表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強少年の異世界旅行記  作者: 吹雪
一章 旅の始まりと終わり 新たな旅の始まり
2/23

第一話 記憶

徐々に意識が覚醒してくる。


 目を開けると目の前には、真っ白な部屋が広がっていた。部屋の中にはソファが向かい合って置いてある。しかも不思議なことにどこにも電気がないのに、この部屋は明るく照らされている。ふと重大なことに気が付く。出入り口がない。ドアや窓はもちろんないし、それ以外にもこの部屋に出入りできそうなものは何もない。つまり俺はここから出られないという事だ。正直ここまで現実離れした状況に立たされていると、頭が痛くなってくる。


 俺は何でこんな所にいるんだろう。そもそもここがどこかもわからない。確か俺は妹の誕生日にコンビニまで買い出しに行き、それから家に帰って……? あれ、確かに俺は買い出しが終ってから家に帰ったはずなのに、家に帰ってからの記憶がない。なんとか思い出そうとするが、あと少しというところで頭が痛くなり思考の邪魔をする。


 このままでは埒が明かないので、とりあえずソファに座る。なぜソファに座ったのかと言われれば、単純に足が疲れてきたからだ。ソファに座ると俺の向かい側のソファが突然光りだした。その光はだんだん人型になっていき、最終的には1人の老人にになった。


 老人は髪が真っ白なのでそれなりの年齢のはずなのだが、身長が高く腰も全くまがっていない。身長はたぶん190近くあるように見える。その姿はまるで歴戦の戦士を彷彿とさせる。老人は俺の事を見ると、申し訳なさそうに話しかけてくる。


「すまんな。待たせてしまったみたいで」


 老人は待たせたといったが、何を言ってるのかさっぱり分からない。


「えーっと、僕になんか用ですか」


「ああ。用があるからここに呼んだんだ」


 どうも俺がこんな変な場所にいるのは、この老人が原因らしい。


「まずは自己紹介からだな。俺は神だ。そしてここは神界というところだ」


 えっ神、神界? 何言ってんだこの老人は。しゃべり方も老人っぽくないし。


 俺がパニックになっていると、老人が話しかけてきた。


「次はお前の自己紹介の番だ」


なんかすごい偉そうだなこの自称神は。頭の中を整理する時間くらいくれればいい話なのに。


「僕は早川進です」


「知っているよそんなこと。俺は神だぞお前の事をお前自身より知っている」


 自称神は俺の自己紹介がどうでもいいとばかりにそう言う。


 やばいなんかこの人が嫌な奴に見えてきた。人に自己紹介しろと言ったくせに、俺の名前をもう知っていて、挙句の果てにそれを口に出して言うとか。まあとりあえずスルーしよう。


「それで僕に何か用があるんでしたっけ」


「ああ。お主には異世界に行ってもらう」


 はあ、いい加減何がどうなっているのか説明がほしい。こいつの頭には、説明の二文字がないのか。


「そうですか……」


「ん? 何か説明してほしそうな顔をしておるな」


 自称神はニヤニヤしながらそう言う。


 なんだこいつ本当に神様なのか? 今の顔を見る限り俺が説明してほしいのを知ってて、ワザと説明を省いてたっていう感じがする。感じというよりもう確信したのだが。


「いえいえ。説明なんていいので早く異世界に飛ばしてください」


 あいつの思い通りになるのはごめんだ。記憶がないのは気になるが、異世界に行くしかないというような口ぶりだったし、何より俺はこいつが嫌いだ。


「え? まてまて。俺の話は聞いておいた方がいいと思うぞ。特にお前の記憶の話とか」


ここで引き留めるということは、もしかしたら何らかの理由で俺に説明しなければいけないのかもしれない。これはしめた。意地悪した腹いせに、とことん意地悪してやる。


「いや、本当にいいので早く異世界に飛ばしてください」


「え!? 本当に聞かないのか遠慮するなって!?」


 自称神は急に慌てたようにそう言う。


 これは俺の推測が当たってそうだ。しかもこの感じを見ると、時間に制限があるように見える。


「お前は死んだんだ。記憶が…っておい!」


 自称神が無理やり説明を始めたので、耳をふさぐ。それにしてもすげー慌てようだな。神なら耳をふさいだくらいどうにでもできるだろ。これはこいつが神かどうかも怪しい。


 そうこうしていると、自称神の隣が光り出した。その光はさっきと同様に人型になり最終的に少女になった。少女は金髪碧眼の神々しい姿をしている。髪は腰あたりまで艶やかに伸び、顔は人形のように整っている。何より目を引くのが、胸だ。この少女相当に胸が大きい。かといって全体的なバランスは悪くない。この子が神というなら信じてしまいそうだ。それくらいありえない容姿をしている。


