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5 哲学者たちは訴える

逃走というのはそうできる可能性が希薄な場合に行うものではない。

だが、人間誰しも最悪の状況下では出来る出来ないの換算はさておき、そうしてしまうものである。

結果は見えていても逃走することで奇跡の類が降りてくる時間を少しでも引き延ばす。何か大きなものが力ない者を救い出してくれると信じて走り続ける。実現する事なんて万に一つあるかどうか・・・。しかし、十万に一つでも可能性を求める。必死であれば藁どころか蜘蛛の糸でも縋りたいのだ。

故に走る。

そうするしかないのだ。




まあ、ともかく何が言いたいのかというと、


「貴君らは実に無様な格好をしているがそれでも我が国の兵士か?」


逃げられるはずもないゴーレムからみっともなく遁逃(とんとう)していた俺たちに奇跡が舞い降りて、


「恐怖に追われて尻込みするなど情けのない!そもそも我が軍の軍規は・・・!」


奇跡が舞い降りたついでに説教も受けていると言うことだ。





概要を100字程度で説明すると


ゴーレムどころか他の悪魔の代理であると思われるモンスターにも追われる始末になった俺たちは騎士団長を名乗る青年に助けられ、数分前までゴーレムだった土塊があちこちに転がっている中説教をされている。


という具合になる。


この人たちを信用しているわけではないが、命を救われたことは確かなのでおとなしく青年のありがたいご高説を給わっている。

青年であるにも関わらず援軍を率いる長ともなるとかなりキャリアのある人物なのだろう。何というか気品というかプライドというか、そのようなものが細く透き通る様な金髪の一本からでも放たれているような気がする。

空に向けて指を立てながら話を続けていた青年がこちらを少し観察する。

俺に気があるのかな?・・・・・・・・嘘だよ、嘘嘘。いや、ちょっと疲労がピークに近くなってこんな感じなだけ。気にすんな。

だがまあ目をやりたくなる気持ちも分かる。なんと言っても俺たちは前の世界にいた時の服装のままのようでこの中世じみた鎧なんかを着ている世界では明らかに浮いているし、その奇抜な服装も気にならないほどに俺や怜音(れのん)、柳洞寺に奏はくたびれ果てていた。

しかし、青年が気にした部分はそこでは無いようで、


「その、君たちは怪我をしているのかい?怪我をしているのなら近くの町まで送らせるが?」


先程の高圧的な説教の時とは打って変わり、心底心配そうな口調で尋ねてきた。


ああ、怜音を見ていたのか。


彼女は未だ俺の背で目を回している。しかし、気絶しているだけで目立つような怪我もしていないのだが・・・


「は、はい。その、俺も実は腹が痛いかなー、なんて」


これはチャンスだ。青年の好意を弄ぶかみたいで気が引けるが、いくらここが野営地であってもここに居座り続けたらいずれ戦場に駆り出される。こんな何も出来ない状態で戦争の真っ直中に放置されるのは非常にまずい。一度どこかの町で安全を確保する。


俺の発言を聞いて柳洞寺が察したのか


「私も、肺が潰れそうなのです」


まあ、君の場合は話を合わせたと言うより本音でそうなんだろうけどね。

俺と柳洞寺が発言したのを聞いて自分も何か言わねばと思ったのか奏は


「わ、わたしも、その、歯槽膿漏で歯がぐらぐらなんです!」


言わなくても良い症状を述べた。

冷や汗が垂れる。いくら何でも歯槽膿漏は怪我としてカウントされないだろう。もう、こいつら正直者過ぎる。馬鹿正直とはよく言ったものだ馬鹿。


訝しげに眉をひそめる青年になんとか言い訳しようと頭の中をまさぐっていると。


「う・・・んー」


背中から声が聞こえてきた。怜音の目が覚めたのだ。


それに気づいた青年が彼女に質問する。


「君はどこか怪我しているのか?」


怜音はきょとんとした後とても元気よく


「全然!むしろ眠れて逆にスッキぐふっ」


などとほざいたので背負ったままエルボーをきめる。我ながら素晴らしいキレだった。実際肘鉄入れられてる現場なんて見たこと無いから比較は出来ないが。


「ええ!?何かすごい音したぞ!?ちょ、その子口から血が出ているが本当に大丈夫か!?」

「い、いえ全然大丈夫じゃないです!早く俺ら共々町に連れて行って下さい!」


何か動揺して支離滅裂な事を言っているような気がするがこのまま押し通そう。


「じゃあ彼女はどこを怪我したんだ?」

「え、ええと」


言いよどむ俺に救いの手が差し伸べられ、


「そ、その、彼女は歯槽膿漏で歯がぐらぐらなのです!」

「てええええええええええええええええええええええい」

ぱあんと柳洞寺の頭を(はた)くが遅かった。青年はあんぐりと口を開けてしまっている。叫びたくなる。なんだよ!4人中2人が歯槽膿漏のパーティて何なんだよ!嫌すぎるだろ!

どうにか声を口の中に押しとどめるが、もうだめだ。仮病がばれる。・・・と


「そうか、歯槽膿漏か。血が出るほどなら早く町へ連れて帰ろう。そこの!馬車を一つ用意しろ!」

「「「へ?」」」


自らも歯槽膿漏であると打ち明けた奏ですら滑稽な声を漏らす。

何で?何でこんなに歯槽膿漏に対してお心遣いをいただいてんの?あれか?もしかしてこの青年もなのか?


馬車が着く。


大きいとはいえないが4人が乗るには十分すぎる。


大きな謎を抱え、心ここにあらずといった状態になりながらもどうにか荷台に乗り込み、俺たちは戦場をあとにした。




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