第六話 祭りの闇
魔法と剣の世界、ギルボア。この世界は四つの大陸で出来ている。
ルーラ大陸、人間族が多く存在し、現在の王は人間族である。
ムースラ大陸、魔族が多く存在し、王は魔王と呼ばれている。
コルト大陸、獣人族が多く存在し、王の座には獣王が付いている。
モア大陸、色んな種族が混じり合い生活している。王の座には、少数しかいない龍族の中でも、優秀な龍神と呼ばれているものが、座っている。
この四つの大陸は四葉のクローバーのような形で存在している。
これは噂だが、この四つの大陸の他にも、まだ知られていない大陸があるとかないとか。
死体がない。リナの死体が影も形もなく消えている。
悪い冗談だろ。リナが死んだことだけでも意味不なのに、そのうえ死体も消えるなんて。
「何で暗い顔してるんですか」
後ろからリナの声がした。
恐らく幻聴だろう。俺はリナが剣に刺されたところを見たのだから。
「無視は酷いんじゃないですか」
勢いよく俺は振り返った。そこには傷一つないリナが立っている。
「な、なんで……」
かすれた声ではあったが、なんとか声を出せた。
「あの時の事でしたら、演技ですよ。あまりにもシンさんがこの世界の厳しさを分かってっていないようだったので、一芝居打たせてもらいました。」
あれが芝居? でもあの時俺は確かに見た。リナの体から血が溢れ倒れるところを。
「どういうことだよ演技って!!」
俺は自然と声を張り上げていた。
リナの無事が確認できた事はうれしいが、俺は自分の心配した気持ちを踏みにじられた気がした。
「なんでそんなに怒っているんですか!? 私はただこの世界の厳しさを分かってもらおうとして……」
「それなら、もっとほかの方法でもよかったじゃないか。俺は……リナが死んだと思って……」
涙が出てきた。俺は色んな気持ちが混じり合い何を言えばいいのか分からなくなった。
「すみません……私が間違っていたかもしれません。シンさんの気持ちを考慮しませんでした……」
俺の気持ちが通じたのか、リナも泣いていた。
「リナ……」
「はい、なんですか……」
「俺は、このままリナと旅をするのは間違っていると思う」
「どういう……ことですか」
リナは不安そうな顔をしながらも、真剣な顔をして俺の次の言葉を待っている。
俺は何て切り出せばいいのか分からなかった。俺はリナの人生をつぶしたくない。まして罪滅ぼしなんてもっと嫌だ。
でもリナと離れるのはもっと嫌なんだ。まだほんの数日の付き合いだけど俺はリナの事を大切に思っている。
「俺はリナと一緒にいたい。この気持ちが、家族としてなのか、女の子としてなのかは、まだ分からないけど俺はリナが大切なんだ。
だからこそリナに、罪滅ぼしなんて理由でそばにいてほしくない」
「私もよくわかりません。最初は確かに罪滅ぼしのつもりだったんですけど、今はそんなまどろっこしいこと考えてません。
ただ単純にシンさんと一緒にいるのが、楽しいんです。だから……もう少しだけシンさんと一緒にいさせてくれませんか」
リナは最初こそ困惑していたものの、最後には本音を応えてくれた。
うれしかった。いつも何考えているか分からないリナの本心が聞けて。
「うん。こっちから話しを振っておいてひどい話かもしれないけど、俺もリナと一緒にいたいから……お願いしてもいいかな。」
「はい。こちらこそ改めてよろしくおねがいします」
リナは笑った。
俺はその太陽のような笑顔を、今までで一番綺麗だと思った。
森の木々が俺たちを祝福してるかのようにざわめく。
たぶんこの時初めて俺たちは本当の仲間になったんだと思った。
今回の落ちというかネタ晴らし。というより後日談。
俺は後日どうやって俺の目を誤魔化したか聞いた。
リナは盗賊に切られたとき、演技ではなく素で倒れたらしい痛みで。もっとも切られたのはわざとだ。
そのあと生命力5の効果で、一瞬にして傷は治ったらしい。そのあと俺が戦闘に集中してるときに起き上がり、隠れたんだそうだ。
全部計算通りと言っていた。
盗賊に遭遇してから一瞬でその作戦を考えたリナが、俺は少し怖かった。
盗賊事件から1週間が立ち。その間に俺たちはDランクになっていた。あれから俺たちは一度も町の外に出ていない。雑用をしまくりランクを二つ上げたのだ。
