第11話 執念
グワッシィーッ!!
「うわあああっ! またデカいのがああっ!」
「これは2者連続ホームラン来るか!?」
「ファウル!」
「イテテ! やっぱまだ両手が痺れてっけど、手応えもあったぜ〜!」
オレが同点ソロホームランを放って1−1に追いついた後、打席に入ったのは4番の阿戸さん。
相手エース楠元の内角へ食い込むナチュラルシュートをコンパクトかつ力負けしないスイングでへ鋭く弾き返して、ファウルにはなったがプレッシャーをかけると。
空振りを奪いにきた高速シンカーを待ってましたとばかりに強引にレフト方向へ引っ張り、大ファウルとなったのが今の状況だ。
打球がレフトのファウル側スタンドへと吸い込まれるまでは、両側の応援団からの歓声と悲鳴でベンチ内の会話も聞き取れないほど盛り上がってる。
それにしても、実際に甲子園でこの暑さに負けないほどの大声援を受けると、オレたち選手も不思議なくらいに力が湧いてくる。
地方予選序盤の無関心っぷりを思い返すと、本当に嬉しくてありがたいよ……だけどアルプス席は屋根が無いので休憩しつつ熱中症には気をつけてほしい。
まあ、他の高校は知らんがウチは5校とも希望者だけで、全校生徒を強制動員なんて真似はしてないから、暑さに弱い人は参加してないだろうけど。
ちなみに今日の連合チーム側スタンドは升田高校の吹奏楽部と急遽結成されたという応援団が華やかにしてくれている。
このあとも勝ち上がれば、離島で吹奏楽部がない御野ヶ島高校以外の4校が交代で応援団を送る予定だ。
さて、余談はこれくらいにしてバッターの応援に戻ろう。
「阿戸さん惜しい! でも次は変化球に気をつけて!」
阿戸さんは右手を上げて応えたけど、そろそろアレを出してくるかも……楠元がトルネードから右腕を勢い良く振り切る!
「これ以上絶対打たせん! えやあああっ!!」
「内角……今度こそブチ込む! オラァッ!!」
スカッ!!
あちゃー! ボールが届く前につんのめって空振り……あえなく三振を喫したのであった。
というわけで同点のままスリーアウトチェンジ。ベンチを出ようとするオレに戻ってきた阿戸さんがボソッと話しかけてきた。
「オージロウ! さっきの見たか?」
「はい。身体が見事に泳ぎながらバットがクルッと回ってました」
「それはどーでもいいんだよ! 楠元の最後のボールに決まってんだろうが!」
「そんな怒鳴らなくてもわかってますよ。いつもは相手打線の3巡目から出してくるっていう変化球、パラシュートチェンジでしたっけ」
「おうよ。実際に打席で見たら、初速から俺の手前に来るまでは全然ストレートと変わんなくて、そこから本当にパラシュートがついてるみたいに急減速しやがった。なんかさあ、まるでボールが止まって戻ったんじゃねえかって思うくらいに」
「そんな大袈裟な、ブーメランじゃあるまいし」
「……あとで自分の目で見りゃわかる」
おっと、ちょっと怒らせたかな。ここはフォローしておこう。
「ああ、だからあんなに早くスイングしてしまったのか。ヤツの球威に慣れてきた頃にあれ出されるとそりゃキツいっすね」
「……まあな」
「でも2巡目で出させたのは、それだけ阿戸さんが手強いって相手が認めたからっすよ」
「だよな。お前ならわかってくれると思ってたぜ〜!」
ふう、機嫌が戻ったみたいだ。オレ、前はこういうことを言えなかったけど……やっぱりずっとチームにいて喋ってたら自然とこの程度のコミュ力がついてくるってことかな。
それはともかくとして、オレは赤石高校打線を抑え込むだけだ。
◇
「うりゃああっ!」
ズバンッ!
「ストライク、バッターアウト!」
おっしゃ! 今日初めて166キロの高めのノビるストレートで三振を奪うことができた。
球威を抑え気味にして丁寧にコーナーを突く、打たせて取る投球を心掛けつつも時々高めに強く投げて勝崎さんが慣れるのを待った甲斐があったぜ。
それにずっと全力で投げるよりもメリハリがつくし……ある意味しょーたが突き指したおかげってことかな。
1−1の緊迫した接戦のまま6回裏に突入……全てを出してきた楠元をウチの打線も打ちあぐんでヒリヒリした膠着状態が続いている。
そして次の打者は1番に戻って、その楠元が右打席に入ろうとしている。
「……打つ。ここで必ずなぁ」
相変わらずぶっきらぼうな喋り方で挑発……だろうか?
だけど今のオレは相手が誰だろうが打たせない自信がある。ここも三者凡退でさっさと終わらせて、7回に入る前の休憩タイムをゆっくり堪能させてもらおう。
オレは低めにポンポンと2球続けてツーストライクと追い込んだ。
それじゃあお約束の真ん中高め、ノビてホップするストレートで仕留めてやろう!
「うりゃあああっ!!」
「弾き返す! 絶対にィ!」
楠元はいつの間にか投球する時のように背番号が見えるくらい上体を捻って……ボールを引きつけてから身体を戻す勢いを利用して強烈なスイングを見せる!
「えやあああっ!!」
バゴォーンッ!!
芯は外してる打球音……なのに無理矢理振り切ったバットからライト線間際へと強い打球が飛んで行く。
ヤバい、切れてくれ……。
「フェア!」
ちくしょう〜! ノビるストレートをギリギリまで引きつけて打つポイントを見極めて……強靭な下半身を最大限に使った打ち方をやられた。
そして打球は勢い良くフェンスまで転がっていって……追いついたライトがクッションボールを見誤ってもたついてる。
楠元は3塁へ猛然と走り込んでくる。送球が返ってきて……!
「セーフ!」
「うおあしゃああ! ついにランナー出たあ!」
「ここで勝ち越しちまえー!!」
また赤石側スタンドが凄まじい大声援を……気にしないとは言ってもやっぱりプレッシャーはある。
そして2番の中多はなんと。
バコンッ!
スリーバントスクイズ……オレのノビる高めストレートを狙ってきた。
正確にはバントの構えでバットを立ててハーフスイングで当ててくるという、一見ハチャメチャなやり方で。
でも相手はオレのノビるストレート対策を徹底して、それを必ず投げてくるタイミングをあえて待っていたのだ。
それに気づいた時には既に手遅れ……執念の勝ち越し点を許してしまったのである。
<あとがき>
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