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君と桜

ロキ視点です!

此処の下町の桜を見るのが好きで毎年、こっそりと来ていた。

去年もこっそりと来ていて、大きな桜があるベンチに寝転んでいると、春の心地良さから転寝をしてしまった。

腹が空きすぎて目を覚ましたがある違和感に腹の上を見ると、まだ温かいクッキーが乗っていることに気付いた。名を書いていないあたりと、小さな紙の切れ端に書いていた、どうぞ。という文字に自分のことを知らず親切からかと思い心も暖かくなった。

不思議と何の危機感も感じず腹も空いているからか包みを開け頂いた。サクサクとしていて口の中には南瓜の甘みが広がった。

以来、このクッキーを置いてくれた人に会いたいと思って度々この場所に訪れたが会えずに、自分は寝ていたので顔が分からない。

しかし、どうにも諦めきれなくて今年も此処の下町へ訪れた。


今日は春祭りらしくて人が大勢いて活気だっていた。

そんな人々を見て何だか会えそうな気がする…とあの桜の木へ行ってみると先客がいた。

小さな口を大きく開かせて幸せそうな顔をして頬張る姿…

「っくく…あの時の娘だ。」

俺はあの娘がした行動に笑いが込み上げて来て腹を抱えた。

この前、この国の王城で開かれた夜会に来ていた貴族の令嬢なのに淑女の欠片も無い娘。

だが、好きなものを食べるときの笑顔が相手を心地よくする。可愛らしい女性。

名前は確か…

「ニコ…?」

俺がその名を呼ぶとニコは振り返った。

ニコも此方に気付いた様でああっとした表情を見せ首を傾げた。

何処から見ても頭の上に疑問符が見える。

まぁそれはそうだろう。俺に名乗ってないのに名前を知っているのはおかしいもんな。

そう思って答えようとニコを見ると、考え事をしているみたいでだんだんと顔が険しくなり睨まれた。

俺は何か気に障ることを言ってしまっただろうか…と聞くとハッとして違う。と首を高速で横に振っている。

面白い女性だな…見ていて何だか飽きない

「それで、何故私の名前を?」

名乗った覚えは無いんですが…という風に見られる。

「いや、君のお祖母様が君を呼んでいるのを聞いたからな」

ニコは俺の言葉に納得したようで頷いている。

「よく私だって分かりましたね。」

「ああ、それはーーーー」

言うのをやめた。女性が大きく口を開けて頬張ろうとしている姿をみて、気付いたなんて、言えない。

「それは?」

ニコが気になるようで先を即してくる。

「いや、何でも無い」

そんなにその先を言って欲しいのか俺が言わないということに肩を分かりやすく落としている。

でも、言えば女性として悲しむかもしれないだろうと思い、ニコが食べようとしていたシュークリームへと話を逸らした。

「あーーーーーっと、それは何だ?」

分かりやすい話の逸らし方にニコは頬を膨らませていたが持っているシュークリームを説明してくれた。

最初は少し膨れながら話していたが、そんなに『桃色シュークリーム』が好きなのか段々とニコの顔が綻んできた。ニコの話を黙々と聞いていると、食べます?と言ってその桃色シュークリームを俺に手渡した。

良いのか?ニコが食べようとするシーンを見てどれだけ桃色シュークリームが好きなのか俺でも分かる。それを普通にくれようとする姿勢が唯の食い意地のある令嬢ではないと思える。

あとの二つは祖父母にお土産として買っているみたいでその面でも優しいんだな…と思った。

快く貰った桃色シュークリームは一口食べると、野いちごの甘酸っぱさが口一杯に広がり幸せな気持ちになった。

「確かに…美味いな。」

「でしょう?」

ニコの無邪気で幸せそうな笑みにドクンッと胸が跳ねた。

話は毎年来ていたがニコとは会ったことはないな。という風に進んだ。

すると、ニコがありますよ?と平気な顔で答える。

俺の記憶の中では此処で女性に会っていない。

どういうことだ?

聞くとニコは去年の今頃、此処に来て、寝ている俺に会ったらしい。

ん?俺は頭の中で引っかかることがあった。それが解決しないまま、ニコは先を言う。

「ふふっ、ちょうどその時に持ってた南瓜のクッキーを置いておいたんだけど…よく考えたら普通は気持ちが悪くて食べないわね」

ニコの言葉が俺の引っかかっていたことを解いてくれた。

ニコ…だったのか?。俺の中に穴が空いたようなすっきりしたような気持ちが残った。

道理で探しても居ないはずだ。下町の庶民から貴族になっているなんて、考えつかない。

探すのは無理かと諦めかけていたが…まさか、目の前にいるとはな。

不意にニコに名前を聞かれた。

どうするか…まだ知られたくない。という気持ちが脳裏に浮かぶ。

悩んだ挙句、名前だけ教えることにした。

ニコ…君は、俺を知ったら態度を変わらずに接してくれるか?

目線だけの問いかけに答えてくれる者は居ない。

辺りを見渡すともう夕暮れ時だった。ニコが帰ろうとするのを右手でニコの左腕を咄嗟に掴んだ。会えたことの嬉しさにもっと話したいと思ってニコを送ろうとしたが、断られてしまい、別れを言った。

ニコの少し急ぎ足で帰って行く姿を見て無意識に

「また会いたい」

と、言ってしまったのは何故なのか…

「俺も帰るか…」

頭を掻いて自身が乗ってきた馬に跨り、国へと帰った。


家へ帰るとやっぱり…門の所で待ち構えている奴がいる。俺は溜め息を吐いた。やることは全て終わらせて行っているのに、どうにも毎回こいつに叱られる。

「遅いお帰りですね。ーーー」

いつもと少し低い声で俺を見てくる。

「少しぐらい良いだろう。やることは終わらせているのだから」

「此処にいて貰わなければ困ります。」

眈々とした声でグチグチと言われる。

「ーーーー分かった。分かった。」

俺は降参とばかりに両手を顔の位置まで上げ…逃げる。

あんなもんを黙って聞いてたら朝方にまでなる。

俺は私室に入って今日の出来事を思い返した。

探していた人は見つけた。ニコだった。あの夜会で会った食い意地の張った貴族令嬢と思っていたニコだった。気分はすっきりだ。

だが、自分は会いたかった人に会ってどうするつもりだったのだろうか。それが分からない。それに何故だか、またニコに会いたいと思っている。

さっき会ったばかりなのに。

女にこんなにも会いたいと思った事が今までに一度も無い。

「………………………ニコが話しやすい女だからか?」

それか、今までに会った女みたいではないからか…?


ロキはこの想いが何なのか気付かなかった。

ただ、あの幸せそうなニコの笑みが脳裏に焼き付いているだけ…

「なんなんだ…」


今晩はそれだけしか言えなかった。


ロキは一体誰なのか…?


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