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4 哲学者たちは魔法にかかる

「「「ぎゃああああああああああああああ!!」」」


爆発した。

何がって?目の前のゴーレムが!


「へにゃあああああああ!」


と余波で怜音(れのん)が間抜けな悲鳴をあげながらふっ飛んでくる。緊急の回避などできるはずもなく、俺と柳洞寺は怜音にアタックされる形で倒れ込み三人はもんどりをうって地面を転がる。

砂を巻き上げながらも見上げると、爆炎の中未だ平然と起立するゴーレムの姿があった。タフすぎる。怖すぎる。

だが・・・


「そ、それより今の爆発を起こしたのは・・・!」


振り返るとそこには、(かなで)の姿があった。数分前まで少しも見なかったものだからてっきり逃げおおせているのだとばかり思っていたが、彼女は華奢な手の上に目一杯の石を乗せて一投、また一投とゴーレムに投げつける。


「え、えいっえいっ」


と可愛らしい声を出しているが、投擲(とうてき)のフォームはメジャーリーガーのピッチャー・・・いや、それをも凌ぐスピードでなされている。

轟っと気流をも乱す速度でとんでいった丸っこい石はゴーレムの目に当たる。ダメージを通している様子はないが、ゴーレムは殺気の練り込まれたその投擲に怯んでいるようだ。

間髪入れず第2弾が投げられ、またも目に直撃する。

奏はこの石を拾い集めていたようだ。それであんだけ走ってたんだな。・・・そうだよね?


あのつぶらな瞳ばかりに追い打ちをかけている卓越したコントロールはどこから、と思うが、そんな疑問以上に気になることがひとつ。

奏によって投げられた石はどう見てもただの石で爆発を引き起こしている気配はない。じゃあ・・・


「さっき爆発したのは何なんだ?与えられた力とやらが理由なのか?」


厨二病はとうの昔に完治したが、それでも異世界で異能力とかいう展開が待ち受けているなら高まらないものなんて無い。何でも爆弾に変えられる能力者みたいなのがいたなあ、確か。


「あ、私が、その、その辺で戦ってた人の腰から、その、1つ2つ・・・」

「盗んだの!?」


周囲では、「おい!グレネードランチャーは準備した!手榴弾を!早く!」「わ、わかった!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「おい!どうしたんだ!」「な、無い!腰につるしてた手榴弾が無いんだ!!」「な、なに!?・・・て、撤退だああああああ」「ま、魔法の援護頼むうううう」

なんていう会話が聞こえてくる。・・・この世界、ゴーレムがいるぐらいだからまさかと思ったが魔法あるのか。


「・・・・・・・」


彼らには悪いが、この手榴弾のおかげで1つ危機を乗り越えたことは事実だ。すぐ向こうで赤や青の閃光が飛び交っている。魔法支援とやらが間に合ったのだろう。すまないと手を合わせながら感謝しておく。

何はともあれこれはチャンスだ。

急に戦場に放り出されては、能力・力の有無にかかわらずなす(すべ)がない。

今俺たちを襲うゴーレムは怯んでいる。絶好の機会だ。


「奏!もう一個爆弾を投げてくれっ。そのタイミングで逃げる!」

「りょ、了解しましたー」


目を回した怜音をおぶり、柳洞寺をおぶり・・・・・あれ?どうしよう・・・2人もおぶることなんてできないぞ?

奏は十数メートル後方。前方数メートルにはゴーレム。俺には荷物が2つ。単純な荷物なら2つでも3つでも持ち上げられるかも知れないが、この荷物共は人の形をしている。1人おぶって1人抱くか?・・・走りにく。いくら怯んだ瞬間を突くとはいえ、ゴーレムに追いつかれる可能性の方が圧倒的に高くなる。魔法なんてものもあるらしいが今の俺には使い方が分からない。


いや、でも俺たち何か神様に力を与えられてるぐらいだし、いくら体力が無いとはいっても柳洞寺もそろそろ自分で走れるようになっているのではないか?


「柳洞寺!お前走れるか?俺は怜音を背負うからお前を背負うのはきついっ」

「なん!?それじゃ私が重いみたいじゃないですか!」

「そういう意味じゃねえよっ。お前も神様から力を与えられたんなら出来るはずだ!」

「そ、そういえばそんな展開があったのです!」

「だろ?前の世界とは違って、この世界の俺たちの力ならあのゴーレムから逃げられるはずだ!」

「!!了解なのです!」


こいつも元厨二病患者っぽい臭いがするがさておき。


話し合いを終え、三度目の逃走を始めようとした俺たち4人目の前にどこぞで目にしたウィンドウが広がった。


「やっほう!君たち!元気してる?みんなが大好き神様だよっ。1つ言い忘れてたことがあったから言っておくね。君たちにあげた力だけど今日中は使えないから気をつけてねっ」


ぱーん


風船を割るような音が響く。


気絶している怜音以外が自らの眼前に広がったウィンドウを握りつぶした。柳洞寺にいたっては怜音の分のウィンドウまで叩き壊している。



「「「・・・・・・」」」



何も言わず怜音をおんぶして立ち上がる。

隣では柳洞寺も自らの足で立っていた。


「よし、話し合いは終わりだ。お前の力ならやれる。柳洞寺」

「了解なのです」


今の報告は無かったことにしよう。俺たちには力がある。そうだ、この世界の神から与えられた力が!

哲学者は本来疑うのが仕事だが、いや、そんな事も今は忘れてしまおう。



GO!の合図の代わりに無言で投擲された爆弾が爆発する。

風圧に背を押される形で駆け出す。



「「「・・・・・・・」」」


何となく身体が軽い気がする。これもその力のおかげなのか。





この世界には剣も銃器も魔法もある。そんな混沌とした世界で初めてかかった魔法は、何とも素晴らしいことにプラシーボ効果というやつだった。
















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