第2話 姉ちゃんの試合結果と組み合わせ抽選会
「ゲームセット! 3−1で神香陵学園の勝利!」
……姉ちゃんたちが、負けた。
決勝戦の相手は女子硬式高校野球にて2年連続3冠を狙う……いや、これでその目標を達成した絶対王者、強豪私学の神香陵学園。
もちろん簡単に勝てる相手だとは微塵も思っていなかったけど……実際に近くで観戦して、スコア以上の力の差を改めて見せつけられた。
まずは攻撃力……派手さは無いけれど、全員がコンパクトで鋭いスイングによるミート打法で姉ちゃんのボールを捉えてくる。
更にどうやって見切ったのかわからないが……決め球である『左打者の外へ逃げていくフォーク』を徹底的に見送られ、スライダーを狙われた。
なので序盤はフォークをストライクゾーンへ多投してピンチを切り抜けていたのだが。
中盤以降、恐らくそれで握力が落ちて甘くなったフォークを狙われてしまう。
相手は出塁したランナーをバントや盗塁で確実に進めてから、単打にスクイズと小技で着実に得点を積み重ねていった。
そして姉ちゃんたちの攻撃も巧みに封じられた。
相手のターゲットは姉ちゃんではなくチャンスメーカーの由香里さん……得意な低めの変化球はほとんど無く、徹底して苦手の高めで力勝負を挑まれた。
そうやって姉ちゃんの前にランナーがいない状態を作って、カウントが悪くなれば無理せず勝負を避けられてしまう。
そのままズルズルと最終回まで進み、姉ちゃんの意地のホームランで完封負けを逃れるのがやっと……。
こうして姉ちゃんと由香里さんの一度きりの甲子園はあっけなく幕を閉じたのである。
「雛子ちゃーん! わたしたちを甲子園に連れてきてくれて、ありがとー!」
「最強の強豪チームを相手によくやったぞー!」
スタンドからは、姉ちゃんの友人たちだけでなく地元から駆けつけた応援客たちから惜しみない歓声と拍手が……スタンドに向かって一礼して応えながらも涙を流すチームメイトたち。
姉ちゃんはキャプテンとして気丈に振る舞い、みんなに声をかけて慰めている。
その後、グラウンドに設けられたインタビュー席で優勝校の監督と選手たちが喜びの声をマイクで響かせる。
見事な優勝に両側のスタンドから祝福の拍手が鳴りやまなかったが、やがて準優勝チームのキャプテンとして姉ちゃんにもマイクが向けられた。
試合内容を静かに振り返る姉ちゃん……しかし最後にえらいことになったのだ。
「山田さん。あの、お兄さんに伝えたいことは何かありませんか?」
またかよ。インタビュアーはどうしても感動ネタを盛り込みたいらしい……いい加減にしてくれ。
だがマイクを向けられた姉ちゃんは、むんずとマイクを握って強く引き寄せ……カメラを睨みつけるようにしてまくし立てる!
「兄さん……このテレビ放送をきっとどこかで見てるんでしょ? だったら、いい加減に姿を現したらどうなの? わたしも父さんも母さんもずっと待ってるし……オージロウなんてあの時ずっと泣いてたのよ!? 兄としてなんとも思わないのかしら!?」
あまりの迫力にシーンと静まりかえる球場内……そして言いたいことを終えると姉ちゃんはコホンと咳払いしてインタビューを終えたのであった。
姉ちゃんは兄ちゃんが生きて戻ってくることを全く諦めていない。オレと父さん、母さんは思わず顔を合わせて微笑む。
そして閉会式まで見届けてから、オレは古池監督と共に阪神電鉄と阪急電鉄を乗り継いで宝塚駅に帰還……ホテルに入ると、しょーたが血相を変えて走ってきて叫ぶ。
「オージロウ! 雛子さんがネットでえらいことになってる!」
「あー、派手に炎上しちまったのか」
「いやそれどころか! あのインタビューがバズって『雛子姉ちゃん』とか『雛子お姉ちゃん』がタグのランキング上位に!」
マジか……全国放送ではなかったはずだが、そこまで広まってたとは。なお、オレのことは『泣き虫オージロウ』として広まってるらしい……。
でもまあ何でもいいよ。こうやって話が広まることで兄ちゃんが姿を現してくれれば、何でも。
◇
それから翌日。大阪◯ェスティバルホールで行われる組み合わせ抽選会に、オレたち連合チームも参加している。
それにしても、入場時はなんか全校の選手から視線を浴びていた……気がする。
元から168キロ左腕ということで注目の選手の一人に挙げられてたけど、やっぱり昨日の件も影響してると思う。
「しょーた! 開幕だけは絶対に引くんじゃねーぞ!」
「もし引いたら……今晩のおかず半分を俺らに提供な!」
みんなから強烈なプレッシャーをかけられて青い顔でくじを引きに行くキャプテンしょーた。
まあ、49分の2の確率なんだから……いや、こんな時こそ引き寄せられるが如く当たりを取るのがしょーただ。
そしてそんな負の期待をしょーたも感じたのだろうか。
「5校連合チーム! 1A!」
うおおーっ! と会場内に大きなどよめきが轟く。
このくじ番号こそまさしく開幕試合の1塁側……見事にやってくれちゃったぜしょーた!
