第二話 異世界
神様のセリフが読みにくいかもしれません。予め了承ください
どれくらい泣いてたんだろう。結構長い時間泣いていた。途中狂いそうになった俺を、神様が抱きしめてくれた気がする。
「もう平気なんですか」
神様が微笑みながら、そう聞いてくる。
「はい。おかげさまでだいぶ落ち着きました」
「そうですか。それはよかったです」
「それで、いくつか気になったことがあったので、聞いてもいいですか」
俺はいつまでも落ち込んでいるわけにもいかないので、気になることを聞くことにした。
「いいですよ私に分かる範囲でなら」
私に分かる範囲って、神様に分からない事なんてあるのか。そんなツッコミを心の中でする。
「まず、神様が言っていた悪魔というのは、悪魔みたいな人間というわけではなく、本物の悪魔ということですか」
「はい。悪魔のような人間ではなく、あなた方からすると空想上の生き物ということになります」
「そうすると、おかしくないですか。僕が殺したのが悪魔だとしたら、そんなものを人間の僕が簡単に殺せるでしょうか」
「それは……」
神様は俺の質問に対して、言葉が詰まる。神様は何やら悲しい顔のような複雑な表情を浮かべた後、覚悟を決めたような顔をした。
「……あなたが悪魔を倒せたのは私の力で、悪魔の力を少しの間だけ抑え込んだからです。その間にあなたはバットで悪魔を殺しました」
つまり神様は俺がバットを振るう直前で悪魔の力を抑えたそういうことか。俺はてっきり神様が俺たちの世界に干渉するのはいけないパターンだと思っていたが、今の話を聞く限りではそんなことないみたいだ。そこで1つの疑問が生まれる。でもこの質問の答え次第で俺は神様を恨むことになるかもしれない。
「僕はこれから酷い質問をするかもしれません」
「はい。覚悟はしています」
神様は覚悟を決めた顔でそう言う。
神様のその顔は最初から覚悟が決まっているという顔だ。どうやら神様は最初からこうなることを知っていたみたいだ。
「神様はさっき悪魔の力を封じたと言いましたが、なんで僕が悪魔を殺そうとした時だったんですか。家族が襲われそうな時に封じてくれれば、僕の家族は死なないで済んだかもしれないのに。これは僕の勝手な想像なので、間違っていたら僕は何をされても文句は言いません。」
神様は俺の話の最中ずっと黙り込み顔を伏せている。俺はなんとなくそれが俺の想像があっているからだと思っった。
「神様は僕の家族なんて本当はどうでもよかった。そんなことよりも悪魔を殺させることを優先した。だってそうですよね、もしも家族が襲われるときに悪魔の力を封じたとしても、僕の家族が助かるかもしれないだけで、悪魔はまた同じことを繰り返す。それよりも悪魔を僕に殺させる方がいいと思ったんじゃないですか」
怒りの感情をぶつけ終えた俺は神様の顔を見る。その顔は俺の予想とは違い驚愕の色に染まっていた。
「それは違います。確かに私はあなたに謝らなければいけないことがありますが、それだけは違います」
俺は神様の言ったことが理解できない。いや理解できないわけじゃない。ただ俺は気づいてしまったのだ。自分がよく考えもせず、神様に家族が死んだことの八つ当たりをしていたことに。少し考えればこの優しい神様が、そんなことをするはずがないと気付けたずなのにだ。
俺と神様は互いに気まずくなり、部屋の空気がどんよりと重くなる。先に口を開いたのは神様だった。
「……神界では神があなた方の世界に干渉することが、禁止されているんです。神がルールを破ると神の座から永久追放になります」
そこで神様は緊張をほぐすためか一呼吸置き、再び話し出す。
「私は悪魔が逃げ出し人間界で暴れていることを知り、人間界に手を出すことの許可を取ろうとしました。ですが許可はでませんでした。私以外の神はたかが悪魔程度で、自分たちが定めたルールを破るべきではないと言ったんです。そして許可がでないまま、あの事件の夜になりました。私はあなたの家族が殺されるのを、眺めてることしかできませんでした。私は神の座から追放されるのが怖かったんです。それでも私はあなたの家族が殺されてるのを見て、なぜこんな思いをしてまで神の座を守ろうとしていたのか分からなくなりました。そんな私の前でまた事件が起きました。コンビニから帰ってきたあなたが悪魔にバットで殴りかかろうとしていたんです。バットといっても人間では悪魔殺すことはできないので、逆にバットで殴られた悪魔が怒りあなたが殺されるのは目に見えてました。私はこれ以上人が傷つくのを見るくらいなら、神の座なんてどうでもいいと思いあのタイミングで悪魔の能力を封じました」
全てを話し終えた神様はまた黙り込み、再び重い空気が漂う。
俺は正直どうしたらいいのか分からなかった。今の話を聞く限りでは確かに神様にも悪い所はあるが、命を一時的とはいえ助けられた俺が神様を恨むのは筋違いだと思う。
「すみません……。何も知らずに勝手な憶測でものを言ってしまって。たぶん僕は家族が死んだことの八つ当たりがしたかっただけなんですよ。ほんと最低ですね僕は命の恩人に、あんなことを言うなんて……」
