第3話 開幕試合とビッグマウス
「宣誓! 僕たち選手は……」
夏の甲子園の開会式、オレたちは……いや49の代表校の選手たちと先導するプラカード担当は入場行進を終え、グラウンド中央に横並びで整列している。
今年も暑さ対策で夕方16時開始ということで太陽は既に傾きつつあるが、それでもまだまだ強烈な日差しが容赦なく照りつけて……身体から水分を全て絞り取られそうに感じる。
整列後に各自ポケットに入れてきたペットボトルでの給水が認められているので、まだ我慢できるけど。
そういや先日の女子硬式高校野球の決勝戦も丁度この時間帯にやってたな。姉ちゃんも大変だったろう。
そして今は選手宣誓の時間。見事に大役を引き当てた我らが5校連合チームのキャプテン、しょーたが前に進み出て務めを果たそうとしている。
といっても昔のような定型文そのままというのはちょっとアレなので。
その時々の出来事や世情というものも取り入れつつ、なるだけ簡潔にまとめねばならない。
しょーたはこの時のために毎日文面を考え、何千回も繰り返し練習して臨んでいるが……間違えないように頑張れよ。
「昨今の急激な少子化進行の影響により、全国的に野球部員も減少して……僕たちも連合チームを組んで公式戦に参加しています」
ここが今回のハイライト部分。ここだけは間違えないように念入りに練習を積んで……詰まることなく最後まで頼むぞ!
「学校は違っても一緒に練習に励んだチームメイトたち、支援してくださった監督や先生方、保護者の皆さん、そして大会関係者の方たちに感謝しつつ……今回の出場が、同じく部員不足に悩むチームの希望となることを願っています」
よっしゃ! 渾身の選手宣誓、めちゃくちゃいい出来だったぜ!
無事に務めを終えたしょーたを拍手で出迎えたあとは、一通りのプログラムをこなしてようやく解散。
そしてオレたち5校連合チームは、直後に行われる開幕試合を戦わなければならない。
というわけで一塁側ベンチに……。
「オージロウ!?」
背後から大声でオレの名を、いったい誰だ?
「どうってことねーだろ、そんなチビなんぞ!」
「だけど大会に出場してる全投手の中で最速の男……168キロだぜ?」
「それを計測したのは1回きりらしいぜ〜。それに球速が全然安定してないってウチでもデータが出てる。球種はストレートだけだってのによー!」
「だけどそれで予選突破してんだろ? スゴいヤツじゃん」
「そこの県が弱すぎるだけじゃねーの? まあ、常時100マイル出せるこの俺……将来はメジャーでデッカい花火を咲かせる男、前宏田様がビシッと格の違い見せつけてやるぜ!」
「ははっ、相変わらずのビッグマウスだな〜。そういやオージロウのお姉ちゃん、めちゃくちゃ美人さんだよな」
「それそれ! 試合終わったら落ち込んでるところに優しく声かけてさ、ちょっと紹介してもらおっかな〜! アハハ!」
前宏田……まさにこれから対戦する相手、神香陵学園のエースで3年生。
なかなか言ってくれるじゃん……まあ、もしかしたら他校の選手相手に喋ってるうちに調子に乗っただけで本気ではない、のかもしれん。
だが、オレのことだけならまだしも姉ちゃんまで……てめーはオレを怒らせたッ!
今日は全打席狙ってやる……そんなことを考えながら足早に一塁側ベンチへと向かう。
◇
「あれ? 相手先発ピッチャー、前宏田じゃないの?」
「うん。一応2番手の山野井……まあ向こうさんにも考えあっての投手起用でしょ。それに他の高校なら十分にエースが務まるレベルの投手だから、ナメてかからないように」
古池監督はああ言ってるけどナメてんのは向こうだろ……でもまあ、逆の立場なら連合チームにはまず小手調べしたくなるのも分からんではない。
そして17時30分の開始予定時刻を10分近く押して試合開始で途中からナイター確定。これも暑さ対策なのだ。
先攻はウチで、打線は1番から中地さん、しょーた、オレ、阿戸さんと続く。日が沈んで暗くなってくる前にオレに第一打席が回るようにという狙いだ。
ちなみに始球式は地元少年野球チームのピッチャー。中地さんがうっかり打ったりしないかと期待……いや心配したが何も起こらず無事終了。
で、山野井はなんとサングラスをかけての登板。事前に申請すれば規定通りの規格のサングラス着用は認められる。
眩しいのが苦手なのか近視なのか……だが投げ始めるとそんなことはどうでもよくなった。
「くそっ、何とか当ててやる!」
スカッ!
「ストライク、バッターアウト!」
あっさり三球三振。トップバッターなんだからもう少し粘ってくれよなー。
「中地さん、カーブに引っ掛かりすぎ!」
「いや違う、最後のはもっと手元でドロンと落ちて……とにかくカーブじゃない」
何言ってんだこの人……と思いつつネクストバッターズサークルで待っていたが。
「ストライク、バッターアウト!」
しょーたまで同じボールを空振り三振……!
「何やってんだよしょーた〜!?」
「……カーブじゃない」
「えっ?」
「縦のカーブかって思うくらいに落ちてくるけど、スライダーみたいな軌道と曲がり方してる……というかスライダー?」
何だよそれ。わけわからん。
しかしそれは本当であった。
「ストライク!」
真ん中高めから左打者の内角へ変化しながらグイッと落ちてきた。
だけど多岐川高校の本所が投げてたドロップとも落ち方が違う。
そして2球目……同じか?
「うりゃああっ!」
スカッ!
「ストライク! カウント0−2!」
今度こそ縦に落ちるカーブ……さっきと違って投げた直後に一旦浮き上がってからブレーキがかかって落ちてきた。
ん? どちらにしても上下に視線が動くボール……ならば!
「急にスタンスをそんな広げて姿勢低くしても、ストライクゾーンは変わらないよ?」
相手キャッチャーが声をかけてきたが気にしない。オレは下半身を安定させて目線がブレないように、ノーステップ打法を取ることにした。
3球目は……キャッチャーは警告通りに外角高めストレートで攻めてきた!
「うりゃああ!!」
バシィーッ!!
「うわあっ! レフト方向に!」
ちゃんとバットが届く範囲を計算してスタンスを広げてるんだなあ、これが。
「ファウル!」
切れたか。140キロ台後半だがキレが良かったもんな、まあ仕方がない。
さて、次が勝負かな。
山野井は額の汗を拭ってからノーワインドアップで始動して……オーバースローで右腕を振り下ろす!
「えいっ!!」
直後にほとんど浮き上がらず内角胸元へ……。
いや、手前でドロンと遅くなって膝下に向かって鋭く落ち始める!
「うりゃあああっ!!」
バッシィーーン!!
オレは先に広いスタンスのまま軸足に移しておいた重心を、股関節の動きで一気に前へと体重移動して。
ブレない目線で落ちるボールを捉えると、前足を下半身ごと鋭く回転させて。
生み出した強烈なスイングスピードで、ボールを下から叩き上げたのだ!
ライトポールへと放物線を描きながらかっ飛んでいく打球は……先制ソロホームラン!
「オージロウ、いきなりきたあーっ!!」
「甲子園でも余裕で放り込んだぞ!!」
ふふふ。大歓声が気持ちいい……いやまだまだ。次は前宏田からも打ってやらねーとな。




