8 哲学者たちは畏怖する
【ホンダ ユウ】Lv.1 ステータス
HP 50/100 体力 193/200
MP 2/100 魔力 500/500
ATK 23/100 攻撃力 20
DEF 41/100 防御力 20
TEC 30/100 魔法攻撃 100
LUC 70/100 魔法防御 20
促されるまま表示したウィンドウにはこんな数字が踊っていた。何ともRPGっぽい。
後ろでも何とかステータスを開けた3人が静かに目を通しているがみんな一様に疑問を浮かべている。
というのも
「HPと体力って何が違うのです?」
そう。柳洞寺が言ったように何が見分け方の違いか分からないステータスがほとんどだ。
「MPはマジックポイントで意味自体は魔力のことだし、ATKは攻撃力、DEFも防御力でしょ・・・」
廃ゲーマー疑惑のある怜音にも分からないようだ。
・・・俺のMP少なすぎやしないか?神様から力授かったんじゃないのか?哲学者として神から授かった力は疑えと言うことなのか?
「あ、あの、店員さん・・・このステータスの見方って・・・」
奏が勇気を振り絞って女に厳しい犬耳娘さんに話しかける。
「そんなのも分かんないんですか!?はっ。この駄犬が!」
「はうっご、ごめんなさい」
やはり女性には厳しいのかもう口調だけでなく表情すら切り替えているように見える。恐ろしい。
というか犬耳が駄犬だって・・・ふふ、面白くもなんともないわ。
「犬耳が駄犬って言ったのです」
後ろで面白くもなんともなさそうに柳洞寺が呟く。
小さな小さな声だったがさすが犬耳。ぴくりと動いたのと同時に瞳に鋭い光が宿る。やばい。毒づいたように聞こえたかも知れない。女性に厳しい法則からいけば柳洞寺も・・・
「やあん!幼女がいるじゃないですか!きゃわいい!」
「ひいいいいい」
ええ、そりゃ鋭い光も宿りますわ。野獣が餌を見つけた時の眼光でしたもの。
犬耳娘は身体の小さい柳洞寺を気に入ったようだ。全身を愛で回している。
いや、まあ襲われているように見えなくもないが。
「やああんちっちゃあい」
「押すななのです!」
頭頂を手のひらでくいくい押されている柳洞寺が暴れている。
おっとそろそろ止めなければ。
そっと脇に手をやり高い高いの要領で柳洞寺を救い出す。
犬耳娘さんは名残惜しそうに手を伸ばすが相手が男だからか毒は吐かない。
「柳洞寺、俺が話すよ」
「た、助かったのです、本多。でもこれセクハラ」
はてな。と首をかしげておく。うん、他に助け出し方が分からなかったが直感でやったがセクハラになるのか。そうだよな。うん、気をつけよう。
「えっと、それで?店員さん。このステータスってどういう見方をすれば良いんだ?」
「では左上からご説明いたしましょう!」
張り切ってという風に拳を突き上げる。
取り敢えず4人とも真似をする。
「さて、では左上のHPですがこれは・・・」
こほんと一つ咳払い。
「『為人ポイント』です!」
「「「「ひととなり!?!?」」」」
愕然。
RPGのような世界観だろうと踏んでいたら開口一番人間性を問われるなんて。いや、逆に妥当なのか?
「ひ、ひととなりなんてポイントにしてどうなんの!?」
「おや?蚊が飛ぶ音がしましたね。気のせいでしょうか。では気を取り直してその下、MPのご説明をいたしましょう」
「ひどい難聴だあ!!」
怜音が放った俺たち共通の疑問は何の間もなくスルーされる。
「MPというのは・・・『萌えポイント』です」
「ま、また意味が分からないものが・・・!」
為人を数字にされたと思ったら今度は萌え度だった。そりゃ、俺のMP2/100にもなるわ。その点で言えば、為人が50あるのは悪くないんじゃないか?
女子勢も何やら自分のステータスに思うところがあるらしくウィンドウを眺め始める。
HP、MPときてその下はATK・・・普通に読めば〈アタック〉攻撃力になるのだが・・・
「ATKは、何なんだ?」
ステータスが少し低いことが気になって思わず問いかける。
「はい!『あしたにはかえします』ですよ」
「何を返すんだよ!?」
「金です」
「生々しいなっ」
何だ明日には返しますって・・・誠実さでも表してんのか。
「これは誠実さを表しているんです」
・・・23って・・・不甲斐なさ過ぎるだろ。
隣では怜音が小さく振るえ顔色を赤に変え、奏はほんのりと桜色に頬を染めていた。同じ暖色でも心理にこんな大きな差が出るものなんだな。
「では次にDEFですね、これは・・・」
ごくりと唾を飲む。ここまで何となく心を抉られる社会性を問われてきた気がするが次は何が飛び出すのか・・・!
