甘い罰
読んで下さってありがとうございます。
こちらは紅の果実とリンクしております。『紅』の二話の後の話です。
「外出禁止だ」
アルフォードは、珍しく怒っていた。
エリアルは、帰ってきたアルフォードと晩餐をして、その後に湯浴みをして上がってきたら、護衛から報告を受けたアルフォードは、先程までの楽しそうな雰囲気をどこかに投げ捨てて、ソファに座るようにエリアルに命じた。
「……今は無理」
エリアルの言葉に普段温和なアルフォードも、声を荒げた。
「今日、何があったか言え」
騎士団での軍務司令官は直立して、言葉少なく、ソファに座っているエリアルを見下ろしながら聞いた。立っていてさえ見下ろされるというのに、頭の上のほうから聞こえる機嫌の悪そうなその声にエリアルは気圧されそうになる。
「街娘に変装して、遊びにいきました」
エリアルは、とり合えずそう言った。出来れば全部は話したくないので、小出しにしてどこまで護衛が告げたか予想しようと思ったのだ。
「で?」
ああ、喧嘩がばれているようだと、諦めて、告白する。
「声を掛けてきた人と喧嘩になりました」
続きを促してくるので、そこで終わらないのかと残念に思う。
「で?」
髪に触られたとか息を吹きかけられたとかは黙っていようと思う。明日、王都に血の雨が降ったら嫌だしねとリリスと同じようなことを思って、要点だけにした。
「武器で応戦しました」
淡々とそういうと、アルフォードは眉を上げて、珍しいと呟いてから聞いてきた。
「勝ったのか?」
エリアルの勝利を疑っていないその瞳にいたずら心が動く。横に顔を振ると、アルフォードは一瞬心配そうにエリアルを見つめる。
「リリスの悲鳴が勝ちました」
笑いながらそういうと、アルフォードは驚いたように目を瞠り、そっとエリアルの頭にキスをする。
「流石だな」
アルフォードは、エリアルの首筋に唇をうずめてそう言った。
何が? と近くなった瞳を見つめながら聞くと、そっと寄せた唇が熱をもって首筋に吸い付いてきた。
「あっ……」
非難するように声を上げると、アルフォードは微笑んで、「罰だ」と言う。
こんなの罰でもなんでもないと、アルフォードの首筋を狙うと、止められた。
「だめだ。今日は罰だから、お前は我慢な」
なだめるように顎を撫でられて、エリアルは唇を噛みしめた。
「ひど……い……」
唇を噛まれても、今日は我慢させられる。こういってはなんだが、受身ばかりだと身の置き場がない。
「だから、罰なんだっていってるだろう?」
アルフォードがそう決めてしまえば、エリアルにはどうしようもなかった。
エリアルの「酷い……」という声に酔いながら、アルフォードはエリアルを抱き上げて寝室への扉を開ける。
「リリスは、最強だと俺は思う」
眠りに落ちるその前に、アルフォードが呟いた言葉が、印象的だった。
誰よりも可憐なリリス、素敵な笑顔、柔らかい肌、『リリスが最強なんて、当たり前のことなのに』、そうエリアルは微笑んで、眠りに落ちた。
リリスを想って、笑顔になる――。
エリアルの髪をそっと撫でながら、「リリス、強敵過ぎる」とアルフォードは妻の幼馴染を思い、少しだけげっそりとするのだった。
R15だからいいよね?(笑)。