第四話 未来の最強少年
結局戦闘シーンまで行きませんでした。ご容赦ください。
「それでは、ギルドの説明に移ります」
「「はい。よろしくお願いします」」
偶然二人に声が重なる。苦笑気味に隣を見ると、リナと目が合う。リナは少し恥ずかしそうにしていた。そんな姿を見て俺もなんだか恥ずかしくなってきて、目をそらす。
「冒険者ギルドとは……」
空気を読んだかのような抜群のタイミングでお姉さんの説明が始まった。
お姉さんの話を要約するとこうだ。
1、冒険者ギルドでは冒険者のランクにあった依頼を紹介している。
2、ランクとは冒険者の実力を表したもので、A、B,C,D,E,Fの順になっている。
3、ランクはギルドで定められている回数分依頼を成功させれば一つづつ上がっていく。
4、依頼は自分のランクの上下一つまでなら受けることができる。
5、依頼を受けるときはボードの依頼書を取り受付に持っていくことで受注出来る。
6、依頼の際にはギルドカードの提示が求められる。
7、依頼を失敗すると、違約金として報酬の2割を払うことが義務付けられている。
8、報酬は受付に討伐を証明するための部位を持っていくことで支払われる。またその際に他の部位の買取も行っっている。
「説明は以上になります。何か質問はありますか」
お姉さんの話が終わり質問を求められるが、特に気になることはなかった。
「いえ、だいじょうぶです」
「わかりました。ではこれで依頼を受けることができますが、早速受けますか」
お姉さんは笑顔でそう言う。
「今日はやめておきます。何しろ二人とも装備も何もしてないですから」
俺がそう言うと今頃二人とも装備どころか何も待っていないことの気が付き、呆れた顔をしている
俺はお姉さんの顔を見て、自分で言っておいてなんだが、何の装備もしてないことを改めて認識した。しかもあまり考えていなかったけど、俺はもともとただの高校生だ。そんな俺がどうやって魔物を倒すというのだ。
リナにすすめられて勢いで登録してしまったけど、リナはどうやって魔物を倒すつもりなんだろう。何か考えがあるのかもしれない。そう思いあとで聞くことに決める。
「それよりどこか手頃な宿を教えてもらえますか」
「宿ならここから道沿いに北へ5分ほど歩いた所に、幸福亭という宿があります。確か料理がおいしいと評判だったと思います」
なんか胡散臭い名前の宿だな。本当に期待していいのか怪しいものだ。そんなことを考えていると、リナが話しかけてくる。
「早くここから出ませんか」
リナは不機嫌そうな顔をしている。
その言葉でいまだ周りに、ジロジロ見られていることを思い出す。と同時にリナがここに来てからあまりしゃべらなかったことも思い出し、ばつが悪くなり短い返事をする。
「ああ。うん。そうしよう」
リナに返事を返したあとに、お姉さんにお礼を言うのも忘れない。
「ありがとうございました」
「いえ、仕事ですか」
さすがプロだ。とか考えながら、ギルドの出口に急ぐ。すると突然目の前が暗くなり、顔に衝撃が走る。
「どこ見てんだクソガキ!!」
突然怒鳴られ顔を上げると、目の前に大柄な男が立っていた。男は40くらいのおっさんで戦士みたいな装備をしている。顔は正直に言っていいのか分からないが、あえてたとえるなら豚だ。人間の体に豚の顔がのっているかのよう顔をしている。しかも臭い。結構長い間体を洗っていないのか、ものすごい臭いがする。依頼をしていれば体を洗う暇などないかもしれないが、もう少しエチケットというものに気を使ってほしい。
リナなど無言だが口で息をしているのが分かる。
「すいません」
俺は騒ぎを起こすのが嫌なので、すぐに謝る。
「謝ってすむと思ってんのか? まあそのねーちゃんを渡すなら考えてやらなくもないがな」
おっさんはニヒルな笑みをリナに向ける。
「すみません。私臭い人は嫌いなので」
俺がどうするか考えていると、リナは情け容赦なしにそう言い放った。嫌悪感丸出しの顔で。さすがにおっさんもこの言葉には傷ついたようで、笑顔のまま顔が痙攣している。
「シンさん、今のうちに逃げましょう」
小声で言われる。さん付けで。
俺は言葉の意味よりさん付けで名前を呼ばれたことが気になり、少し呆けてしまう。
「早くしてください」
もう一度声をかけられた事で我に返り、急いでギルドを出た。
ギルドを出た俺たちはおっさんが追ってくるかもしれないので、早歩きで幸福亭とかいう胡散臭い名前の宿に向かっっていた。
歩きながら俺はギルドを出たときのことを聞いた。
「そういえば、さっき何でさん付けで名前呼んだの? 」
リナは一瞬何のことか分からないといった顔をしていたが、すぐに思い出したようだ。
