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効果なしとスキル

 猫耳の少女マオとミースさんの服が決まり、ついでにセルビアさんがプレゼントという形でライオの服を購入した頃には、日も昇りきって昼食を取るのに丁度いい時間になっていた。

 セルビアさんが近くに美味しいお店を知っているというので、朝食はそこで摂ることになった。

「……このデザート、あえて甘くないシロップを使ってるんですね」

「おお、いいところに気がつきますね。そうなんですよ。でも、内側によく熟したリトロの実があるおかげで甘味は十分。さっぱりとした果実の甘みが楽しめるんです」

 ライオとセルビアさんは食の好みも合うのか、運ばれてくる料理について語り合っているようだ。

 僕もユーリのくれたスープを除けば、この世界ではルーフの宿で出される料理しか食べたことがない。だから、この新しい味を楽しんでいた。

 お腹も満たせて程よい満足感を感じられるようになって来た頃、ユーリが口を開いた。

「この後は防具とか戦闘に使う道具を揃えに行くわけだけど、その前にみんなのスキルを確認しておきたいな」

 ユーリの言葉に、フォードさんが答える。

「そうだな。ユーリはスキル鑑定具はいくつ持ってる? 俺は昔使ってた『物見の水晶』が1つだけなんだが」

「ボクは『真透の魔鏡』が1つに『物見の水晶』が5つかな。みんなに一つずつ渡すから、それでお互いのスキルを確認してみて」

 そう言ってユーリがみんなに透明なガラス玉のようなものを渡していく。大きさは人差し指と親指を丸めて作った穴にすっぽりと収まるくらいだ。

 右目の前にかざして、ためしにユーリのスキルを見てみる。


 ≪魔王≫≪身体能力強化lv5≫≪全属性耐性lv3≫≪自然治癒強化lv3≫≪空間収納≫≪高速回復≫


 水晶内に文字が浮かび上がる。

 なんというか内容が直接頭に入ってくる感じで、この世界の文字が読めないはずの僕にもなんと書いてあるのか理解できた。

 ……それにしてもこのスキルの数。効果まではわからないけどこれってすごいんじゃないだろうか。


 驚く僕に、ユーリも真透の魔鏡を覗きながら説明してくれた。

「前にスキルの研究をしてる施設に行ったことがあってね。そこで聞いた話だと、レベルがあるスキルは『パッシブスキル』といって、持っているだけで効果があるスキルなんだって。レベルの最大は5で、持っている人はほとんどいないから、ボクのスキルを研究させてくれって言われて困っちゃったよ。……あ、でもミースちゃんの持ってる≪暗視≫なんかはレベルの無いパッシブスキルだね」

 ユーリの言葉を聞いて、ミースさんの方に水晶を向けてみる。


 ≪低温耐性lv1≫≪暗視≫


 そう言えばミースさんを買いに行ったとき、奴隷商人がスキルについて言ってた気がする。ミースさんのことを"ごく普通の女奴隷"って言ってたし、このくらいが一般的なんだろうか。

 そう思いつつマオに水晶を向けてみる。


 ≪身体能力強化lv2≫≪熱耐性lv1≫≪自然治癒強化lv2≫≪打撃耐性lv2≫


 ……僕の認識が間違ってたんだろうか。

 レベルがあるってことは全部パッシブスキルなんだろうけど、数はミースさんの倍だ。

 レベルは違えどユーリと被ってるスキルもあるし、もしかしてマオって意外と強力なスキル持ちだったりするのかな。

 それを確認するためにも、他の人のスキルも確認する。

 まずはライオ。


 ≪空間収納≫≪治癒≫


 次にフォードさん。


 ≪鉄壁≫


 それからレスティアさん。


 ≪打撃耐性lv2≫≪一騎当千≫


 最後に、洞窟には一緒に行かないけどセルビアさんのスキルも見てみた。


 ≪低温耐性lv1≫


 ……こうしてみると、やっぱりマオとユーリはスキルをたくさん持ってるのがわかる。

 ベテランと呼ばれるフォードさんや、レーク守備隊の手伝いをしているというレスティアさんは、意外にも持っているスキルが多いというわけではないようだ。 

 というかライオも≪空間収納≫のスキルを持ってたんだな……たまに気が利きすぎるんじゃないかって思うことがあったけど、このスキルのおかげだったのかも。


「……セツナさんの≪無個性≫ってスキル、聞いたことがないです。どんなスキルなんですか?」


 物見の水晶を覗いて僕の方を向いたライオが、首を傾げながら尋ねる。

「あー……僕のスキルは、効果がないんだ」

「効果がない? どういうことですか?」

 効果がないスキルというのが理解できない様子のライオ。

 ユーリの言っていた通り、≪無個性≫は相当珍しいスキルらしい。

 うーん……どういうことって言われてもなぁ。

「言葉通りの意味だよ、ライオちゃん。物見の水晶じゃスキルの名前しか見られないから、こっちの『真透の魔鏡』を使ってみて。これならスキルがどんな能力を持ってるかまでわかるから」

 ユーリが持っていた透明なレンズをライオに渡す。

 それを覗き込んだライオは、目を見開いた。

「こ、こんなスキルがあるんですね……初めて知りました」

 驚くライオに、イラさんが同調するように語り掛ける。

「そうだろう。我々摸倣種も数多くのスキルを解析してきたが、≪無個性≫の観測例はほとんどない。ただその点で言うと、彼女の物も珍しいスキルだね。なんたって『ユニークスキル』だ」

