第七話 修行
大会申し込み後、その場は解散となった。
てっきり今からやるのかと思ったが、よく考えたらここでは周りを巻き込んでしまう。時間もそれなりに遅い。
大会のルールは簡単なもので大前提として人を殺すのは禁止。勝利条件は相手が戦闘不能になるまたは棄権。それ以外は何でもありの危ない大会のようだ。
参加者は16人なので四回勝てば優勝となる。
場所は町の東にある大きな広場。時間は日が落ちてからと少しアバウトなものだ。
俺たちは申し込みが済んだので、その足で宿に帰り部屋で作戦会議をしていた。
「で、どうするんですか? 」
部屋に入り早々リナに声をかけられ、俺は頭に?マークを浮かべてしまう。
「どうするって何が? 」
「それはもちろん。これからどうするかですよ」
「これから? これからあの女の子を助けるんじゃないの?」
俺の言葉に、リナは盛大にため息をつく。
「そうですね。シンさんはこれからあの少女を助けます。そのあとの話をしてるんです」
それくらい考えてください。という感じにリナは困った顔をしている。
「助けた後はあの子の面倒を見るんでしょ」
「問題はそこではありません。私が言いたいのは、シンさんが力を使えば否応なく目立つというところです。
今のシンさんなら優勝するのは難しくないと思いますが、目立ちすぎるとこの町にいづらくなります」
「それなら、うまく加減すれば……」
俺は自分で提案しておきながら、言葉に詰まってしまう。
「それは無理です。シンさんが一番分かってると思いますけど、戦闘経験も録にないのに加減なんてできませんよ」
眠そうな目でリナは俺を見つめてくる。
確かに俺は自分の力が制御できない。いっきにレベルが上がったことで、身体能力は化け物並になっている。
それを加減するには経験が少なすぎる。
「そこで一つ提案なんですが、いっそこの町を出ませんか? 別にそこまで大切な知り合いがいるわけでもないんですから。
決めるのはシンさんですけど、あの子のためを思えば……人がたくさんいる町より、人がいないところで落ち着いて信頼関係を築くべきだと私は思います」
あとは自分で考えてください。そう言い残しリナはベットで横になってしまった。
物の数分で寝入ってしまったリナを尻目に、俺は自分の考えが甘かったことを反省した。
いつもそうだ。リナはどんなことがあっても俺の意志を尊重してくれる。それなのに俺はいつも適当でリナに苦労ばかり掛けている。
そういえば……昨日リナに聞かれたことを思い出した。
『シンさんはこの世界で、何をしたいですか』
リナにそう聞かれたとき俺は答えられなかった。明確な目的も夢もなかったから。
『別に目的があってもなくてもいいと思いますが、やっぱり生きていく以上あった方が楽しいです。
私はシンさんの夢を応援するのが夢です。シンさんも夢を見つけたらいつか話してください応援しますから』
そう言ってくれたリナに俺は結局何も伝えられなかった。
だから伝えたい。俺の夢をたいした夢じゃないけど、感謝の気持ちを込めて。
次の日の朝、俺はリナに昨日の提案に乗ることを伝えた。さしあたって必要な食料や道具はリナが日暮れまでに買っておいてくれるとのことだ。
そんな中俺は大会で必ず勝つために森で特訓することになった。勝つためというか、最低限人を殺さない特訓なんだけど。
森に来た俺はまずステータスの確認から始めた。
ステータス
早川進 17歳 男
レベル 30
HP2000/2000
MP1000/1000
体力200
筋力300
敏捷500
器用300
知力300
スキル 剣術3 糸術4 弓術3
生命力3 軽術3 水の派生魔法4
ユニークスキル 六番目の能力5 結晶武器生成5
ポイント 30
聞きたいことが満載だと思う。
まずユニークスキルというのは、その人物が生まれつき持った能力ことをいう。俺のユニークスキルは盗賊を倒した後、確認したら増えていた。
リナの話だと前の世界で目覚めかかていた力が、盗賊との一件で完全に目覚めたらしい。
六番目の能力これは簡単に説明すると、極限まで集中する能力。
俺の予想だとこの能力は、生まれつきではなく後天的なものだと思う。人は死にそうになると数秒を何倍にも感じることがある、そう聞いたことはないだろうか。
俺は二度死にそうになった。その時の感覚体が覚えこみ、それが戦闘の中で目覚めた。そんな感じだと思う。
