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Made In the Revenge  作者: 歩人
第一章 オルジャレノン
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第七話「阿鼻叫喚」

宣戦布告をしたあの日から二日。私はずっと彼奴等を待っていたが一向に来る気配がない。私が隠れ家としているのは街から少し離れたところにあり、屋根や壁はギリギリ形を保っているような廃墟。誰もこんなところに廃墟があるなんて記憶にも残っていないし、ましてや、人が居るとも思わない。


見付けるにも時間が掛かるとは思っていたが、あまりにも遅すぎる。どうやら武器の流通には長けていても、探索能力は皆無のようだ。


これ以上奴等に合わせる理由も無い。私はその夜、街へと向かった。



――……



夜。



月は雲に隠れ、どんよりと暗い夜だった。そんな夜に明かりも点けずに歩く男が二人いた。その二人は声を潜める事無く話していた。中々私を見付ける事が出来なく機嫌の悪いボスへの愚痴だ。そして次第に話題は私の事に移る。


それは自分達が組織の人間だ、と言っているようなものなのに。人気の無くなった道、何の気配も感じられないが故の油断。こんなにも私が近くに居るのに…。








「こんばんは。」







「!」

「なっ!いつぅ゛…っ!」



首に宛てがわれた短刀は躊躇なく引かれ、辺りに真っ赤な血が飛び散る。力無く倒れるそれを横目にもう一人の男へ向き直る。


「お恥ずかしながら(わたくし)、もう我慢する事が出来ません。どうぞ、アジトまで案内下さいまし。」

「はっ、馬鹿かてめぇ。はいそうですかって言う訳無ぇだろうが!」

「左様でございますか。それは真に残念でございます。」


短刀を抜き放つ。空を斬る音と共に甲高い金属が交わる音。私が力で敵う筈もなく、ギリギリ…と押されてしまう。一度後方に飛び距離を取る。


「ふん、こんな奴に殺られたのか。」


男が女に鍔迫り合いで勝った事がそんなにも嬉しいのか。そんなもの、圧倒的な力の前では何の役には立たない。それを思い知らせる為、目の前で天狗になっている男のその鼻を圧し折って差し上げましょう…。


スカートに隠していた少し長めの刀を一振り取り出し、短刀と刀を逆手に構える。


 ゆらり、


 ゆらり、


顔を伏せて、腕をだらりと垂らして、体全体をリズム良く揺らす。これから始まる瞬速に、男は絶望を見た。



――……



私は組織のアジトの前まで来た。あの男に案内させたのだ。男は体の至る所から流血しており、歩く際には足を引き()っている。先程まで天狗になっていた男が今や涙や鼻水等、出るもの全てを垂れ流し無様な姿を晒している。


男が案内したアジトは河の傍にある大きな倉庫なような建物だった。だがその建物は造船所のはずだ。壁にもオルジャレノン領のシンボルも描かれている。


「嘘は身の為になりません。」

「ぅ、嘘じゃ無ぇ、よ…っ。本当に、ここだっ。」

「こちらは造船所だと聞き及んでおります。」

「囲って…ぅ、もらってんだ。」


男はオルジャレノン領のシンボルを指しながら息絶え絶えに言った。


「そういう事でしたか。」


納得した私は男の背中へ強めに短刀を押し付けた。これからアジトの中に侵入する。この男には最期まで先導してもらう。


ゆっくりと正面の扉を開けさせ中を覗く。通路には人影は無く、蝋燭の明かりだけが寂しく揺らいでいた。男が扉を開ける際に今頃は中央で集会を開いていると言っていたのは嘘ではなかったようだ。


少し進むと大きな扉があり、そこから少しの明かりが漏れていた。扉の周囲を見回したが見張りも居らず、すんなりと扉を開ける事が出来た。




「皆様、夜分遅くに失礼致します。」


スカートの端を摘み丁寧にお辞儀する。……これから死にゆく方々に敬意を込めて。


「そのメイド服…お前か、例の犬っころは。」

「犬…、今の私にはお似合いかもしれませんね。」


そう皮肉気に笑い、手元の刃を見つめる。


あの温かな花園で旦那様と共に生きると…。もう二度と人を殺める事は無いと、そう信じていた。しかし、今では最愛の人の敵を追う犬。


再び上げた目はギラリと鋭く煌めいた。獲物の血肉を求めるようなそれは最早“犬”と呼ばれるには相応しく無かった。体が疼く、早く早く……、







 殺 し た い 。







その目には怒りや憎悪、様々なものが入り混じっていた。それに真っ先に恐怖したのはここまで案内した男。その怒りが自分に向くのではないかと思うと居ても立っても居られなかった。男は目の前の仲間の元へと重たい体を引き摺って駆け出した。だが、男は仲間の元へ辿り着く前に地面に伏した。


私が握る短刀から垂れる血は男のモノ。そう、私が男の首を切り裂いたのだ。私と男の距離は十分にあった。だから男は油断したのだ。もう大丈夫だと…。


だが、私は意図も簡単に距離を詰めた。私の瞬速を持ってすればあの距離を詰める事など雑作も無い。その速さを目にした奴等は目を見開き、それぞれの得物を構えた。


「私が用があるのはそちらの方のみ。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「面白い…、レヴァナスだ。お前の名は?」

「テレサと、そう呼ばれておりました。」


懐かしむようにその名を紡ぎ、微笑む。


「ではレヴァナス様、邪魔者を排除致しますので少々お待ちください。」


私のその言葉を合図に奴らは一斉に走り出し、そして私も走り出す。大勢の猛者の中へ飛び込む小さな影。目標は狙い易いはずなのに、誰もそれに傷を付ける事は出来ない。


数にして100にも満たない雑魚が相手、そんなに時間は掛からない。


真夜中の倉庫の中で、次々と首を斬られてゆく男達が出す声はまさに













                     『阿鼻叫喚』


To Be Continued...

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