王子達
一部編集いたしました。
「ふぅ~良い匂い!」
オーブンから美味しい匂いのするクッキーを取り出し汗を額から拭うポーズをしたのは私、ニコ・メイリス。
「あとは、ラッピングね」
水色の透明な袋に黄緑と黄色のリボンをくくりつけて、メッセージカードを添えた。
「完璧!」
我ながら、このクッキーといいラッピングの完成度に惚れ惚れする。
「後は、此れを王城に持って行って、第三王子に渡さないとね。服はこれでいっか。」
ちゃちゃっとお礼を言って渡して、帰ろう!
行動が決まったところで、馬車に乗り王城に行った。
「相変わらず綺麗な所だなぁ。我が家には負けてるけど」
白いお城を眺めて改めて我が家のバラ園を思い起こす。
アレは最強だ。うんうん。
王城の前で首を縦に振っていると横から声が聞こえた。
「あれ?どうしたの」
私に声をかけてきたのは金髪碧眼の美青年。ん~どっかで見たような聞いたような~…忘れた。
「この国の第三王子のラングニエ様に会いたいのですが。」
「あぁ、じゃあ来なよ」
と言われグイッと手を引っ張られた。
「足元気を付けてね」
「あの、勝手に入っていいんですか?」
美青年に手を引かれるまま城の中に入ってしまったが、普通は手続きとかをして通らなければならないんじゃないかなぁ…
そう思って言った私を見て、一瞬固まる美青年。
「あぁ…、いいのいいの」
満面の笑みで言われるが不安が取り除かれた訳でもない。
なんか…軽っぽい人…本当に着いて行ってもいいのか?
そんな疑問も残ったがついた場所は、どうやらお城の庭園らしくて、その庭園の中のバラ園へと案内された。
「ここだよ」
と、指を指された先にらベンチに寝転がっている第三王子がいた。
漆黒の黒髪に赤いバラの花弁が降りかかっていてとても美しく見える。
「っん…ぁ?誰だ」
「やっほー、お客さんだよ」
「誰も通すなって言ってんだろ…誰だよ」
「お、お邪魔してます。」
「昨日の…」
漆黒の瞳とかち合った。
私の鼓動が少し早くなった気がした。
「いつの間にこの子と仲良くなったんだよ」
美青年が第三王子の背中をバシッと叩く。
おいおい、王子を叩いちゃっていいのか?
少し焦りながら、私はちゃちゃっと渡してちゃちゃっと帰るを実行した。
「これ、昨日のお礼。口に合わなかったらごめんね。それじゃあ」
と、素早くお礼のクッキーを渡し、基、放り投げて直様、種を返し庭園を後にした。
何故だろう、胸がドクンッと脈打ってる。
流石に独りで王城に上がったから緊張したかな…
ふわぁっ…お腹空いた。考えるのやめた。
と、ばかりに大きな欠伸をして足を動かしたところ
ん!?
え、何?めっちゃ足に違和感があるんだけど…
そお~っと足元を見て見ると、誰かが倒れてる!そしてその倒れてる誰かを踏んじゃってる!
「えっ!ちょっと大丈夫ですか!?私が踏んだから、ではないよね…どうしよう」
とりあえず運ぼう!ぐっぬー
「………無理か。」
持ち上げようとしたが男性の身体は細い割りに重くて運べない。
私のせいでもあるからなぁ…
しょうがないので、その場で介抱する事にした。
近場で濡らした小さい頃から愛用している手巾を倒れている人の頬や額に当てる。
床に座るのははしたないが、此処は仕方が無いって事で許してもらうことにした。自分の膝に倒れてる人の頭を乗せる。
大丈夫かな…この人。
よく見たらとても綺麗な碧銀の髪…さらさらしていて、とてもこそばゆい。
うなされている様だったので頭を撫でると少し顔が緩くなった。
「っ…」
「起きましたか?」
漸く起きてくれて、痛そうな所もなさそうなので、とりあえず安堵した。
「おい!そこに居るのは誰だ!」
え?えぇ!?大きな声で私の事を指差し、今にも追ってきそうな様子の警護兵の服を着ている人達。あっ!そういえばあの金髪碧眼美青年に連れられて王城に入る許しを貰ってないっ!やばいやばい…
「目を覚まして良かった。それじゃあ」
ダッシュで走る。幾ら連れてこられたからって捕まったらダメだ!
私は脱兎の如く王城を出た。
「殿下!お怪我はありませぬか!?」
王城の警護兵が俺の側に駆け寄ってくる。
怪我…?あぁ、いつの間にか倒れたのか。しかし…
「何だか心地良かった…」
ゆっくり起き上がる際に、俺の額から何かが落ちた。
「殿下、それはどうなされたのですか?手巾…?あっ!さっきの女、まさか殿下になにかしたのでは!」
女?だんだん、ぼや~っと思い出してくる。
「いや、それはない…多分、介抱してくれていたのだろう。先程『目を覚まして良かった』と言っていたしな。」
「では何故逃げるなどの真似を…」
確かに…俺が殿下と知っていたのなら礼や妃狙いでは無いのか?だとすると…
「お前の声に怯えたんじゃないか?」
「えぇ!?それは酷いですよ!こんな顔だからって怯えたような様子では無かったですし。」
あり得ないが、ただの親切心…だったりしてな。
「おい、その手巾を寄こせ。」
「はっはい。」
俺は警護兵から手巾を受け取ると、もう一度あの女に会いたいと思った。
記憶を辿れば、何処も珍しいことも無かった。ような気がする。
それに顔がまだはっきりと思い出せない。
「先程の女…どんな顔立ちだったか分かるか?」
「はい、えー…確か少し明るい茶髪の癖っ毛で黄緑の瞳でしたね。何処にでも居そうな人なので探すのは無理かと…」
あぁ、確かそんな感じだったな。
「その他には?」
「はい、紺色の薄いドレスを着ていました。後は…走るの速かったですね。令嬢にしては。」
「何故令嬢だと分かる?」
「着ていた紺色の薄いドレスは貴族の間で人気なミチナの新作でしたから。」
ミチナ…か。詳しいな。
「何故お前がそんなことを知ってるんだ?」
「い、いえ…あの…シーナ様が頼んでいたのを見まして…」
「本当、お前はロットバル侯爵家のシーナ嬢が好きだな。」
「っ、でもミチナの新作を着ていたということは結構絞られましたよ、ミチナのドレスは高いですからね。」
そうか…ならば伯爵か侯爵か公爵辺りだな。
「分かった。直ちに俺の部屋に貴族令嬢のファイルを届けてくれ。」
「はい。」
何故そんなにあの女の事が気になるのか自分には分からなかった。ただ、きちんと会ってみたいと思えたのだ。
手掛かりは手元にある手巾と貴族であるということ。
まぁ、直ぐ会えるだろう…
俺は会うのが楽しみだった。
その頃、ニコはというと。
「あれ!?私の手巾がない!母の形見なのに、名前まで書いたのに!」
手元に手巾が無いことに気付き、多分あの人を介抱する時に使ったまま置いてきたんだ…と思い至って肩を落とした。
今、王城に戻ったら絶対捕まる!捕まるような事をしてないけど捕まる!
「はぁ~あ…」
何だか、全部に落胆して運気が下がるような、そんな溜息が出た。
少し重い足どりで屋敷に帰ったのは言うまでもない。
「またあの人に会えると良いな。」
そして、どうかあの手巾を持ってくれていますように…