「どこまで話は進みましたか」


 少女が綺麗な声でそう言った。そこでふと変なものが目に入る。自称神が震えているのだ。さながら生まれたての小鹿のように。ここで俺はすべて悟った。この自称神はこの少女が来る前に、俺に色々と説明しなければいけなかったのだろう。


「もしかして、あんなに注意しておいたのに、まだ何も話していないのですか」


 少女が笑顔で自称神にそう言う。いや顔は笑っているが、目が笑っていない。そのうえ変なオーラが出ている。あの顔を向けられているのが、自分だったらと思うと寒気がする。その顔を向けられている当の本人は、青を通り越し顔が真っ白だ。少し面白い。


「そうですか、わかりました。すみませんが少し席を外してもよろしいですか」


「え、ええ全然かまいませんよ。ぜんぜん」


 危なかった。一瞬あの笑顔を向けられて、ちびるかと思った。この少女には逆らえる気がしない。これが神か。


「それでは、少しだけ席をはずします」


「はい。ごゆっくり」


 そんな間の抜けた返事を返すと、2人はいなくなった。


「はあー、久しぶりに息を吸えた気がする」


 実際さっきまでの部屋の空気の重さは、尋常じゃなかった。


「そうですか。彼はそんなに迷惑をかけてしまいましたか」


「うわ! 」


 いつの間にか戻ってきてた少女に、今の独り言を聞かれてようだ。しかも空気が重かったのは、自称神のせいではなく、この少女のせいなのになんか勘違いしている。


「早かったですね、戻ってくるの」


 早いというより数秒だったが。


「ええ。あまり待たせるわけにはいきませんから。どうやら彼が迷惑をかけてしまったようですし」


「いえ、気にしないでください。それよりあの神様はどこに行ったんですか」


「何か勘違いしてるようですけど、彼は神ではありません。ちなみに彼には罰を受けてもらいました」


 少女が黒い笑顔でそう言う。


 とてもじゃないがどんな罰なのか聞く気にはならない。


「そうですか・・・・・・」


「それでは、今度こそあなたがここにいる理由を説明します」


 やっと説明してくれるらしい。ここまでがすごく長かった。最初からあいつではなくこの少女が、来ればよかったのに。


「はいよろしくお願いします」


「まず、彼は勝手に神を名乗っていた様ですけど、本当の神は私です。信じろと言っても無理な話かもしれませんが、まずは信じててもらわなければ話が進みません。」


「はい。あなたが神様というのなら、信じます」

 

 俺がそう言うと神様は、少し驚いた顔をして口を開く。


「妙に物分かりがいいですね。参考までになぜそんな簡単に信じたのか、教えてもらってもいいですか」


 物分かりも何も、あの自称神と比べると一目瞭然な気がするのだが。


「教えるも何も、さっきの彼と比べるとなぜだか信じてしまうだけです」


 俺がそう答えると、神様は悲しい顔をして言う。


「なんていうか、悲しい気持ちになりますね。彼と比べられるのは。」


「いえ! そういうことではなくてですね」


「冗談です」


 俺が慌てて弁解しようとすると笑顔でそう言った。今度は黒い笑顔ではなく、いたずらが成功した子供のように。正直この笑顔はやばい神様というより、天使に見える。


「まあ、冗談はこのくらいにして説明を続けますね」


 冗談だったらしい。


「えっと、ここが神界というところで、私が神様だということは理解したと思います。あなたがここに呼ばれたのは、人間界で指名手配中だった悪魔を殺したからです」


「ちょっと待ってもらっていいですか、僕にはそんな記憶ないんですけど」


 そうだ、忘れてたけどなぜか俺にはコンビニから家に帰ってからの記憶がない。


「それは、たぶんあなたの心が、思い出すのを拒否してるからだと思います」


 神様は俺を気遣うような優しい顔でそう言う。 


 それはつまり思い出すのを拒否するほどの事が、家に帰ってから起きたということか。


「僕がコンビニから家に帰ったあと、何があったのか教えてもらえますか」


「そうですね。あなたには話さなければなりません。あの夜あなたの家族は、地獄から逃げ出した悪魔に殺されました。そこにあなたが帰ってきて、悪魔を怒りで我を忘れたあなたが、悪魔を殺しました」


 え? 家族が死んだ嘘だろそんなの。……いや思い出してきた俺は家族の死体をこの目で見た……。そうだ俺の家族はもう……いない。


 何かが俺の頬を伝う。涙だ……。それを意識した途端いっきに、涙があふれる。思い出すのは家族との楽しい思い出。思い出せば思い出すほど、涙が止まらなくなった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