「いえ、謝らないでください。私はあなたの家族を殺したようなものなんですから。恨まれることがあっても、謝られるなんて」
神様は悲しい顔でそう言い、顔を伏せる。
「神様は僕を助けたことで罰を受けたんですか」
「いえ、罰はこれからうけます。実を言うとこれが最後の仕事なんです」
最後の仕事だったんだ。俺を助けたばっかりに。それなのに無理してあんなに笑顔でいたのか、神様だって悲しいはずなのに。俺は自分がもの凄く弱い人間だということに気がつき、少しは大人にならなければと思い神様に話しかける」
「一つ提案なんですが。お互いに今回の事は水に流しませんか」
「いいんですか、私はあなたの家族を……」
「僕だって神様に酷いことを言ってしまいましたから。それに僕の家族の事は神様じゃなくて、悪魔が悪いんですよ。このままの雰囲気というのも嫌ですから」
そうだ悪いのはこの神様ではなく、悪魔と許可を出さなかった神だけだ。少なくともこの神様は僕の家族のためにこんなにも心を痛めてくれてる。
「すみません。やっぱり水に流すのは無理です。私がしたことはそう簡単に許されてはいけない事ですから」
神様はなぜか決意のこもった顔でそう言う。俺には何でそんな顔をしているのかさっぱり分からない。
「そうですか。それじゃあ今この場では、忘れるということで」
「そうですね。まだあなたにしなくてはいけない説明も残ってますしね」
今度の提案は受け入れてもらえたようで、神様は俺に向かってはにかむ。ほんの少しの間だったのに、なんだかすごく長い間笑顔を見てなかった気がする。
「説明と言っても実はあなたに選ぶ権利はないんです。あなたは時間が来たら強制的に異世界に飛ばされます」
神様は説明に入った途端真面目な顔になり、そう説明した。
いきなり過ぎて俺は少し驚く。それもそのはずで俺は異世界に行くかは俺が決めると思っていた。人間界で自殺してしまった俺が生き返れると思ってはいなかったが、元の世界で記憶を消され転生させられるという選択肢ぐらいあると思ってた。
「どういうことですか」
「実はあなたが悪魔を倒したことは神界中に広まっているんです。そのため神はあなたが善行を行ったとして、褒美を与えなくてはいけないんです」
「ご褒美ですか。でもなんで神様は罰を受けるのに、僕だけご褒美なんですか。僕が悪魔を殺せたのは神様のおかげじゃないですか」
「それは簡単なことです。神はあなたに褒美なんて上げたくないんです。それでも神界に情報が広まってしまったので、あなたに褒美を与えないと面倒なので仕方なくです」
そういうことか。だからこっちの都合なんてお構いなしなのか。それにしても今までの話を聞く限りでは、神様が悪い奴に聞こえるが大丈夫だろうか世界は。
「そうなんですか……。それで時間はあとどれくらいあるんですか」
「3分です」
「みじかっ。なんでそれしかないんですか」
「それはあなたが泣いている時間が長かったからです。かれこれ5時間ぐらい泣いてました」
うわぁ。5時間泣いてたって我ながら恥ずかしすぎる。それにしても神様が5時間を強調してた気がするけど、気のせいだと思いたい。
「それでは手早くせつめいします。あなたが行くのは、ギルボアという世界です。そこには魔物が存在し、人々は魔法などを使って対抗しています。俗にいう剣と魔法の世界です。説明はこれで終わりですが、言語や読み書きができないと困ると思うので、最低限の知識と一緒に私が直接習得させます。」
神様がそう言い俺に向かって腕を振ると、頭に情報が流れ込んでくる。どうやら相当時間がないらしい。まあそれもそうか3分じゃカップラーメンができる時間だ。
「あのー、まだ僕は行くと言ってないんですが」
「拒否権なんてありません」
神様が久しぶりに黒い笑顔をする。
「は、はい」
とっさに返事をしてしまう。神様恐るべし。なんかだんだん僕の扱いが雑になってる気がする。なぜだろう。そんなことを考えていると、神様がのんきにカウントを始める。
「10、9,8,7,6,5」
なんかやけにカウントする声がうれしそうだ。
「なんで、うれし……」
「4,3,2、」
神様が俺の声に自分の声をかぶせる。
「1,0」
ゼロを聞いた途端に意識が遠のいていく。俺は遠のいていく意識の中で、神様にお別れを言ってないことに気が付いたが、時すでに遅しで俺は意識を失った。
だんだん意識が覚醒してくる。なにか声が聞こえた。
「起きてください!」
俺は驚き飛び起きる。そこには金髪碧眼の絶世の美女が立っていた。どこかで見たことがある気がする。
「どちら様ですか」
「はい? 」
俺が寝ぼけたふりをしてそう言うと、美女は変な声を出す。
「覚えてないんですか? 私は……。そういえば自己紹介してませんでしたね。私はリナ・ハープです」
「ああどうも、僕は早川進です」
二人は自己紹介を終え微笑む。日の光はそんな二人を明るく照らしている。その光はまるで二人のこれからの冒険を、祝うかのようだった。
神様のセリフが読みづらくてすみません。読みやすくしようと思ったんですが、どうやってもなんか違和感があったので、そのままにしました。