6 哲学者たちは町に着く
「人間はポリス的動物である」。アリストテレスの有名な言葉だ。
ポリスとは社会的・政治的共同体であり、人間はその中でこそ生きることができるといった意味合いである。
言われてみればそんな世界で生きてきた俺には逆に理解しづらいように思えていたが、この町を見るとかの哲学者の思想原理を実感する。
決して利便性には富んでいない。しかし、石をいくつも並べて敷かれた道には暖かさがあり、その上で生活を営んでいる人々の動きには活気がある。魚、野菜、肉を売る店もあればそれらを調理した状態で捌く店もある。
日が沈みかけたこの時刻はあらゆる客層で道は混み合い、石ころを蹴飛ばしながら笑い駆け回る子供たちがその波の中を抜けてゆく。
「「「「・・・」」」」
意外・・・だったのだ。戦場から抜け出せた俺たちは最も前線に近い町へとやってきたのだが、最前線とは思えない賑わいに驚きを隠せなかった。
殺伐とした戦場での騒がしさとは別に、突如訪れた暖かい騒がしさ。意表を突かれてしまってもおかしくはない。
「ここが、えっと・・・ポーリの町、ですか・・・」
視線は町の隅々まで泳がせたままおさげの少女・奏がぽつりと呟いた。
ポーリの町。雰囲気はドラ○エ8の始まりの町トラペ○タによく似ている。・・・分からん奴は知らん。あのストーリーは名作だ。
四方を壁に囲まれた小さな町だが閉鎖感はない。確かに神と悪魔の代理戦争中のさらには前線の町ゆえか武器・防具等の店も目立つし、戦場から続々負傷兵が運び込まれている。しかし血生臭さはなくむしろ町の住人や医師の間で手厚い看護が行われており、やんわりとした空気が漂っている。
せわしなく足を動かすサラリーマンもいなければ天に挑むかのようなビルもない。
「異世界・・・なんだ」
気の抜けた少女の声・怜音の声で改めて異世界に来たことを自覚した。
だが自覚したからと言ってこのぼうっと突っ立っている状況が好転するはずもない。俺たちはこの世界で生きていかなければならない。これからどうすべきか考えよう。
「お前ら、これからどうすればいいと思う?どうにかゴーレムからは逃げられたが」
「「「食事」」」
「おい」
図太いというか何というかさっきまでの様子はどこ行った。町見て驚いてたんじゃないのか。
「食事っていってもな・・・俺たち一文無しだぞ」
そんな当たり前の返答をすると、一際背の低い少女・柳洞寺がぽんと手を打って提案する。
「身体を売ればいいのです」
「ちょ、だめだろ!女の子が何言ってんだ!身体売るなんて言葉どこで覚えた!許さんぞ!めっ」
「いや、あなたの身体をなのです」
「悪魔か!」
俺を売り飛ばす提案を俺にしてきたぞこいつ。
そして俺の動揺を無視して奏、怜音、柳洞寺の女三人は話を進める。
「童顔ですし、いけ、るでしょうか?」
「いけるんじゃない?何というか同人誌向きの顔立ちだし」
「そういう趣味思考の人を見つけ出せれば万事おっけいなのです」
「その、万事、というか、9999事ですね、オッケーなのは」
「待て!お前らが9999に対して俺の貞操は1なのか!?不公平だろ!」
「「「そこかー」」」
あれ?なんかちょっと空ぶった感触だ。三者三様でため息をついている。怜音にいたっては俺の肩を二度軽く叩きながら「ツッコミに粗があるね。これから鍛えていこう」とフォローを入れてきた。無性に苛立った。
しかし、食事の話をすると今まで忘れてた空腹が疲れと共に帰ってきた。
「だが本当に腹減ったな」
「お金・・・降ってこないかな?」
「神頼みでも、します?」
そのような言葉を聞き全員で空を仰いだその時
「やあやあ皆さん!お困りですか?そんなときは神様ヒント!」
いつぞやのウィンドウが展開される。話を続ける声の正体は言うまでもない。
「ここから西の宿に犬耳のおねえさんがいるからね!その人に話を聞いてご覧!かわいい娘だよ!僕の武勇伝とk」
パーン!!
「「「「・・・・・・」」」」
4つ分の破裂音と沈黙。
別に沈黙やウィンドウ破壊の理由があの中年のテンショのウザさにあるわけではない。単純に次の行動が決まったので続きは不要と感じただけだ。ほんとそれだけ。
俺たちは少し早歩きで西へ進んだ。
ちょっと1話が長くなってしまいましたので2つに分けました。
近々続きを載せます。