第一話 「始まりの日」
燃え上がる赤。それはとても熱く、全てを燃やす。白を基調としていた屋敷は、今では赤黒く染まっている。
「だ、んな様……。」
騒ぎを聞きつけた私が屋敷に戻ったときには、消火不可能といっても過言ではないほどに火の手が回っていた。でも私は足を止めることはしなかった。中庭の噴水で大量に水を浴びて屋敷の中へと飛び込んだ。
中に入って最初に目に映った光景は床に転がる数人のメイド達。旦那様達を非難させるために動いているはずの彼女達が何故、煙でも大量に吸ったのか……。慌てて一人を抱え起こすと彼女はすでに息を引き取っていた。彼女だけではない。目に映る者は皆、息を引き取っている。
「どうして…、っ。」
ずるり。
辺りを見渡していると私の手が何かで滑り、彼女の体が床に落ちた。その、“何か”も一緒に……。
それは赤く赤く、どろどろ、と。昔、旦那様に拾われる前によく目にした馴染みのモノ。
「!」
それを血であると認識した私は今までにない速さで屋敷内を駆ける。向かう先は旦那様の部屋。
向かう途中の廊下にはこの前まで共に旦那様に仕えてきた屋敷の者達。腕の立つ騎士達も床に伏せている。綺麗に整えていた床は血痕などで薄汚れ、花瓶が無残に割れ落ちている。
旦那様や屋敷の皆と過ごしたこの屋敷が今……。
やっとの思いで旦那様の部屋へ辿り着いた私はドク…ドク…、と息苦しさを感じる胸を押さえる。部屋からは物音は聞こえない。
キィ…
熱で歪んだ扉が嫌な音を立てる。歪んだせいか、中々開こうとしない扉を思い切り押し開けた。
「旦那様。」
そこには、自分のデスクに座る旦那様の姿。いつもと同じように優しい顔で……。
ただいつもと違うのは、体が血に塗れていること。
ただいつもと違うのは、あの温もりがないこと。
ただいつもと違うのは、もう息をなされていないこと。
涙が止まらなかった。溢れて溢れて、拭うことも忘れていた。血に汚れることも気にせず旦那様に体を寄り添わせた。初めて全身で感じる愛しい人。
「だ、んな、さま…っ。旦那、さ、旦那様…っ。」
初めて聞く自分の情けない声。息が詰まり声が出ない…それでも旦那様を呼び続けた。
次第に涙と悲しみは引いていき、疑問と怒りが込み上げてきた。旦那様は優しく、人に殺されるようなことはしていない。許さない、許さない。私から旦那様を奪った人間が…憎い。
「……。」
今の私は怒りに震え、復讐という言葉で頭がいっぱいだった。奴等に復讐を、こんなところで死ぬわけにはいかない。復讐をこの胸に誓った私は屋敷を出ようと踵を返す。
ふと、旦那様が何かを大事そうに持っていることに気付いた。
「…これは。」
それを見た私は目を開き、思わず落としそうになった。なんとか握りなおし、屋敷を飛び出した。
これは引き金、誰が引いたのか…。さあ、私の復讐劇の
『始まりの日』
To Be Continued...