プロローグと出会い
「それではお話しください…母上?」
「そうねぇー。何から話そうかしら…」
それはもう数十年以上前の話…。
私が初めて“幸せ”というものを知った時だった。
私、ニナは幼いころに両親を流行り病で亡くし遠縁に引き取られた。
その遠縁の私の育ての親は裏社会ではとても有名な暗殺者だった。後継者に恵まれなかったその人は私に自らの技術のすべてを叩き込んだ。
そして私はその人の後継者として一人前の暗殺者となっていた。
私が17歳になったばかりの頃、ひとつの大きな依頼が飛び込んできた。
依頼主は裏社会でも一部の人間しか知らない私の生まれ故郷である魔のセカイ『モリアーデ』とその友好セカイである科学のセカイ『ピュセス』の間で人身貿易をしているトスカーナ王国の伯爵だった。
依頼内容は単純…『ピュセス』の有能外交官“ヒカル=モリナガ”を殺せ、というものだった。
何でも人身貿易が彼にばれて摘発されそうだからだそうだ。
正直気乗りはしなかった。
私も両親を亡くし家族を失うつらさを知っていたから…。それを与える人の依頼なんて受けたくないと思った。
でも、それを止めてくれる“対象者”に依頼主について教えるのは悪くないと思ったから私は『ピュセス』へと旅立った。
しばらくして私は“モリナガ”の部下の一人になりすまし彼に近づいた。
そして彼と二人きりになり絶好のチャンスが訪れた。
私が彼に話しかけようと振り向いた瞬間…世界が暗転した。
目を覚ますとそこは闇の世界だった。
どうやら目隠しをされているらしかった。
周りの様子を知りたかったけれど手を縛られ、封印具を着けられているのか魔法も発動できなかった。
そのままでいると遠くから足音が聞こえていた。
その足音はドアを開け、私のそばまで来た。
「モリナガさんですね?」
「よくわかったな…」
「職業柄、足音には敏感なんですよ」
微笑みながら彼に話しかけてみると笑い声が聞こえてきた。
それと同時に顔の両横に手が置かれた気配がした。
「『職業柄』ってもう隠す気ないんだ?」
私にこんな拘束をさせといて知らないわけがないでしょう。
それに十分念入りにした変装もいつの間にか解かされていた。結構自信があったのに…。
それに彼はとても有能であると私は知っていた。そして、信用に足る人物だということも…。
「私のことはもうご存知でしょう?答え合わせをなさってみて?」
「君は『ピュセス』出身ではない。『モリアーデ』出身だ」
正解。さすがね…でもそれだけじゃ合格点はあげられない。
さぁ、あなたはまだ答えを持っているハズよ?
「それだけ?」
「いいや。君は暗殺者『ニナ・カトルセ=ヴァーブ』だよね…そして僕を殺しに来た。依頼主はどこぞの伯爵かな?」
これも正解。でも私のフルネームまで知っているなんて…これは予想外だったわ。故郷でも知っている人はほとんどいないのに。
「それで、僕の答えは合っているかな…ニナ?」
「正解よ。さすが…褒めてあげる。ところでコレ取ってくれるかしら?何も見えないのって結構つらいのよね」
目隠しを取るように促してみると彼はすぐに取ってくれた。初めて間近で見ることができた彼の顔は正直言って…かなり好みだった。
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『ちょっと、母上!いきなり何をおっしゃっているのですか?』
『しょうがないじゃない。事実なんだから』
『好みだったんですか…』
『あなたと同じ銀髪に翡翠の瞳だったの。あ、これは話したことがあったわね。全体的に精悍な顔付なのに目じりだけは垂れてて…かわいくない?』
『その時、父上はおいくつだったのですか?』
『あー、いくつだったんだろ?』
『は?』
『私、彼の本当の歳も名前も知らないの…』