「実は私、まだ生まれてから15年なんです。神界では神の威厳を出すためにえらそうに話していましたが、実はけっこう違和感があって嫌だったんです。こっちに来てからはできるだけ砕けた話し方になるようにしたんですが、やっぱり敬語があってるみたいです。」
リナはばつが悪そうにうつむきながらそう言う。
「え? 15歳、神様なのに? 」
俺は少し馬鹿にした顔する。
「どういう意味ですか」
「な、な、なんでもないです。はい」
全力で黒い笑顔を向けられた俺は全身に寒気が走り、慌てて誤魔化すしかできない。
「そうですか。次に馬鹿にしたら容赦しませんから。肝に銘じておいてください」
内容が物騒なのに話し方は敬語って反則だろ。普通に切れられるより断然怖い。正直リナにはこれからも逆らえそうにない。そんなことを考えながら歩いていると宿に着いた。
「今日泊まりたいんですが部屋は空いてますか」
宿に入ると早速声をかける。受付の人は女将さんのようだ。見た目は普通のおばさんだが、何とも言ええない迫力がある。
「部屋なら空いてるよ。部屋は二人部屋でいいね。それなら銀貨3枚にまけてあげるよ」
「え? 」
女将さんにいっきにまくしたてられ俺は狼狽してしまう。
二人部屋ということはリナと同じ部屋ということだ。いくらなんでもそれは無理だろ。この女将さんは俺たち二人が恋人同士とかに見えたかもしれないけど、全然違うわけだし。っていうかその前に俺お金持ってないし。……なんか俺こっちに来てからすごい抜けてる。
するといきなり後ろから手が出てくる。
「はい。これ五日分の宿代です」
パニック状態の俺をよそに後ろから物騒な言葉が聞こえた。俺が慌てて後ろを見るとリナが、してやったりという顔をしてにやけている。
「はい。これ鍵。部屋は二階の一番右の部屋だから間違えないようにね。食事はそっちにある扉が酒場につながっているから、食べたい時に言えばいつでも作ってもらえるよ」
「ありがとうございます」
俺はリナに物申そうとするが、女将さんとの話が終ると駆け足で部屋に向かってしまった。
一人取り残された俺は何がなんだか訳が分からなかったので、とりあえずさっき頭に浮かんだお金の情報を整理する。
白銀貨1枚で金貨10枚
金貨 1枚で銀貨10枚
銀貨 1枚で大銅貨10枚
大銅貨1枚で銅貨10枚らしい
ちなみに日本円換算で
白銀貨-100万円
金貨 -10万円
銀貨 -1万円
大銅貨-1000円
銅貨 -100円となる
現実逃避を終え部屋に入るとリナが着替えていた。下着姿だ……。
部屋には二人の人物が正座していた。どちらか一方が怒っていて片方が正座ならわかるが、二人正座している。しかも二人とも怒ったり反省したりと、ころころ表情が変わっている。
俺が部屋を覗いてしまい、リナは激怒した。激怒と言っても凍えるような無表情で、静かに怒っている感じだが。俺は正座させられ、説教を受けている最中という訳だ。それがなぜリナも正座することになったかというと、俺が怒り終わったリナにいろいろな疑問をぶつけ始めたら、俺も怒りだしてしまいリナを正座させたという訳だ。
ちなみに最初の疑問はなぜ同じ部屋にしたのかだった。それに対してリナの答えは『なんとなく、面白そうだったので、つい』だ。俺はそこで少し切れかけたが、何とか持ち直した。
「今回は私にも悪い所があったみたいなので、おあいこということにしませんか」
そう言うのはリナだ
「うん。そうしてくれると、ありがたいかな」
俺はそう言い苦笑いを浮かべる。
「それで、色々と説明してほしいんだけど。アイテムボックスの事とかポイントの事とか」
そう、俺が切れた一番の原因は、この二つをもったいぶって話さなかったからだ。ポイントに関してはギルドに着く前に教えてくれればよかったし、アイテムボックスはこの世界に着いてすぐ教えてほしかった。どうやってアイテムボックスの事を知ったかというと、簡単だ俺もリナも手ぶらだったはずなのに、どこに着替えを持っていたのか問い詰めたら渋々白状した。
「そうですね。まずはポイントというのが何か説明します。頭の中でステータスと唱えてください」
俺は言われた通りに頭の中でつぶやく。
ステータス
早川進 17歳 男
レベル 1
HP100/100 自分の命の残量
MP100/100 自分の魔力の量
体力10 自分が活動に必要なエネルギーの量
筋力10 自分の力を表したもの
敏捷10 自分の体を動かす速さを表したもの
器用10 自分の体を動かす精密さを表したもの
知力10 魔法の出力を表したもの
スキル なし
ポイント 100
「うわっ! なにこれ」
いきなり目の前に妙なものが現れたので、思わず声を上げてしまう。でも少し落ち着けば、それがゲームとかでよく見るステータスだということに気が付いた。しかもご丁寧に説明まで書いてある。