なぜかと言えば、Dランクにならないとまともな依頼がない。薬草採取などの依頼はあるが、報酬がいいだけで、数をこなすには時間がかかりすぎるからだ。
逆に雑用はあまり報酬が良くないが、その分依頼人を満足させれば早く終わるので俺たちの身体能力で雑用依頼をこなしまくった。
今では下町のスーパーマンと言われているらしい。これはリナ情報だ。そんな名前が付いたぐらいなので、お金は少しの間心配しなくていいくらい溜まった。
そして今日から3日間。このルースで大きな祭りが開かれる。その名も勇者祭。今笑った人もいるだろうが、この世界は勇者に救われたという歴史があるそうだ。
町は人であふれていて、宿なんかは全部埋まっている。俺たちはずっと幸福亭なので、問題はなかったが。
「早くしてください」
「ああ。わるいわるい」
この祭りをリナは楽しみにしてたらしく、今も意気揚々と町にくり出そうとしている。
正直俺を巻き込むのはやめていただきたい。俺は人混みが苦手なので。
その話をリナにしたところ。それはつまり私に一人で祭りに行けってことですか? 。年相応な悲しそうな顔でそう言われて、断れる人間がいるのだろうか。
今はあれが演技だったのではないかと思っているが。
「よし。ぞれじゃあ祭りに出発です」
リナは宿を出て人ごみに飛び込んでいく。そんなリナを俺は必死に追いかける。
「なんか、キャラずれてるぞ」
「テンションが高いだけです。そういう事を言っていると、デリカシーがない人に見えますよ」
「嘘をつけ。俺ほど気を使える男はいない!」
俺は堂々とそう吠える。
「その自身がどこから来るのか、見てみたいですね」
リナはさも興味津々といった顔をしている。冗談ではなく結構真面目な顔で。
俺もそこまで言われると、どこから自身が来たか気になる。
「そうだな。俺も見てみたい」
「なに自分で言ったことを否定してるんですか。馬鹿ですかシンさんは」
心から愉快そうだ。
俺もこんなバカなやり取りが、ずっと続けばいいと思っている。
「じゃあ、何からいくか」
周りは見渡すと、色んな匂いがした。肉のような濃い匂いや、フルーツのような甘い匂い。それこそ色んなものがあることが分かる。
食べ物の他にも射的に似たもの。輪投げに似たもの。くじ引きもどき。だんだん似ても似つかぬものになってくる。
射的は魔道具を使い射的をしているようだ。的は屋台のおっさんがやるみたいで、おっさんが逃げ惑うのは意外に爽快だ。
やってみたくなる。
輪投げは輪を投げるのではなく、参加者が輪から逃げている。くじ引きなんて物だけじゃなく人も景品だ。人?
「なあ、あれ……」
「あれですか……あれは奴隷を景品にしているんですよ」
リナも見ていて不快なのか、顔をそらし悲しそうな眼ををしている。
奴隷は首に首輪があり、ボロボロの薄い服を着て寒さに震えている。
「なんで皆、あれを見ても平気なんだよ」
怒りがこみあげてくる。俺はくじ引きをやっている奴が許せなくて、飛び出そうとするとリナに止められる。
「だめです、シンさん。抑えてください。
この世界では奴隷は当たり前のものです。いまシンさんが、何かしても捕まるのは私たちです」
理解はできるが、納得はできない。言ってることは分かる。
でも俺の日本人としての価値観と違いすぎて、怒りは収まりそうにない。
「今は祭りを楽しみませんか? シンさんが心を痛めてもしょうがないです。それに奴隷の中には悪いことをして奴隷になった人もいます」
「そうだな……とりあえず今は忘れるよ。せっかくの祭りだし」
俺は無理やり頭の隅に追いやる。今はリナが楽しみにしてた祭りの最中なんだから、楽しまなきゃ損だ。そう自分に言い聞かせて我慢する。
「それでは、まずはあれを食べましょう」
リナの指の先にあるのは、焼き鳥みたいな食べ物の出店みたいだ。
「おばさん。焼き鳥四本ください」
「はいよ。銅貨四枚ね」
俺はおばさんに銅貨を渡し、焼き鳥もどきをもらう。
「二本ずつでいいよな」
焼き鳥もどきは見た目焼き鳥だが、色が赤い。あからさまに辛そうだ。
焼き鳥もどきに二人とも同じタイミングでかぶりつく。
「「ぶふっーーー」」
