クマのぬいぐるみ
こんばんわ。いきなり思いついて書いたので、ただの甘いだけの話になっております。
クスリと妻が笑う。
「どうした? 思い出し笑いか?」
俺の妻は世界一美しい。そして可愛い。
一緒に庭で月明かりを楽しんでいたのだが、思い出し笑いをしたから、俺を見てほしいと横にいた身体を抱き寄せた。
けっして細くは無い。見た目は細いが、その実妻は白身ではなく赤身の多い身体をしている。豊かな胸の大半が筋肉であることは、夫である俺が一番よく知っている。
座り心地のいいベンチに二人で並んで座っていたのだが、妻は俺の首に手を回して膝の上に乗ってきた。
抱きしめるとギュウと背中に手をまわしてくるので、首を傾げ、横から頬、目元、鼻にキスしてやった。
「フフッ、くすぐったいわ、アルフォード」
身を捩りながらも離れようとはしない。
「何を笑っていたのか教えてくれるならやめてやる」
そう交換条件を出せば、「じゃあ教えない」と可愛いことをいう。
妻の緑の瞳に映る俺の顔は妻にメロメロになっていて、正直恥ずかしいくらいだ。
「アルフォード、ルティのクマさんを買ってきたでしょう?」
それでも話したいことだったようで、エリアルは笑いながら娘の話を始めた。
五歳になる娘に先日、王都のある商店で見つけたクマのぬいぐるみをプレゼントしたのだ。大そう気に入ったようで、ベッドでも一緒、お出かけも一緒という有様だという。ルティアラよりも大きなそれを大事にしているという。
「私は小さいころからそういう大事なぬいぐるみがなかったな……と思っていたんだけど、今ここに……大きなクマさんがいるな……と思って」
クスクスと笑いながら抱きしめてくるから、「俺がクマさんか……」と気付く。
「ええ。大きなクマさん。あの子、私に似たのかしら?」
「大きなクマさんが好きなら相手は騎士かな?」
「そうね。結婚相手はどんな人がいい? って聞いたら、お父様がいいといっていたわ」
きっと嬉しくて大喜びすると思っていたのだろう「うーん……」と唸る俺を見て、不思議そうにエリアルは見つめてきた。
「お父様は、お母様を一番愛しているから、ルティアラを一番愛してくれる男が現れてくれないと困るな……」
頬を染めるエリアルは、いくつになっても可愛い。勿論娘は可愛いが、やはりエリアルには負けてしまう。ここはやはり、俺ではない誰かがルティアラを愛してくれないと困ってしまうのだ。
「そうね。私もルティにアルフォードをとられてしまったら、泣いてしまうわね」
「奥方様は、そんなに弱虫じゃないだろう?」
泣いているエリアルを想像して俺は微笑む。どんな顔をしていても、どんな姿になっても愛しさは消えない。消えるはずがない――。
「そうね。きっと相手が誰でも私はアルフォードを譲ったりしないわ」
俺の顎に口付けるエリアルを抱き上げると驚いたように目を瞠る。
「どうしたの?」
エリアルは驚いても俺の胸の中にいる。
「そんな風に男を煽るもんじゃないと言っているのに……」
低い声でワザと不機嫌そうに告げると、エリアルは極上の笑みを浮かべた。
「私のクマさんは、本当にもう……大好き」
しがみつくエリアルを軽く抱き上げ、二人は月明かりの眩しい庭を足早に去るのだった。
ひさし振りに書いたエリアルとアルフォード。楽しかったです。いきなり子供が生まれておりますが、お気にせず(笑)。