そのほかの能力はそのうち分かると思う。
もう一つだけ説明するとしたら軽術だ。俺は今現在化け物並の身体能力を誇る。前に全力でジャンプしたら、足場が地割れを起こしていた。まだ足場が吹っ飛ぶまではいかないが、これだと周りにいる人が危ないと思い、取ったのが軽術なのだ。
このスキルは自分の体を軽くするスキルなので、これを使えば参事になることもない。
準備運動を済ませ全力で疾走する。速度は150キロ位のように感じる。
スピードを保ちつつ、森を走る。目の前に木が迫ると必要最低限の動きでよける。
今でこそ簡単にできているが、この動き最初は出来なかったので色んな所ににぶつかりまくっていた。
これができるようになったのは知力のからくりに気付いた時。知力は上げることによって演算能力が上がる。知力を上げて脳で情報処理を高速で行うことにより実現したのが今の動きというわけだ。
他にも六番目の能力を使うという方法もあったが、あれを使うと使った分と同じ時間シャレにならない頭痛を味わうことになるので没となった。
目の前に木が迫り、今度は軽術を使用して木を足場に飛び回る。はたから見ると忍者だが、そのスピードは忍者とは比較にならない位速い。
俺は、自分の体を動かし宙を駆ける事の爽快神を感じていた。日本にいたら一生味わえなかった物を感じていることに感謝しながら修行を続け、一匹の魔物を見つけたところで戦闘の修行にシフトした。
魔物の姿は熊にに似ている。熊の額に角をはやして背中に羽をはやしたようなイメージだ。
俺は木の上で静かに熊を観察しながらどう戦うか考える。いきなり上から遅い一撃で殺すのが一番安全かつ効率的なのだが、何点か問題もある。
一つ目は俺が熊を、躊躇せずに殺せるかという点。もし一撃で仕留められなかった場合危険が伴う。実はステータスにも落とし穴がある。
それは防御力を上げることができない点だ。HPを上げることで耐久力は上がるが、体がダイヤモンド製になるわけじゃない。爪で肉を裂かれれば切れし、心臓を傷つけられれば死ぬ可能性もある。
じゃあ、HPは何の役割があるのか? それはさっきも言った通り耐久力の有無だ。耐久力というのは簡単にいえば、死ぬまでの長さを表す。体を引き裂かれても死ぬまでの間に傷が治れば、生き残ることも可能だし、味方が助けてくれるのを待つこともできる。
そのため化け物並の身体能力がある今の俺でも、死が無くなるわけではない。
二つ目の問題点は修行にならないとという点。願わくばこいつで戦闘経験を積みたい。俺の下で吠えているこの熊で。
この二つの問題点を挙げたうえで俺は、真っ向から戦うことを決め、木の上から降りる。
俺の目の前には、狂暴そうな熊。まだ俺には気づいていないようなので、足元に落ちている木を力一杯投げる。投げた木は明後日の方向に飛んでいったが、熊はこちらに気付いた。
熊の眼は敵を射抜くような眼をしている。これから食事にありつけることを喜んでいるのかもしれない。
まあ、なにより油断してくれているのはありがたい。
心でそうつぶやいた俺は、足に力を込め、いっきに熊との間合いを詰める。
熊の間合いに入った俺は腰から剣を抜き、熊の腕を少し切る。
熊は俺が腕を切ったのが、見えなかったようで驚いた表情をしている。
熊は驚きを一瞬で消し俺に飛び掛かってきた。
振られる鋭い爪をはやした腕を紙一重でかわす。それを数回繰り返し、慣れてきたところでとどめを刺しのかかる。
爪を紙一重でかわし、右手に持った剣を首に向かって振る。剣は狙い通り首に吸い込まれ、熊は胴体から頭が外れる。これほどうまくいったのは、剣術スキルのおかげだ。
頭を失った熊の胴体はしばらく立ち付くしたあと地面に倒れた。
熊の死体を見下ろす俺ははたから見れば、死神のようだったかもしれない。
何も感じなかった。俺は熊を殺しても何も感じることがなかった。もともと俺は命のもろさを誰よりも分かっている。家族の死と引き換えに。
その経験が前回の盗賊事件が原因となり、作用した結果がこれかもしれない。
生物を何も感じず殺せる自分に嫌悪しながら、熊をアイテムボックスにしまう。その時の俺は人生で一番むなしい顔をしていたかもしれない。
熊を倒した後、似たような魔物を何匹か倒したところで、日が暮れてきたのでギルドで魔物を換金して宿に戻った。