 そう言ってイラさんが示したのは、レスティアさんだ。

「ゆ、ユニークスキルって、突然変異的に発生するっていう前例のないスキルのことですよね?」

 ライオの問いに、レスティアさんが頷く。

「ええ。私の≪一騎当千≫は、認識した敵の数だけ自分の力を倍加するというユニークスキルです。私が正式ではないにせよレーク守備隊に籍を置いているのは、守備隊に友人がいるというのと、このスキルが評価されたというのが理由ですね」

 て、敵の人数分自分の力を倍に……

 今まではユーリの≪空間収納≫やライオの≪治癒≫のような生活の役に立ちそうなスキルしか知らなかったけれど、これは明らかに戦闘向きのスキルだ。


 ……僕にもこんなスキルがあったら、魔物だってもう少し楽に倒せるんだろうな。


 レスティアさんに対して羨望の念をふつふつと沸かせていると、真透の魔鏡を持ったライオがイラさんに向かってこんなお願いをしていた。

「あ、あの……イラさんのスキルも見させてもらっていいですか? 世界最古の魔王様がどんなスキルを持ってるのか気になってしまって……」

「ああ。かまわないよ」

 イラさんが快く了承する。

「では、お言葉に甘えて……」

 おずおずと魔鏡を目にかざすライオ。

 どんな反応をするのか見ていると、ライオの口から出たのは短い悲鳴だった。

「ひゃっ!」

 よほど驚いたのか、落としそうになった魔鏡を慌てて押さえるライオ。

 一体ライオはどんなスキルを見たのか、苦笑するイラさんに了承をとって、僕も水晶を目にかざしてみる。

 次の瞬間、僕は言葉を失った。


 ≪魔王≫≪模倣≫≪解析≫≪共有≫≪擬似能力:身体能力強化≫≪擬似能力:高温耐性≫≪擬似能力:低温耐性≫≪擬似能力:熱耐性≫≪擬似能力:打撃耐性≫≪擬似能力:全属性耐性≫≪擬似能力:水中呼吸≫≪擬似能力:不眠≫≪擬似能力:熱源感知≫≪擬似能力:自然治癒強化≫≪擬似能力:波動≫≪擬似能力:闇波動≫≪擬似能力:水膜≫≪擬似能力:火炎鎧≫≪擬似能力:硬化≫≪擬似能力:軟化≫≪擬似能力:飛翔≫≪擬似能力:気弾≫≪擬似能力:念動≫≪擬似能力:分身≫≪擬似能力:幻影≫≪擬似能力:透視≫≪擬似能力:千里眼≫≪擬似能力:盲目≫≪擬似能力:心眼≫≪擬似能力:吸血≫≪擬似能力:反傷≫≪擬似能力:延焼≫≪擬似能力:発火≫≪擬似能力:幻覚≫≪擬似能力:残像≫≪擬似能力:蜃気楼≫≪擬似能力:治癒≫≪擬似能力:修復≫≪擬似能力:光源≫≪擬似能力:痛覚≫≪擬似能力:空間収納≫≪擬似能力:固有空間≫≪擬似能力:瞬間移動≫≪擬似能力:転移≫≪擬似能力:高速行動≫≪擬似能力:神速行動≫≪擬似能力:高速回復≫≪擬似能力:即時修復≫≪擬似能力:捕縛≫≪擬似能力:鉄壁≫≪擬似能力:支配≫≪擬似能力:簒奪者≫≪擬似能力:――


 慌てて水晶から目を離す。

 物見の水晶に映ったのは、おびただしい数のスキル。

 なんだよこれ……同じ魔王であるユーリでも、持っているスキルは6つだけだったのに……

 戦慄する僕に、ユーリが言う。

「昨日言ったとおり、イラは摸倣種の魔王。摸倣種は相手の持っているスキルを解析して自分のものにしてしまう種族だからね。おまけに自分の持っているスキルを種族全体で共有するから、イラを物見の水晶とかで覗くと、全摸倣種が今までに解析したことのあるスキルを一度に見ることになる。だからそんな恐ろしいことになるんだよ」

 そんなユーリの説明に、イラさんは困ったように笑う。

 イラさんもユーリと同じく、見た目だけでは魔王だとはわからない。

 全ての魔王がユーリたちみたいに普通の外見なのかはわからないけど、少なくともガタイはフォードさんの方がイラさんよりずっといい。

 むしろイラさんの体型は小柄と言ってもいいくらいだ。見たところ、身長は僕よりも若干低く、セルビアさんと同じくらいだろう。

 顔立ちだって中性的で整っている。恐ろしいというより精悍という表現のほうが似合う顔だ。

 正直なところ、ユーリの時のように、僕はイラさんが魔王だという実感がイマイチ沸かなかった。

 だけど、一度水晶を覗いただけで理解できてしまう。

 この人も、紛れも無く魔王なんだ。

 そう思った途端、なんだかイラさんやユーリと僕との間に、越えられない何かが現れたような気がした。

 きっと他の人たちもこの感覚を感じているからこそ、魔王を畏れ、近寄ろうとしないんだろう。

 僕は心優しい魔王(ユーリ)をみんなに理解してもらおうとしているはず。なのにこんな感情を抱いてしまったことが、なんだかとても悔しかった。

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