2 哲学者たちは駆ける
「ひとつ確認するぞ!」
俺は背後に圧倒的な威圧感を認識しつつも精一杯の声を張り上げ、前方には髪を左右に揺らしながら疾走する少女達の背中に言葉を届ける。
「俺たちはこれから見知らぬ土地で同じ目標に向かって生きていく運命共同体・・・いわばパーティを組んだようなものだな!」
こくりと無言の頷きが3つ。こちらを振り返ること無く彼女らは同意の態度を示す。
「パーティは助け合うものだよな!」
こくり
「じゃあ助けてください!!」
「「「ごめんなさい」」」
先程まで身を寄せ合って会議(?)を行っていた俺たちだが、RPG等で良くお目にかかるゴーレムのような礫の巨像に発見され、絶賛逃走中である。
気づくのが数瞬遅れた俺が不本意ながらしんがりを努める形になっている。いや、別に走るのが遅いとか運動会のリレー糞食らえとかそういうわけではなくて、ほら、砂って走りにくいじゃん?俺人工芝派だし。
前を行く少女達はそんな砂地を全力も全力で駆け、後ろなんぞ振り返る気配がない。
重苦しい足音が先程より近くなっている。
パーティが薄情である以上周りの人間に助けてもらう必要がありそうだが、周囲は周囲で戦闘やなんやで俺なんか気にもとめない。と言うよりゴーレムとの戦闘を避けている感じだ。
・・・と
目の前を走っていた長い髪を持つ少女、柳洞寺がぴたりと足を止め、一般よりも低めの身体をこちらに向ける。
助けてくれるのか・・・!
感極まって涙が出そうになるのをぐっとこらえて、全力で彼女の元へ走る。
・・・彼女は一瞬で俺の首に手をやるとそのまま遠心力で自らの身体を俺の背中へとまわした。
「・・・ん!?」
驚いて声も出せずにいる。なんだこの状況。いや状況はよく分かる。これはおんぶだ。俺は今少女をおんぶして全力疾走している。
「な、なぜ?」
ぐるぐる思考を巡らせながら問う。足は止めない。
「私の体力は荷物35キロ分に相当するのです」
「・・・体力が?」
「荷物35キロ分です」
「・・・つまり?」
「しんどいのでおぶってください」
「体力値が逆境すぎるううう」
この娘体力が0もないわ!マイナスだわ!すてきねこんちくしょう!
ていうか荷物にしかならない体力を体力と呼んで良いのか!?
重たくはないがそれでも荷物は荷物。一変にスピードの落ちた俺にゴーレムさんのあつい拳が飛んでくる。
何とか避けたが拳がめり込んだ地面を見て冷や汗を散らす。
「ほ、ほら速く走るのです!置いていっちゃうのですよ!」
「背中からかける言葉じゃねえよ!」
と言いつつも前傾姿勢をとり更にスピードアップすべく足に力をいれる。
「あ、ちょ、あんまり速く走ると、うぇ・・・」
「え、うそ、嘔吐の前兆みたいな音がするんだけど!?」
「長時間、ゆ、られると、うぇっ」
「超・短・時・間!お前の体感時間どうなってんだ大丈夫か!3秒が3時間に感じるのか!?一日が14400時間か!?老けるぞ!一瞬で老けるぞ!吐き気は気合いで抑えろ!胃液と精神のせめぎ合いは気合いでどうにかなる!」
「・・・ツッコミ・・・うえっ・・・なが、うぇ」
「悪かったな!」
息を切らして走る中、前を行く2人の少女が目に入る。
くそう。こっちはこんなに苦しんでるのに黙々と走りやがって。どうにかせめて道連れにでも出来ないものか。
というかそもそも俺たち力をもらったんじゃ無かったっけ?身体には何の変化もおきて無いんだが。もうすごくしんどいんだが。
ずうん と再度重苦しい音が地面の揺れと共に伝わってきて焦りながらもどうにか彼女らに声を届かせる。
「お、おい!そこのポニーテールとおさげ!怜音と奏か!思い出せ!お前らは神から力を与えられてるんだぞ!俺を助けられるのはお前たちしかいないんだ!」
「・・・」
無言で悪魔と人間の間を走り抜けて逃走する2人だが、ポニーテールの少女・怜音のアホ毛がぴくりと動くのを俺は見逃さなかった。
もう一押しか?
「いける!お前ならやれる!頼れるのはお前だけだ怜音っ」
ぴくぴく。
怜音はあるかどうかも分からない力を頼られて悩んでる。騙されやすいのもどうかと思うが今はどうにかこの状況を打破したい。でないと俺の右肩が吐瀉物で・・・!
・・・逆に何の反応もなく走り続けている奏が怖い。
「お前にしかこいつを倒せない!助けてくれっ怜音!」
もう一度名前を呼ぶとそこが限界だったのか
「しょおおおおがないなああああっ」
と彼女は鼻の穴をふくらませながら仁王立ちで胸を張る。
その行動に警戒したのかゴーレムも動きを停止する。
その間に俺は怜音のそばを抜けて何メートルか後ろで立ち止まり柳洞寺を背中から下ろす。
振り返れば砂を攫った風がゴーレムと怜音との間を吹き抜け、西部劇の決闘のような雰囲気を出しているた。
周囲の騒音から切り離されたように沈黙と静けさが俺たちを包む。
ひゅっという音がこの空間に響く。ゴーレムが地面にワンパンチ入れた音だ。
数瞬遅れて轟音がやってくる。
吹き飛びそうなほどの風圧に襲われ目を閉じる。
風がやみ視界が砂から晴れるとそこには上空1000メートルから鉄球が落下したのでは無いかと思うほどのクレーターができあがっていた。
怜音は動かない。
柳洞寺がまたも俺の首にしがみつき俺もそれを拒まない。
余波にたなびくポニーテールを一瞥して俺は静かに逃走を開始した。
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