食と桜
ある人と会います。
少し直しました。
今日は前、住んでいた下町で春祭りが行われているので私、ニコ・メイリスは籠を片腕に下げ、この下町の春祭りならではの露店制覇に出掛けている。
下町は大変賑わっており、夜会などで演奏されている軽やかなメロディーでは無く、楽しそうで元気なメロディーがとても合っていた。
私は夜会よりもこっちの方が好きだ。
元気な音楽に合わせ老若男女関係無く、堅苦しいダンスでは無く楽しそうに心からの笑顔で自由に踊っている姿が見ていて心地良い。
自然と笑顔になり踊っている人達を見ていたら、小さい女の子が花冠をくれた。
これは、春祭りに来てくれたお客様へのちょっとしたお持てなしだ。
「上手ね、ありがとう」
私は貰った花冠を頭に被せてお礼を言い、その女の子にじゃあね。と手を振り下町の春祭り限定。『桃色シュークリーム』を買いに浮足で向かった。
桃色シュークリームを売っている露店には、もう既に行列が出来ていた。
なくならないかな?と心配しながら列に並ぶ。
本当に桃色シュークリームを食べないと私の中で春は来ないのだ。
とうとう私に順番が回ってきた。良かった…まだある。
「桃色シュークリームを5つ下さい」
「はいよ」
私は店の人に貨幣を渡して、包んで貰った。
「ありがとう」
軽くお店の人に会釈をして、近くにベンチが無いか探す。
すると、ちょうど桃色の桜が満開の木の下に空いているベンチを見つけた。
「ふふふったーべっよっと」
ストンッとベンチに座り包んで貰った中から桃色シュークリームを取り出して頬張ろうとした所、誰かが私の名前を読んだ。
「ニコ…?」
その声の主の方へ振り向く。
「…あの時の」
あの王城の庭のベンチを占領していた神秘的な男性がいた。
あの時の事を思い出していると、ん?と首をかしげた。
「何故、私の名前を?」
そう、私は名乗っていなかった。故にどうして私の名前を知っているのか不思議でならない。
それに私は絶世の美貌の持ち主とは程遠い容姿をしているので記憶にあまり残されない。
ブスって程でも無いが、美人でもないのだ。
もし、私が絶世の美貌の持ち主なら、その顔を頼りに名前を探してお近づきになりたいと思えるやもしれない。
しかし現実はこの顔だ。よく私を覚えていたな。と、褒めれるレベルだ。
ニコは自分がどれだけ普通の…凄く普通の顔をしているのは知っている。
一度挨拶をした所でニコの名前が出てこないのは何度もあったからだ。
全くもって失礼である。中にはこんな大失礼の奴も居た。
『あ~あの子あの子、凄く顔が普通の何処にでもいそうな…そう!ニコ・メイリス!』
この記憶は古いものではない、ごく最近の記憶だ。言ったのは50代半ばのジジイ。
あんのクソジジイ…今度会ったら一発蹴りをいれてやる。
普通の顔。という理由で覚えられる筋合いは無い。
思い出しただけで腹が立つ出来事に自然と顔が険しくなり睨んでしまう。
「っ!?悪い、何か気に障ったか?」
神秘的な男性の声にハッと我に帰り全然違います。と首を横に振る。
「そうか、なら良いんだが」
「それで、何故私の名前を?」
名乗った覚えは無いんですが…と彼を見る。
「いや、君のお祖母様が君を呼んでいるのを聞いたからな」
あぁ、それで。と、納得がいく。
「よく私だって分かりましたね。」
本当に凄いと心から感心する。
「あぁそれはーーーーー。」
ん?男性が言うのをやめた。え?気になるんだけど…
「それは?」
私は気になりその後を即した。
「いや、何でも無い」
えぇ!何それ。少しでも私の顔が記憶に残っている理由は知れないのか。
少しだけ肩が落ちる。
「あーーーっと、それは何だ?」
男性は話を逸らした。
それに私の頬は膨れるが、男性の綺麗な指が指す先には私が持っている桃色シュークリームがあった。
「これは此処の下町の春祭り限定の野いちごを踏んだんに使ったシュークリームなんです。春らしい桃色で此処でしか作られないんですよ。」
美味しいんですよ。と、一つ男性に差し上げた。
「良いのか?」
「はい、お祖母様とお祖父様の分はありますから。」
遠慮無くどうぞ。と言う風に食べてもらった。美味しい物は皆で食べるのが1番!
「確かに…美味いな。」
私も一口食べ、満面の笑みで
「でしょう?」
と返した。
「そういえば、どうして此処に?」
「ニコこそどうして?」
質問を質問で返された。
え、どうしてって…
「此処が私の故郷だからです。」
「あぁ、そういえば言っていたな。『貴族になったのは最近』だと。」
「私が来るのは分かりますが、王城の夜会に来ていた貴方がどうしてここに?」
王城の夜会に呼ばれるとなると貴族階級だ。そんな人が好き好んで下町に来たりするのだろうか。
「ああ、俺は此処の桜が好きで毎年来ているんだ。ニコとは会ったことは無かったな」
「…いや、私はありましたよ?」
私の言葉に驚きを見せる男性。
ーーーーあれは、まだ貴族として城下に行く前だったとき…
自分で作った南瓜のクッキーを持って、お花見をしようと桜の木の下へと行った時だった。
見慣れない男性がベンチで寝ていたのだ。
私は誰だろう…と、男性を見ていると、寝ているみたいなのに男性のお腹がぐぅ~っと鳴った。
私は何だか笑いが止まらなくて、薄らと涙をうかべながら、どうぞ。と書いたメモを残し、家へと帰った。
そのちょっと後に両親が他界して私は祖父母のいる屋敷に引き取られた。
少しだけ悲しい思い出もあったから、今まで思い出せなかった。
「去年の今頃…貴方、このベンチで寝ていて、ふふっ」
思い出し笑いが溢れる。
「寝ながらお腹が鳴ってたのよ?」
「本当か!?…っ」
恥ずかしいのか男性の顔が赤くなる。
「ふふっ、ちょうどその時に持ってた南瓜のクッキーを置いておいたんだけど…よく考えたら普通は気持ちが悪くて食べないわね」
男性の顔が一時固まった。と思ったら直ぐに元に戻った。
「いや…頂いた。とても美味かった」
「そう。それは良かったわ」
とりあえず、気持ち悪がられて無かっただけでも良かった。と、胸を撫で下ろした。
「そういえば、私、貴方の名前を知らないのだけど?」
ニコってもう言われてるけど、私はこの男性の名前すら知らないから呼ぶときに困る。
私が男性の返答を待っていると、少し悩んで答えてくれた。
「あぁ、…俺の名前はロキだ。普通に呼び捨てで呼んでくれ」
「ロキって言うのね、また会えたら良いわね」
気が付くともう夕暮れ時でそろそろ帰らないと真っ暗になってしまう。
立ち去ろうとしたらロキが私の腕を掴んで言った。
「もう遅いし、送るよ」
「大丈夫よ。ありがとう、またね」
私はロキにお礼を言って少し急ぎ気味で帰った。
桜の木の下でロキが言った言葉はニコには聞こえなかった。
桃色シュークリームは家族のお祖父様、お祖母様にも評価は良く、3人で美味しく頂いた。
次はロキ視点をします。