半分パニックのチームメイトたち……だがオレはそれよりも相手がどこになるかが気になる。
せっかくだから強い相手……特に好投手がいるところと戦いたい。
今年の夏は投手が大豊作で、なんと160キロ超えが数人いるらしい。オレは今からもうワクワクしちゃって、できればその全員からホームランを打ちたいのだ。
そしてしばらく進んでから聞き覚えのある校名が出てきた。
「神香陵学園! 1B!」
またまたどよめき……遂に開幕試合の相手が決まったのだが。
運命のいたずらか。姉ちゃんたちを破ったあの高校の男子野球部なのである。今年は男女チームで甲子園にアベック出場を果たしていたのだ。
そして確か160キロ超え投手の一人がエースを務めるチームでもある。
別にリベンジとかは考えてないけど……相手にとって不足なし、だぜ……!
そうそう、注目の選手宣誓だが……こうなったらとことんやってやると立候補したしょーたが見事に引き当てた。
◇
抽選会から早くも2日目。
今日は夕方から開会式のリハーサルが行われるので再び甲子園球場にやってきた。
49の代表校が一堂に会した控えスペースは選手同士の交流の場ともなっていて、あちこちから雑談の話し声や笑い声が聞こえてくる。
オレも沢山の選手から声をかけられて、返事と軽い雑談だけだが結構忙しい。
そしてチームの先頭でプラカード誘導係を務めてくれる女子とは初めての顔合わせだ。
「あの。わたし、5校連合チームの担当になった佐藤っていいます。今日と明日の2日間よろしくお願いします〜」
「おうっ! 俺は阿戸……このチームの中心選手でさあ。早速なんだけどLINE交換しない?」
「ぼくちんは近海、華麗な守備が魅力の内野手だっぴょ! 是非とも可憐な君とお茶したいっちゃ!」
うわ、阿戸さんがチャラ男モードになっちゃってる……近海も実はそうなのかよ!
「2人とも会ったばかりの女子相手にやめてくれよ! 佐藤さんドン引きじゃないか!」
「なんだよオージロウ、出しゃばるんじゃねえ!」
「ぼくちんの恋路を邪魔するなだっぴょ!」
2人に胸元を強く突かれたオレは後ろに下がりつつも何とか踏ん張って……。
ドンッ!
「痛てえなあ! ちゃんと前見て歩かんかいボケェ!!」
しまった、他の学校の選手に衝突した。大きくて分厚い身体つきでダメージ受けてるように見えんが……それはともかく、ちょっと言い方が乱暴すぎないか?
オレは一応頭を下げつつもつっけんどんに言い返す。
「どうも失礼。でも前に歩いてたんじゃなくて後ろにふらついただけなんで」
「あぁ!? 何を口答え……お前は確かオージロウ。ならなおさら3年生の先輩に対する口の利き方がなっとらん。喝じゃ喝ぅ!」
何だコイツ……今時やたら先輩風を吹かすとは。更に背後からの阿戸さんと近海の声が混乱に拍車をかける。
「どうしたオージロウ! ソイツに絡まれたのか?」
「助太刀するっぴょ!」
いやお前らのせいでこうなったんだけど……と言い出す間もなく相手にも加勢が入る。
「どないしたんやハリー。ワシが手ェ貸そか?」
「頭崎、お前の出る幕なんぞないわ! こいつらごとき雑魚3人、1人で十分じゃい!」
「なんだとコラァ!」
「ぼくちんをナメると後悔するっぴょ!」
ひええ、やばい事態に……オレ一人じゃ止められそうにない。
「ちょっと、こんなところで何やってんのさ!」
「阿戸、近海! また何かやらかしたんじゃないだろうね!?」
良かった、しょーたと上中野先生も止めに入ってくれた。
そして相手にも……。
「遅れてすまんのぉ〜2人とも。ちょっとなあ、コレがなかなか手ェ離してくれんかったんや」
「まあ、クシジマくんはいつものことじゃから気にしとらん」
「クシジマくんはモテまくりで羨ましいのう」
なんなんだ……強面のハリーと頭崎とかいう2人が、あとから来た優男をくん付けで呼んでる。
そしてヤツらは何事もなかったかのように去っていった。
「あの3人……ハリー、頭崎、串島は優勝候補の一角、浪速筋高校の中心選手たちだよ」
いつの間にか傍まで来てた古池監督がボソッと教えてくれた。それにしてもハリーってあだ名じゃなくて本名なのかよ。
まあ、こんな出来事もあったけどリハーサルは無事終了……あとは開幕を待つのみだ。
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お知らせですが、3月からの更新は週3回(月・水・金)とさせていただきます
次回の更新は3月2日(月)です
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