「それは、ステータスといってこの世界では一般的に知られているものです。この世界のすべての人間はこのステータスを使うことができます。そのステータスの中に書いてあるポイントというのが、シンさんの知りたがっていたものです。そのポイントはレベルが上がった時に決まった量増え、そのポイントを使い身体能力の向上や、スキルと言った能力を取得することができます」
リナは真剣な口調でそう説明する。
「まだレベルが1なのにポイントがあるんだけど」
「誰でも最初は自分の昇格値の分だけポイントがあるんです。」
そこでおかしなことに気が付いた。リナはギルドでポイントは5と書いておけばいいと言っていたが、もしかしたらそれがこの世界の平均の昇格値だからではないだろうか。実際受付のお姉さんは紙を見たはずだが、おかしな反応をしなかった。だとするとこの100というポイントは何なのだろう。平均が5というだけで、ランダムなのかもしれない。
そんなことを考えているとリナの説明が再開され思考を中断させられる。
「それで、アイテムボックスなんですが、これは私たちしか使えませんので気を付けてください。神界からこちらに来るときに、勝手に追加したものですから。このアイテムボックスは中の時が止まっていて入れる物の大きさなどは問わずいくらでも入ります。もちろん生物意外ですけど。使い方は簡単で入れるときは入れたいものに触れて収納と念じ、出したい時は出したいものを思い浮かべるだけです。入れたものを忘れてしまっても平気でステータスの画面に中に入っているものを表示ずる機能を着けましたので」
「何個か質問してもいい? 」
俺はリナに聞きたいことがある。ポイントの件で。
「いいですよ」
「昇格値っていうのは個人差があるものなの」
「あります。基本的な昇格値は5で、この世界英雄と呼ばれた人は15です」
リナの顔は得意げにそう言う。
「そうなんだ……」
これで理解した。俺が異常なんだ。俺は恐らく強くなれる誰よりも。この力があればもう大切な人を失わなくて済む。その事実は素直にうれしかった。まあ自分の異常さが少し気持ち悪いけど。
「ちなみにリナのステータスってどんな感じ」
俺は自分のステータスを見て、リナのがどんなのかも気になった。
「いいですよ。こんな感じです。ああそうでした。一応言っておきますが、仲のいい信用できる人以外にはステータスは見せないでください。危険ですから。」
そう言いリナが俺の隣に座りステータスを見せてくる。俺は絶世の美女が近くにいるという状況と、ほのかに香るいい匂いのせいで理性が飛びそうになるがステータスに意識を向けることで我慢した。
ステータス
リナ・ハープ 15歳 女
レベル 1
HP1000/1000
MP100000000/100000000
体力100
筋力100
敏捷100
器用100
知力100000000
スキル 生命力5 想像魔法5 不老
ポイント 20
はあ? なんだこれ俺のステータスと比べれば一目瞭然だが、あほみたいなに能力が高い。MPや知力なんかもうバグってるみたいだし。そのうえ普通の人間とか言いながら不老だし。
「なにこれ? 」
俺は口から自然とこの言葉が漏れた。
「これですか。これなら神界にいるときに、少しいじっただけですよ」
てへっと笑う
「これで、少し……リナって神界では優秀なイメージがあったんだけど? 」
「失礼ですね。これでも仕事はしっかりしました。その証拠に進さんのステータスは全くいじってません」
リナはいかにも侵害といった顔でふてくされている。
「間違ってたら悪いんだけどリナは罪滅ぼしに来るって言ってたよね? それなら普通俺のステータスをいじらない? 」
「自分のステータスをいじるのも大変だったのに、人のなんてやってられませんよ」
リナは小声でそうつぶやく。本人は自分が心の声を口に出していると気付いてないのだろう。
俺はこいつと行動するのが不安だ。見方によればしっかりしているとも取れるが、とてもそうは見えない。まるで子供だ。これなら15歳でもうなずける。
「そうだ。シンさんも見せてください」
覗き込まれた。見せるのやめようと思ってたのに。
「前言撤回です。さっき信用できる人以外に見せると危険と言いましたが、これなら逆に逃げます。それと私の事を言う権利ありません。シンさんも相当非常識です。確かにポイントはランダムですが、さすがにこれはないです」
リナは俺の事を今が好機とばかりにぼろくそ言う。
「それに実はこの世界レベルがないので、いつか私も抜かされます。不老になればですが」
まあシンさんなら高ポイント必要な不老のスキルも簡単に取れますけどね。そう言ってリナは笑った。
俺は自分の非常識さと、リナの非常識さを考え笑ってしまった。リナも一緒に笑っている。
「まあ、何はともあれ」
と俺がが言い。
「最強コンビ結成ですね」
リナがそうつづけた。