終戦と嵐
「総員傾注」
ひどく淡々とした声だと思った。
静まり返った艦内では余計印象に残る。
乗組員からも慕われ、普段は陽気でいつもその顔に笑顔を浮かべている酒井艦長らしからぬ声だった。
皆少し不安な様子だ。
しかし声には出さない、俺達は軍人なのだから。
特にこの艦の乗組員達は精鋭揃いだった。普段なら例の超大型戦艦に異動していてもおかしくない人材達だった。
この艦は戦前から動き始めたある作戦の為に建造された特殊な船だ。攻撃機晴嵐を3機を積み地球を一周半できる長大な航続距離を誇るこの船は現在太平洋のある海域にて作戦中だった。
伊400、401、402と合流し、ウルシー環礁に集結しているアメリカ艦隊に対して特攻をしかける。
この作戦が下達された時、艦内は暗い雰囲気に包まれたのを今でも覚えている。
今思えばこの船は開戦と同時に様々な作戦を実行してきて成功させてきた。
その中でも一番我々が打撃を与えたのは、米本土西海岸爆撃だろう。
やつらの慌てようは傑作だった。
一度目は奴らの基地に、二度目は人気の無い森林地帯に80番(800キロ爆弾)をくれてやった。
どれも民間人に死者を出さないように最大限に配慮した。
俺達は選ばれたという、自覚があった。
俺達でないとあれほどの打撃をアメリカに与えることが出来なかったと今でも思ってる。
でも、そんな俺達に対して特攻を…と思うと沸々と怒りがわいてくる。
でも、そんな怒りも酒井艦長から出た言葉で吹き飛ばされた。
「広島と長崎に新型爆弾が投下、両都市は壊滅的打撃を受けた。これにあたり我が国は、陛下は…無条件降伏をご決断なされた。これに伴い各部隊への武装解除と降伏が命令された…」
何を言っているのか、分からなかった。