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平和な国

読んで下さってありがとうございます。

活動報告で書いた小話です。

 妻が楽しそうに本を読んでいる。娘もそうだが、そんなに読書が好きなタイプではなかったのにな……と思う。


「それ、そんなに面白いのか?」

「あ、コンラート、戻ってらしたの?」


 妻は、わたしの帰ってきたのも気付かないくらい夢中だったらしい。


「ああ、そんなに本が好きだとは知らなかったな」


 別に気付いてもらえなかったから、すねて言ったわけではなかったが、少し気まずそうに妻――ソフィアは、ごめんなさいねと謝った。


 わたしたちは、いわゆる幼馴染で、気が付いたときには婚約者だった。結婚して、そして、気が付いたら子供も四人出来ていて、夫婦仲も悪くないと思う。

 何よりわたしは、ソフィアのことが大好きだった。二つ年上のソフィアは、三十五歳で、王太子であるわたしの妃としても頑張ってくれている。子供達も可愛い。わたしは、つい最近結婚したばかりの親友を思いだして、本当にあいつが幸せになってよかったと思っていた。


 わたしばかり幸せでは、なんだか申し訳ないと勝手なことを思っていたのだ。


「最近、貴婦人の間で本が流行っているの」

「ああ、王宮ラブロマンスとかあるとか聞いたことがあるな」

「王宮ラブロマンス……確かに。確かにそうね」


 ソフィアは、プププと笑い始めた。なんだろう、何か間違えたのか? と視線で聞くと、心得たように本の挿絵の書かれたページをわたしの前に広げた。


「ん。なんだかごつい男装の姫だな……。しかも黒髪ってアルフォードじゃあるまいし」

「違うわよ、挿絵師の失敗じゃないわよ。これ、ほら、貴方とアルフォード様じゃない」


 何が? この至近距離で草の上で押し倒してるのがわたしで、押し倒されてるのがアルフォード? よくみて、ぼんやりとぼやかせば、そんな感じはある。


「で、なにしてるんだ? 喧嘩か?」


 わたしたちは、仲がいいんだが……と、アルフォードが聞いたら物申したいというだろう事を思う。


「ちがうわよ! ここはね、長年想いあってた貴方とアルフォード様がやっと素直に想いを実らす感動的な場面なのよ!」


 妻の言っている意味がわからない件について……。


「わたしが? アルフォードと想いあってる?」

「そうなの! アルフォード様は王太子である貴方に思いを告げられず、ずっと苦しんでいたよ。そして、それに気付いた貴方が、強引にアルフォード様を押し倒した! 感動の涙なしには語ることのできない……、あっ、目から心の汗が……」


「とりあえず、落ち着け」


 わたしは、どうやら勘違いしていたようだ。


 王宮ラブロマンスが、まさか自分と親友の話だとは……。そして、いささか微妙な男心が悲鳴をあげているが、妻はこの本が大好きらしいのだ。


 うむ、わたしは期待には応える男だ。


「で? わたしはアルフォードに想いを伝えて、どうなるのだ?」

「二人は今、ベッドで愛の巣作りよ」


 いいのか……? お前は本当にそれが楽しいのか? と、聞きたいが、聞けない。


「ああ……、で? わたしはその場合男なのか? 女なのか?」


 体格的にはアルフォードのほうが男だと思うのだが、そこは譲りたくない。


「貴方は男よ。攻めというの。アルフォード様は受けよ!」

「そんな言葉まであるのか……」


 あいつを組み敷くとか、どんな体力をしてるんだ! 本の中のわたし!


「ふっ、面白いな。わたしも読むから貸してくれ」


 妻の顔が喜びに輝く。


「よね! 貴方はそういう人だとおもってたわ! 同志!!」


 わたしのノリの良さを知っている妻は、熱い握手をしてきた。

 とりあえず、楽しいことは大好きだ。アルフォードの嫌がる顔を想像して、教えてやろうと思う。


 この国は平和だと、そう思える午後の一時だった――。

この王太子様、結構好きなキャラなんです。

幸せな国だなと本当に思います。

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