第五話「思慕」
私が次々と武器を購入していく中で、会話らしい会話は無かった。黙々と作業を進め、店を出る準備も出来た。ふと、そこで来店した時から気になっていた事を聞く。
「以前に比べて、随分と雰囲気が変わりましたね。」
ぐるり、と店内を見回す。ルーカスは諦めたように、だが苛立ちを隠しきれず、溜め息交じりに言った。
「最近、新しい武器を扱う組織が出来てな。奴等は他所から輸入してるんだが、皆物珍しさと安さにそっちへ流れたんだ。」
「…そうでしたか。その組織の所在をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「場所は決まっていない。」
「決まっていない…と、申しますと?」
「奴等は店を構えずに馬車で回って商売している。だから場所までは分からん。」
だが…、とルーカスは続けた。ルーカスの方を見れば言ってはみたものの、やはり言うのは止めようか、と首を傾け悩んでいた。
「よろしければ続きをお願い致します。」
「うーん、まあテレサさんなら大丈夫だろう。…噂なんだが、どこかに大きな拠点があるらしい。そこで裏の取引をしていると聞いた。」
「そうですか、ありがとうございます。」
私は荷物を取り、再びルーカスの方に体を向ける。
「本日は、大変お世話になりました。ルーカス様達に何らかの危害が加わる事が無いよう、二度とこちらには参る事はございませんで、ご安心くださいませ。」
頭を深く下げて踵を返す。これが最後だ、とドアノブを一撫でしてゆっくりと開ける。途中ルーカスに呼び止められたが、軽く会釈をしてそのまま店を出た。
店を出てからは宿屋へ向かった。足が着かないようにこの辺りから離れた所に拠点を構えなくては…。そんな事を考えている間に自然と足取りはゆっくりになっていた。景色が変わる度に出てくるのは旦那様との思い出。馬車を走らせたり、たまには歩きたいと共に歩いた道。そして、旦那様のお気に入りの場所。そこは夕日が良く見える湖の脇にあるベンチ。旦那様はこのオルジャレノン領の中で、ここから見る夕日が一番好きだと仰っていた。
気付けば太陽は傾き、橙色の優しい光で湖を照らしていた。見納めに、ベンチに腰掛ける。夕日は変わらず美しかった。
「テレサさん!」
聞き覚えのある声。ゆっくりと来た道の方へ目を向ければ、ラウルが立っていた。息を切らしながら立つラウルは夕日に照らされていた。茶色の髪、茶色の瞳…全てが橙色に輝き、綺麗だった…。
私はベンチから立ち上がり会釈をする。
「ラウル様、先程はご挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした。何分、姿が見受けられなかったものですから。」
「本当だよ!僕が帰った時にはもういない…、待ってくれていても良かったじゃないか!」
「…申し訳ござ――」
「あ、あぁ、違うんだ、テレサさん。本当はこんな事を言いに来たんじゃ無くて…!」
怒っていた、と思えば急に慌てだすラウルに私は首を傾げる。するとラウルはどこに持っていたのか、小さな花束を差し出した。
「僕は…、僕の気持ちは変わっていないよ。僕は今でも君と…テレサさんと生きたいと思っているよ。」
ぐらり。
輝くラウルに、眩しいとさえ感じてしまう、その照れた笑顔に、何かが揺らいだ気がした。
「でも、テレサさんの気持ちはちっとも揺るがないんだろうね。」
――……いいえ、今の貴方の笑顔に。
「僕は決めたんだ。」
――……先程の勢い任せの言葉とは違う。
「ずっと待っているよ、君を。」
――……あぁ、あぁ。
「だから無事に…、」
――……貴方はなんて、
「僕のところまで、帰ってきて。」
――……危険な人。
生きたいと…願ってしまいそうで、そう、思わせてしまいそうで…。
私の脳内では警報が鳴る。戦いの中で生きたいと、願った者から弱くなり死んでゆく。私は死ぬ訳にはいかない。復讐を果たすまで。私は恐怖した、ラウルが私を弱くしそうで。早くこの場を離れなくては…。そう思っても足は動いてはくれなかった。
ラウルは更に一歩、私との距離を縮めた。そして、ゆっくりと私の髪へ唇を落とした。
「今はここで我慢かな。…待っているからね。」
ラウルは来た道を帰って行き、私は姿が見えなくなるまで見送った。
昔、旦那様から聞いた。唇を寄せる所にはそれぞれ意味がる。確か、髪は
『思慕』
To Be Continued...