「『ディフェンス』ですね」
「「「「・・・」」」」
ツッコミの準備してたのにこの野郎。
事ここに来て単純にディフェンスって・・・急に真面目ぶるなよ!全力でボケて来いよ!
その後TECも単純に<テクニック>技術力らしい事が明かされる。
「左のステータスに関してはまあ、納得はしてないのですが理解はしたのです。でも何で右側にもある守備力が左側にもDEFとして表示されているのです?」
「ああ、それは左側が社会的ステータスを表しているからですよ」
「社会的ステータスってどういうこと?」
「はっ蚊どころかアメーバーが這いずる音にしか聞こえませんね!」
「虫以下になった!?」
「えっと、教えてくれないか?」
「はい!社会的ステータスというのはこの世界で国民として生きるための導です」
「導?」
「たとえばの話そこのH2Oが私にお金を返さなかったとしましょう」
「生物ですらなくなったあ!」
「そうなるとATKが日毎に減少していき、最終的には0になります」
水って!と叫んでいる怜音以外がふんふんと頷く。
「そうすると社会に悪影響を及ぼす因子として扱われます」
「一つでも0になると?」
「はい。そして治安維持軍に補導されます」
「き、厳しくないかそれ・・・」
「ですがそれが国のルールですから」
やはり何か歪んだ返答だ。
あれ?そういえば俺MP2なんだが大丈夫か?どうしよう・・・・・・そうだ!
「おい、ちょっと奏。俺の頭撫でてくれ!」
「え・・・ふぁ、ふぁい!?」
「いいから!早く!深い意味はない!お前が一番身長的にはとどきやすいんだ!」
「は、はい!」
ぎこちなく奏の手が俺の頭の上に乗り、左右に動かす。
頭と言うより髪を撫でられる感覚だ。
俺が何も言わずに俯いた(演技)ためか奏が手を離なす。
しばらく黙る。
おろおろする奏に罪悪感を抱きながらも黙る。
そしてここぞとばかりに少し照れながら頬を掻き(演技だ)
「あ、ありがとよ」
と口を尖らせながら礼を言う。
・・・・・・・・・・・・・・・・うお!萌えポイントが30上がった!なるほど!為人が5ほど減ったが!
何か奏がもがいているが気にしない。取り敢えず一安心だ。補導される可能性は減った。
隣で礼音と柳洞寺がばたばたしていた。何か芳しくないステータスがあったのだろう。
「何となくシステムは分かった、でもこのDEFは?守備力なんて社会的に必要なのか?」
「ああ、それは少し特殊でして・・・」
「?」
「左側が社会的ステータスなのに対して右側は戦力的ステータスを表します。なので右側の『防御力』が減ればそれは身体的な防御力低下を指すんです」
「と言うことは・・・」
「ええ。DEFは精神的な守備力を表します」
「それが減っても補導されるのか?」
「まさか。DEFが0になると来るのは黄色い救急車ですからご安心を!」
微妙に安心できないことを言われた気がする。がそれ以上に気になる点がもう一つある。
「そういえばこのLUCってのは何だ?まだ説明を貰っていなかった気がする」
各々のステータスに不安を見せていた4人も顔を上げる。
普通LUCと言えば<運>を表すものだが
「なんだ!見れば分かるじゃないですか!」
明るい表情で返される。良かったこれもDEFやTECと同じでまともな
「決まってるじゃないですか!ルゥシーですよ!」
「「「「ルーシー!?!?」」」」
「いえ、ルゥシーですよ。発音気をつけてください」
「ちょ、そこじゃねえ!なんだよルゥシーって!」
「だからルゥシーですよ」
「う、ちょ、ちょっと、い、異文化こええ!」
こんな理由の分からんことで警察沙汰になったりするのか。
得体が知れない分、戦場以上にルゥシーの方が怖い。
ってあれ?ちょっと待て俺のLUCは確か70あったはずだ。今は・・・50・・・49・・・48。
「いやああああああ俺のルゥシーがんがん減ってるううううう」
ちょ、これどうすればいいんだ!?ルゥシーが何か分からんのに手の打ちようがない!
そして周りでも
「あたしのルゥシーがあああああ」
「ほ、補導され、されちゃいますううう」
「20きったのですよおおおお」
と、目も当てられない状態である。
犬耳娘は「はてな」という表情のままだ。
俺たちは落ち着くまでの数分間このルゥシーに人生を脅かされ続けた。
【ホンダ ユウ】Lv.1 ステータス
HP 45/100 体力 193/200
MP 32/100 魔力 500/500
ATK 23/100 攻撃力 20
DEF 41/100 防御力 20
TEC 30/100 魔法攻撃 100
LUC 20/100 魔法防御 20
ただいまログインされているゲストはいません