましてね。興味が湧いたのでインターネットで調べて、また衣装を作ってみたんですよ」

「また、コスプレなの?」

「はい。そのキャラクターを見た瞬間に閃きましたの。――きっと、良く似合うわって」


 静江は背中まで垂れた黒髪を指に巻きつけながら艶やかな瞳を向ける。

 真紀は目線から逃れるように碁盤に目を落とす。


 蠱惑する眼差しとはまさしくこのような眼を言うのではないだろうか。

 まったく恐ろしいたらありゃしない。


「なぁんで……私に、……そんな話をするのかな……」

「わかってらっしゃるでしょ? 真紀さん」


 黒石を摘まむ指先が碁盤の上をさまよい続ける。

 食い入るように盤を見つめようとも呼吸点のある交点は、もはや……ない。

 ぐっと奥歯を噛み締めると静江を睨みつけてやる。


「観念しましたね。では、約束どおりの罰ゲームです」

「――く……」


 静江はにっこりと微笑むとこれ以上楽しいことはないというように言い放った。

 が、静江は唐突に笑みを引っ込めた。


「――と言いたいところですが、真紀さん、貴女にお願いしたいことがあります」

「……お願い? 珍しいわね」

「本当ならば生徒会長として解決しなければならないことですが、少々手間と時間が掛かりそうなもので……」

「ふむ……当然、罰ゲームはチャラなんでしょうね?」

「わたくしとてそこまで鬼ではありませんよ?」


 そういうことなら有難い。喜んで手間と時間の浪費を肩代わりさせてもらおう。


「具体的には何をすればいいわけ?」

「学校で流れてる噂話の沈静化、と真相を探るといったところでしょうか」


「もしかして、『幽霊の話』とかじゃないわよね?」

「ご明察の通りですわ」


「毎年の話でしょ? 生徒会長とはいえ気にするような話題でもないような気がするけど……」

「そう思っていたのですけど、ね」


 静江は悲しそうに瞳を伏せる。

 幽霊の話は毎年のこと。しかし、今年は幽霊の話に関わる怪我人がでていると言った。


「怪我をされた方々から事情は伺いました。不注意が招いた事故という可能性も大いにありましたけれど……もし、悪意の潜むものであるならば捨て置くことはできません」


 幽霊の話に便乗した悪戯をやめさせろ、という事か。

 捕まえて教師に突き出すほどの事件でもないから生徒の間で解決してしまおうという魂胆らしい。


 しかし、『それだけ』なら生徒会長の静江でもやりようはあると思うけれど。


 真紀の疑問を敏感に感じ取ったのか。

 静江は困ったように肩をすくめる。――静江の力だけじゃ解決できない問題にぶつかったということか。


「困ってるわけね」

「はい……、頼めますか?」


 静江は申し訳なさそうに上目遣いに見る。

 真紀は心得たと大きく頷いた。


「めんどくさいけど、しょうがないわね」

「ふふふ、ありがとうございます」


 静江は花が咲くような笑顔をつくると丁寧に礼を述べる。


 さてはて。

 引き受けたからにはいい加減なことはしたくない。

 満足のいく結果をだしたいものだけど……どう動けばいいかな。


 真紀はほどよく冷めた煎茶をすすりながら昼休み後の予定を立てはじめた。

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