柊の園
読んで下さってありがとうございます。
BL要素を含みますので苦手な方はおやめください。
『紅の果実』のなかの薄い高い本の一部なので、『紅の果実』の本編とは関りがありません。
ガートランドは富豪の商人の一人息子だ。裕福な家に生まれたにも関わらず、友達は下町の少年から貴族の子息まで色とりどりで、器用な彼はこの世は自分のためにあると思っていた。
そう、彼に会うまでは――。
春の木々が新芽をつけ、空は明るく、空気は澄んでいる。
そんな中で、ガートランドは自分より随分小さな少年と出会った。
『柊の園』と呼ばれる国が運営する学院には、幼いといってもいい子供から成人を超えたものまで、勉学を求める者達が集まる。
ガートランドが今年から通うのは、大体十五歳から十八歳の男女が集まる全寮制の高等学院だった。
その学院の入学の挨拶をしたのは、齢十三歳の少年だった。
カール・レサイス。伯爵家の一人息子だった。
「よろしくお願いします」
育ちのよさそうな顔で同室となったガートランドに、カールは頭を下げた。胸元くらいしか身長もない。その彼が代表として挨拶をしたのだ。
「ふうん、お前、頭いいんだな」
ガートランドが、そう言うとはにかむ様に少年は微笑んだ。
十三歳と十五歳の間には二十三歳と二十五歳とは確実に違う二年がある。それをガートランドはカールを見ていて気がついた。いや、この場合は年齢ではないのかもしれない。ガートランドとカールの性格の違いだろうか。
ガートランドが男友達と遊ぶ間、女友達をデートに誘う間、カールは勉強をしたり、剣の稽古をしたりいつも独りだった。この年代の二年差というのは大きい。
そんなカールも疲れれば、ベッドのところに飾った少女の絵姿を大切そうに眺める。
幼馴染の少女らしい。『エリス』とカールはたまにその絵姿を指でなぞり呼んでいた。
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カールは、その日熱を出して学院を休んでいた。
「おい、大丈夫か?」
同室のカールは医務室で薬をもらい、食堂で軽く食べれそうなものを用意して、部屋に戻った。学院のなかでも比較的裕福な二人の部屋は、寝室と居間兼勉強部屋が共同で一つずつある。
寝室の扉を開けると、熱で辛そうなカールが眠っていた。声を掛けると、熱に潤んだ瞳でガートランドを見上げる。
「ガートランド……ごめん。ありがとう……」
熱で身体の節々が痛むのか、身体を起こそうとしたがカールは起きることができなかった。
「マシになったら……食べるから……置いといて」
いつもより幼い仕草で、カールはそう言って目を瞑った。
ガートランドはそれを見て、無理そうだなと思った。温めたミルクを口に含み、カールの頤を掴み、口を開かせると、そのまま流し込む。
「んっ……ゲホッ……ケホ……」
「ほら、もう少し飲め」
何度となく流し込むと、最初は嫌がって手でガートランドを遠ざけようとしていたカールは、諦めたのか体力の限界なのか手を力なくベッドに落とした。
「ほら、口あけろ」
柔らかいものをと、プティングをもらってきていたので、スプーンですくって食べさせると、咀嚼して飲み込む。子猫に餌を上げている気分だなとガートランドは楽しくなる。
元々動物などが好きで、世話好きではあったから、慣れている。
「薬だ――」
また口付けられると逃げようとしたカールに薄く笑い、腕を片手で拘束すると、期待通りに薬と水を流しこんだ。
「苦いな」
ペロっと自分の唇をなめると、良薬なのか苦味が口に広がった――。
「も、やっ……」
苦すぎるのが嫌なのかと、りんごのジュースを飲ませようとすると、逃げられないまま横を向いたカールの瞳から涙が流れた。
熱のせいなのか、それほど嫌なのかわからないまま、ガートランドは涙を舐めとった。塩味だな……と呟くと、カールはギュっと目を瞑った。目を瞑ることしか出来る抵抗がないようだった。
「馬鹿だな、風邪なんかひくからだ――」
カールになんて似合わない言葉だろうかと思う。馬鹿なのは自分だ。こんな子供を相手に何をしてるんだと、少し離れたところから自分の理性が止めているのに、ガートランドは止めることが出来なかった。
ガートランドは陶然とした気分でりんごジュースを口にする。
諦めたのか、それ以上カールが抵抗することはなかった。
『紅の果実』ではハールとローランドが同室の友人だったとしか書いておりません。ローランドのお姉さんの妄想小説で、ちゃんと知らない想像で書いているので、エリアルとリリスが混ざってエリスになってます。ハールは年下ですが、年上との付き合いは慣れているので、学院でも仲のいい友人は沢山います。孤独感があるのはお姉さんの趣味です(笑)。