紅竜将軍の日常
戦場でひときわ目立つ真紅の外套。
白銀の甲冑には紅い返り血が一つもつくことなく舞うように敵を屠る。
その姿はいつしか、味方には紅竜将軍と崇められ、敵には紅い死神と恐れられていた。
「って聞くと、すごいかっこいいわよねー!アラヤディア将軍」
「うるさい」
「その実態はかわいいものには目がなくて、そのせいで孤児を一人拾ってなつかれて」
「うるさいっ!」
「下手な男より男前で、女性にもてるのに実は女性で甘いもの大好きで」
「うるさい、もう黙れランディール」
「意外と情にもろい方だなんて、うふふ」
私をからかっている者の名前はランディール。
女性のような口調でだが、れっきとした男で私の副官を務めている。
いわば、副将軍なのだが・・・・。
姿かたちは紛れもない男なのに振る舞いがそこかしこ女っぽく、どうにも頭が痛い。
黙っていれば金色のやわらかな髪、アイスブルーの涼やかな瞳で文句のない貴公子なのだが。
「黙っていれば貴公子なのは貴女も同じですわよ。アラヤ様」
顔に出てしまっていたのか、なんとも腹が立つことをいう。
私が男性的な顔立ちをしているのは私のせいではないし、物言いがいささか男らしいのも公爵家を継ぐために男として育てられたためだ。
お前と違って断じて趣味ではない!!
バフダーナ帝国第二公国ファーガスが私の治める領地だ。
帝国の北領に位置し、現在皇帝陛下が侵略中のザルファン王国とも接している。
なんともきな臭い情勢だ。
私自身は戦は好きではない。
むしろ領民は疲弊するし、だれも幸せにはなれない忌むべきものと思っている。
では、なぜ戦うのか。
それが勅命であり、遂行することが私の責務だからだ。
この身に宿る神族の血が薄ければ、平穏に暮らせていただろか。
「ランディール、お前私が出奔したらどうする」
ちらりと副官を見やる。
「どうも致しませんね。貴女がいなくなったら、弟君アウレシオ様が次期公主様となるのですから。
私は弟君に仕えるまですわ」
奴はこちらを見もしないで言った。
それを聞いて安心する。
こいつがおかしな振る舞いをしているのには、女ながら将軍位をもち戦場に立つ私が奇異や畏怖されないためだ。
「アウレシオ様は素直でお可愛い方ですから、あなたと違って仕え甲斐がありますわね」
前言撤回をしても、良いだろうか・・・・。
こいつはやはり変態なのかもしれぬ。
また、ランディールが有能なのは事実。
どんな性癖があろうと、仕事をしてくれたらそれでよい。
「でも、アラヤディアさま。まだ先のことでしょう?私が老いるくらいまでは待っていてくださいね」
こいつがいれば弟も重責に押しつぶされずやっていける。
今の私がそうであるように。
「ああ。待っていてやる」
こいつが年老いて私を置いて旅立つその日まで待っているのも悪くない。