プロローグ
「あぁ〜。やっと……ようやくの到着だ〜!」
「おおっ! なんか思ってたより全然でけぇし結構キレイじゃん!」
「街中で駅前なのに落ち着いた雰囲気なのもいいよね〜!」
オレたち連合チームの選手および女子マネ、監督たち一同は……7月末日の今日、遂に現地入りして宿泊施設までやってきたのだ。
そしてお世話になるホテルを実際に目の前にして、みんなもうちょっとした旅行気分ではしゃいじゃってる。
ちなみにホテルはオレたちや学校が予約したわけじゃなくて……各都道府県の高野連によって指定されるので選ぶことはできない。
昔は宿泊の受け入れは甲子園球場周辺の旅館が多かったらしいが、最近は兵庫県の神戸市と阪神地域、大阪府内各所とそこそこ広い範囲でホテルと提携しているみたいだ。
ウチの県も代表校は毎年ほぼ同じホテルに宿泊していて、その場所は兵庫県の宝塚市。
そう、あの『タカラヅカ』……宝塚歌劇団の本拠地なのである!
ちなみにこのホテルは阪急電鉄の宝塚駅のすぐ裏手にあるので、近くにある大劇場へ訪れるファンの御用達でもあるらしい。
で、どうしてここなのか……それは宝塚市の位置関係によるものだと思う。
まずは甲子園球場所在地……間違える人が結構いるのだが、大阪ではなくて兵庫県の西宮市。
そして宝塚市は西宮市の北隣に位置する都市で、要するに近いのだ。
のっけから余談が長くなったけど、早いところ部屋に入って身体を伸ばして休憩したい。
というのも今日の移動は地元からずっと貸切バスで移動して、休憩時以外はほとんど同じ姿勢が続いたので……。
まあ、ほとんどの代表校が恐らく同じ理由……荷物が多いという移動の都合や旅費などの事情でバス移動を選んでいると思うけど。
あっ、もちろん長時間にも関わらずオレたちを安全に送り届けてくれた運転手さんには感謝してるよ。
などと考えながらしょーたたちと喋っていたら、古池監督がみんなを呼ぶ声が聞こえる。
「えーと、みんな揃ってるよねー? それじゃ中に入るから、ちゃんと付いて来るように!」
「はい!」
「へーい」
というわけで引率の監督・先生たちに連れられてオレたちはホテルの玄関へと向かう。
その玄関には歓迎の立て看板が……オレの前を歩くしょーたがその内容を読み上げるのだが、これがちょっとした騒ぎになろうとは。
「えーと、『歓迎 全国高等学校野球選手権大会 大化・松花・埜邑・升田・御野ヶ島高等学校様』すごい、5校を全部書いてくれてる!」
「スゲー! こういうのをちゃんと気遣ってくれるとは……これが『おもてなし』ってか!」
「だけどよー、なんでウチが……松花が先頭じゃねーんだよ!?」
「あとでマジックで書きかえてやるっぴょ!」
「阿戸も近海も! 何を馬鹿なこと言ってんだい!」
「でもよーこの中で部員数一番多いのウチなんだぜー、上中野先生!」
「まあ、それはそうだけどね」
「あらまあ。そういうの言い出したら、合同練習でいつもグラウンドを提供してるのはウチなんですけど〜?」
「笹木先生! それよりもウチの校名、『工業』が抜けてんじゃん」
「あら。ほんまやねえ、田白くん。これは言わせてもらわんと」
「そ、それならウチは……升田は3人全員3年生なのに後ろの方なのはちょっとなあ」
「中地くん。全員というなら、御野ヶ島は自分一人で3年生……だが最後でも一向に構わない。参加させてもらえるだけありがたいからな」
「原塚はそれでいいかもしれんがなあ!」
「みなさん落ち着いて! ホテル側が書いた順番はただの偶然ですから! それにどうせ試合ではスコアボードに『5校連合』と表示されるのですよ?」
最後は離島の御野ヶ島高校の野球部顧問にして教頭先生の松笠先生がさすがの落ち着きで場を収めてくれた。
それにしても、みんな普段はそうでもない素振りなのに、実は自分たちの高校に結構愛着持ってるんだな……ふふふ。
そうそう、埜邑工業についてはあとで『工業』を付け足してくれたのでこの件は落着した。
◇
「ふあ〜! 昨日は晩メシが肉たっぷりで美味しかったし大浴場で疲れを癒して快眠……おかげで朝はクソすっきり目覚めた!」
「……俺はテメェのイビキのせいで寝不足だけどな、クソが!」
ああ、朝からクソな言葉の応酬になってしまった。
オレたちにあてがわれた部屋はツインルームでシングルベッド2台……つまり2人一組なのだが。
よりによって気難し屋の大岡とペアになるなんて……部屋に入ったら『お前はここから入ってくんな』とか勝手に領域を決めやがるし、正直いって気を使う。
いやしかし。地元に帰るまでには必ずヤツの領域を突破してやるからな……!
ちなみに女子マネたち……松花高校の泉さん、埜邑工業の鯉沼さんは上中野先生、笹木先生と一緒に女性4人組で和室の部屋を割り当ててもらっている。まあ、その方が保護者の人たちは安心だよね。
で、今日は早朝の散歩から始まる。
まずはホテルから近い阪急宝塚駅をくぐって駅前ロータリーに出ると、向かい合わせにJR宝塚駅が見えた。
お洒落な外観の両駅舎を眺めながらロータリーを下ると4車線道路へと出るので歩道をゆっくり歩いていく。
早朝でクルマが少ないので、まだ澱んでいない空気が気持ちいい。
そしてすぐ近くの宝塚大劇場まで足を伸ばすと、思っていたよりも広くて壮麗な建物に圧倒されてしまった。
特に女子は……泉さんと鯉沼さんは見えてきた段階から明らかにテンションが上がって、実際に目の当たりにすると何度も立ち止まってはしゃいでた。
さて、お目当てが終わったところでオレたちはいよいよ甲子園モードに意識を切り替えていく。
なぜなら午前中にいよいよ甲子園練習に臨むからだ。
なにせ指定された開始時間からわずか20分だけ……モタモタしてると折角の機会が無駄に終わってしまうので、事前に何を確認するかの優先事項を考えておかねば。
「なあオージロウ! お前も久しぶりに雛子さんに会えるの楽しみなんだよなあ!」
「……まあ、そうですね阿戸さん。あはは!」
今、唐突に話かけられたのは何のことかと言うと……。
『全国高等学校女子硬式野球選手権大会』に出場中の姉ちゃんたちのことについて。オレたち姉弟は揃っての甲子園出場を成し遂げたのだ。
で、一応説明しておくと。
女子の夏の選手権大会は出場校がまだまだ少ないので地方予選無しで全国大会から始まる。
兵庫県の丹波市と淡路島に別れてトーナメントを実施して、ベスト16から準決勝までは丹波市のみで試合を行う。
そして残った2校のみが決勝戦を甲子園球場で戦えるのである。
その決勝の試合は今日の午後から行われる。確かにもう半月ほど顔を合わせてないし、久しぶりに会えるのは嬉しくないはずがない。
でもすれ違いになりそうな予感……それに会えたとして、緊張しているであろう試合前に話しかけていいものかどうか。
まあ考え込んでも仕方がない。まずはしっかり朝食をとって、練習に行く準備をしないとな。