リナと俺は同時に吹き出す。
甘い。まるでフルーツのように。見ためで辛いと判断していたため、あまりの差に吹き出さずにはいられなかった。
「あははははー。それを食べると皆同じ反応をするね」
どうやらおばさんに一杯食わされたようだ。
悔しくておばさんを睨むが、余計にツボに入ったようでまた笑い出した。
俺たちは悔しいが、おばさんに負けを認め、その場を去った。
そのあとも愉快なことが続き、お祭り初日は終盤に入った。
俺たちはだいぶ疲れながらも町の中心の方を歩いている。
『今回のメインイベントを始めるぜーーーー』
そんな声が聞こえそちらを見ると、舞台がよういされている。周りには椅子が置かれていてほぼ席は埋まっている。
俺たちは何か分からずに空いてるところに座った。
「これなんだ」
「わかりません」
小声でリナに聞くが分からない様子だ。
仕方なく周りを観察すると、お金持ちっぽい奴が多いい事に気が付く。おそらく何かのオークションだろうとあたりをつけ、舞台を見るとちょうど司会の奴が始まりをつげた。
出てきたのは、物ではなく人だった。
すぐに出てきた人が奴隷だということに気が付く。今回はさっきほど動揺しない。よく見ると過半数が、悪い目つきをしてることが分かったからだ。
恐らく悪い目つきの奴らは犯罪者だろう。リナもあまり気にしてないようだ。
オークションが始まると一斉に争いが始まった。
俺が一番とばかりに女の奴隷を買おうとする貴族や、欲しくもないのに体裁を気にして買う貴族。
俺はこの世界の闇を見てる気がした。人間の心の汚い部分も含め。
オークションも終わりに近づくにつれ、いい奴隷が出てくる。
かわいい子も多いいのでつい見入っていると。
「シンさんは、ああいう人が好みなんですね」
俺は寒気が走りリナを見ると、黒い笑顔を浮かべ笑っているリナがいた。
「違うので、やめてください」
ホラーのようなその光景でとっさに敬語で謝ってしまう。
「そうですか。それはよかった」
何が良かったのだろう。全然よくない様に見える。その証拠に顔がいつまで立ってもこわい。
「最後みたいですよ」
リナの言葉に反応して舞台を見る。そこには少女が立っていた。
少女は髪も目も紫色の美少女だ。司会の説明を聞く限り、少女に罪はないが親が罪を犯たらしい。
少女の体は震え、目はうつろだ。この世に絶望したかのように。
俺は少女を見て俺は助けたいと思ってしまった。汚い貴族には渡したくない。でも俺が助けた後,
育てることができるかといえばそれは無理だ。
あの年齢で旅をするのはきついと思う。
「助けたいんですか」
俺がリナの方を見ると、リナはまっすぐな目で俺を見ていた。覚悟を問うかのように。
「あの子なら旅についてこれます。周りは気付いててないみたいですが、あの子は魔族です」
たしか魔族は魔物が、一定以上の魔力を身に着けた時に進化する上位の存在。
「え? でもあまり覇気がないけど」
「あの子は恐らくですが、魔族同士の子供です。本人は力に気が付いてないんです」
魔族同士の子供。それなら旅は平気だと思う。あとは俺の気持ち次第ということか。
「俺は助けたい。リナに迷惑をかけるかもしれないけど」
俺の気持ちは決まっていた。確かに覚悟もないまま助けるのは無責任だと思う。だから俺は助けたら全力であの少女を守る。
「わかりました。シンさんに覚悟があるなら私はいくらでも協力します。それに都合のいいことに」
リナに、ほらあそこを見てくださいと言われ、見てみると何かに受付をしてるところだった。
「あの子は、お金ではなくトーナメント優勝者に贈られるみたいです」
「まあ貴族が雇った強い人たちが出るみたいですから、シンさんでもきついと思いますけど」
リナは馬鹿にした顔でそうつづける。
「よし、行って来る。そういえばリナには隠してたけど、俺盗賊倒して相当レベル上がったんだよね」
リナは驚いた顔をしている。大方俺が盗賊を倒したことを忘れていた。そんなところだろう。
「それはずるいです。ちなみにどれくらいですか」
「今30レベル」
「手加減してあげてくださいね」
リナも気づいたんだろう。俺が30レベルになればだれにも負けないことに。
そんな感じで俺は申し込みを済ませた。